テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
51
*アイス*
*アイス*
11,019
-–
俺は、何かを失うことに慣れているつもりだった。
出会いがあれば、別れがある。
始まりがあれば、終わりがある。
そんな当たり前のことを、何度も経験してきた。
-–
でも。
-–
じんとのことだけは。
どうしても「仕方ない」で片付けられなかった。
-–
「はやと」
-–
名前を呼ばれて振り返る。
そこには、少し不機嫌そうな顔をしたじんとがいた。
-–
「何?」
-–
「何じゃない」
-–
「え?」
-–
じんとは俺を見る。
じっと。
逃げ道を探す暇もないくらい。
-–
「最近、俺に隠し事してる?」
-–
一瞬。
呼吸が止まった。
-–
なんで。
-–
どうして。
-–
こいつはいつも。
俺が隠したいところばかり見つけるんだ。
-–
「してない」
-–
反射的に答えた。
-–
でも。
-–
じんとはすぐに眉を寄せる。
-–
「今の間」
-–
「……」
-–
「絶対何かある」
-–
「考えすぎ」
-–
また同じ言葉。
-–
自分でも分かっていた。
-–
俺はいつも逃げる時。
「大丈夫」
「何でもない」
「考えすぎ」
って言う。
-–
本当は。
-–
一番考えているのは俺なのに。
-–
「はやと」
-–
「ん?」
-–
「俺には言えない?」
-–
その言葉だけは。
聞きたくなかった。
-–
違う。
-–
言えないんじゃない。
-–
言ったら。
-–
お前を苦しませると思った。
-–
-–
数週間前。
-–
俺は突然、遠くへ行くことを告げられた。
-–
期間は未定。
-–
戻れる保証もない。
-–
その話を聞いた瞬間。
-–
頭に浮かんだのは。
-–
家族でも。
仕事でも。
未来でもなく。
-–
じんとの顔だった。
-–
いつも隣にいる。
-–
くだらない話で笑う。
-–
時々、素直じゃなくて。
でも誰より優しい。
-–
そんな奴。
-–
-–
その時、俺は気づいた。
-–
俺は。
じんとを失うことが怖い。
-–
友達としてじゃない。
-–
もっと深い意味で。
-–
-–
「はやと」
-–
「……」
-–
「聞いてる?」
-–
気づくと、じんとは呆れた顔をしていた。
-–
「ごめん」
-–
「また?」
-–
「え?」
-–
「最近ずっとそれ」
-–
胸が痛む。
-–
じんとは怒っているわけじゃない。
-–
寂しそうだった。
-–
それが一番苦しかった。
-–
「俺さ」
-–
じんとが小さく言う。
-–
「何?」
-–
「何かあるなら言ってほしい」
-–
「……」
-–
「一人で決めないで」
-–
その言葉。
-–
俺には重かった。
-–
優しすぎた。
-–
-–
俺は昔から。
-–
誰かに頼るのが苦手だった。
-–
迷惑をかけるくらいなら。
自分で抱える方が楽だった。
-–
でも。
-–
じんとだけは。
-–
その考えを簡単に壊してくる。
-–
「じんと」
-–
「ん?」
-–
「もし」
-–
「うん」
-–
「大切な奴が」
-–
言葉を選ぶ。
-–
「突然いなくなるって言ったら」
-–
じんとの顔が曇る。
-–
「嫌」
-–
即答だった。
-–
「理由とか関係なく?」
-–
「関係あるけど」
-–
じんとは少し考える。
-–
「嫌なものは嫌」
-–
その答えに。
-–
笑いそうになった。
-–
本当に。
-–
こいつらしい。
-–
でも。
-–
同時に泣きそうだった。
-–
-–
帰り道。
-–
いつもなら別れる場所。
-–
でも。
-–
今日は足が止まらなかった。
-–
「じんと」
-–
「ん?」
-–
「もう少し歩かない?」
-–
「珍しい」
-–
「そんなに?」
-–
「うん」
-–
「何で」
-–
じんとは少し笑った。
-–
「はやとが帰りたくなさそうだから」
-–
また。
-–
見抜かれる。
-–
-–
夜風が冷たい。
-–
隣を歩くじんとの手が近い。
-–
あと少し。
-–
手を伸ばせば触れられる距離。
-–
でも。
-–
俺にはその資格がない気がした。
-–
もうすぐ離れる俺が。
-–
今さら近づいていいのか。
-–
-–
「はやと」
-–
「何」
-–
「今日変」
-–
「また?」
-–
「うん」
-–
じんとは立ち止まった。
-–
「何か言いたいことあるなら言って」
-–
静かな声。
-–
責める声じゃない。
-–
待ってくれている声。
-–
だから。
-–
逃げられなかった。
-–
「……ある」
-–
やっと言った。
-–
じんとの目を見る。
-–
「俺」
-–
喉が詰まる。
-–
「来月」
-–
「……」
-–
「ここを離れる」
-–
-–
その瞬間。
-–
じんとの表情から笑顔が消えた。
-–
「……いつ」
-–
「来月」
-–
「どれくらい?」
-–
「分からない」
-–
じんとは黙った。
-–
街の音だけが聞こえる。
-–
「分からないって」
-–
小さな声。
-–
「何」
-–
「どれくらい会えないか」
-–
「……」
-–
「いつ戻るかも?」
-–
頷く。
-–
その瞬間。
-–
じんとの目が少し揺れた。
-–
見たくなかった。
-–
その顔。
-–
「だから」
-–
俺は言った。
-–
「言えなかった」
-–
「……」
-–
「言ったら」
-–
「?」
-–
「今までみたいにできなくなる気がした」
-–
じんとは何も言わなかった。
-–
そして。
-–
俺は一番怖い言葉を口にする。
-–
「じんと」
-–
「……」
-–
「一ヶ月だけ」
-–
「俺の恋人になってくれない?」
-–
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝♡500
コメント
1件
みぅ🤍🥀だよ~。 第1話読んだよ。タイトルからして切ない…… 「大事な人だからこそ」言えないってのが、もう刺さる。 主人公の“じんとには言いたくないのに、じんとは気づいちゃう”って距離感、すごくリアルで苦しかった。夜道で隣を歩く手に触れそうで触れないシーン、めっちゃ心臓にくる……しんどいけど、すき。 最後の「一ヶ月だけ恋人になって」は本気で声出た。重いけど、ちゃんと伝えた勇気、尊いよ。続き、絶対読みたい。