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外はもう肌寒い空気が吹いている。
11月の後半である。
津雲は正直疲れていた。外のベンチでため息混じりにコーヒーを飲んでいた。
津雲の前では陽キャ達がプロレスをしていた。「おら!首絞めじゃぁ!」「ぎゃー!」
津雲は勉強疲れで気分が沈んでいるというのに、こいつらときたら…。津雲は細目で見ていた。
津雲には医者になる夢ができた。
それは、八尾と美華が一生幸せでいられるために必死になって目指しているのだ。
八尾は少し陰気で地味な雰囲気だが、どこか守ってやりたい感情が芽生えてくる。が、今は守る側になった。津雲にとってそれは微笑ましいことだった。
親友として、それを祝福し支える。それ以外にすることはない。
津雲は医者になることを固く決意していた。
その頃八尾と美華は、廊下で会話をしていた。
「ねぇ八尾君…今度の休日私の家来ない?」
「え?」
「だって、そろそろ行きたいでしょ?私の家。」
八尾は家の前までは行ったことはあるが、中までは見たことがなかった。
「じゃあ、お邪魔しようかな……」
「やったー!じゃあ帰り校門前待ち合わせね!」
美華は小走りで去っていった。
八尾は小走りの理由もわかっていた。あまり心臓に負担がかからないようにしているんだ。そのため呼吸も皆より少し違う。
八尾は美華を守りたい感情がどんどんこみ上げてきた。
土曜日……
八尾はコートを来て美華の家へ行った。
美華の家に着くと、さっそく美華が待っていた。
「おはよう。っていってももう十時だけどね。」美華の言う通り、時刻は午前十時。
太陽は出ているものの肌寒い。
この頃気温が低くなりがちだ。コートが手放せない。
美華は家の中へ案内してくれた。
「さっ入って入って♪」
八尾は「お邪魔します」と言い美華の家に入った。
ラズベリーのような香りがした。これが女の子の家の香り……。八尾は変に緊張してきた。
すると、奥から美華の母が来た。
見た目からして三十代後半くらい。
「あら、いらっしゃい!まぁ、あらぁ〜カッコイイ…美華にはもったいないくらいじゃない〜。あらぁ〜どうぞ上がってって〜。」
歓迎された。カッコイイ?お世辞だろうか。八尾は靴を脱ぎ、床に上がった。
美華はなぜか裸足だった。この寒い時期に裸足とは、寒くないのだろうか。
「寒くないの?」八尾は反射的に聞いてしまった。細かいことが気になってしまう性分らしい。
「ん?寒くないよ!むしろ裸足気持ち良いやよ。八尾君も靴下脱いでいいんだよ。」
「いや、やめとく……俺寒がりだから……」
「ふぅ〜ん…そっか。おっけー。」
八尾は身震いした。女の子は皆こんなものなのだろうか。と八尾は思っていた。
美華の部屋に案内された。美華は八尾を押し込むように部屋に連れ入れた。
「ど、どうしたの?」
「今日ね…大事な話があるの……」
「ん?どうしたの?」
八尾は正座をして話を聞く体勢に入った。
「私ね……心臓病なの……それも、医者も原因がわからなくて、でも何かしらの異常がある事は確からしいの。」
八尾は少し間を開けて、
「……なんとなくそうじゃないかとは思ってた。」と言った。
美華は驚いた顔でこう言った。
「津雲君も八尾君も凄いなぁ…よく観察してる……」
「美華は誤魔化したけど、本当に心配だった。辛い時は隠さなくてもいいんだよ。あの時相談してくれてもよかったのに……」
「だって、言いにくいじゃん……」
八尾は信用されてなかったのでは?と思い、
こう言い放った。
「1人で抱え込まないでよ。もっと頼りにしてよ。」
すると美華は急に八尾の胸に飛び込んだ。
その時、目から水がこぼれるのが見えた。
耳を澄ますと、すすり泣く声が聞こえる。
「優しいんだね…八尾君…ありがとう…ありがとう……」
八尾はそんな美華の頭を優しく撫でてあげた。しかし、まさか泣かれるとは八尾も思っていなかった。
美華は安心したのだろう。気の済むまで泣いた。
今までの感情すべて流れ出たのだろう。
簡単に泣いた。八尾はなんか申し訳ない気持ちになった。