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素晴らしい心の持ち主ですね!
[本当の意味を知る時]
若井side
ユリに「付き合ってるの?」と聞かれた時、俺は言葉に詰まってしまった。
涼架は慌てて否定していたけど、俺たちの関係は、ただの幼馴染というにはあまりに複雑だった。
そんな俺たちの姿が、若き日の祖父とユリの関係と重なって見えた。
ユリは、俺たちと話している時、いつもユウヤの方に視線を向けていた。
そして、ユウヤもまた、口ではユリをからかうようなことを言っていたけど、その瞳はいつもユリを優しく見つめていた。
「どうして…」
俺は、ユウヤにこっそり尋ねた。
「どうして、ユリに好きって言わないの?」
ユウヤは、俺の言葉に少し驚いた顔をした後、静かに笑った。
「言えるわけないじゃないか。ユリは、いつかこの町を離れて、別の場所で生きていく人間だ。そんな僕が、ユリにここにいて欲しいなんて言えるはずがない」
その言葉に、俺は、 胸を突き刺されたような衝撃を受けた。
ユウヤは、ユリとの別れが最初から決まっていたことを知っていたのだ。
だから、ユリに好きだと伝える代わりに、不器用な「ちょっかい」という形で、自分の気持ちを伝えていたのだ。
「好きって伝えられないからだ。本当に大切な人だから、傷つけたくないんだ」
祖父が残した日記の言葉が、今、俺の頭の中で一つに繋がった。
祖父が「さよならには、意味があるみたいなんだ」と書いたのは、ユリとの別れがただの別れじゃなかったからだ。
それは、ユリを想うがゆえの優しい「さよなら」だったのだ。
俺は、過去の祖父の姿を見て、自分の行動は祖父から受け継がれたものだと確信する。
涼架にちょっかいを出してしまうのは、好きという気持ちを素直に伝えられないから。
そして、涼架が音楽大へ行くことを知った時、素直に「行かないで」と言えなかったのは彼女の夢を壊したくないからだ。
俺が自分の道を突き進むことが、涼架との大切な時間を終わらせてしまうような、そんな引け目を感じていたのは、祖父と同じように未来を変えてしまうことを恐れていたからだ。
俺の心中で祖父と涼架とそして、俺自身が一つに繋がった。
俺たちは、みんな、不器用な愛を抱えている。
俺は、過去の祖父に一つだけ聞きたいことがあった。
「ユウヤは、後悔してない?」
祖父は、俺の問いに、穏やかに微笑んで答えた
「後悔なんて、あるわけないだろ。だって、僕は、運命の女神さまに最高の時間をもらったんだから」
その言葉に、俺は涙が溢れてくるのを感じた。
祖父は、後悔なんてしていなかった。
次回予告
[時を超えた共通点]
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