テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#溺愛
高瀬船
934
#女性向け
常陸之介寛浩
840
黒猫ている
2,077
#ハッピーエンド
黒猫ている
502
「また、ウィンズロー商会は無理難題を言ってきましたね」
「卸している織物が高いって言うけど、うちとしては限界だわ。それに、麦なんて作らないで亜麻を増やせって言ってきたのよ」
「本当に何も分かっていない、銭ゲバですね」
「……魔法繊維は亜麻を大量生産すればいいわけじゃないって、説明しているんだけどね」
うちで生産している魔法繊維の品質は、国内でも一、二を争う良質なものだ。それで作る織物は、魔術師のローブや騎士のマント等に使われる。
生産量を増やすことは可能だけど、それが品質低下に繋がったら本末転倒だわ。魔法繊維は、我が領の生命線だもの。だから、これ以上は厳しいと伝えているのだけど、納得してもらえず協議が続いている。
「ウィンズロー商会が専売に近い状況がよくないですね」
問題点の核心をつくダリアに、そうねと頷きながら溜息をついた。
「価格競争が期待できない現状ゆえ、ウィンズローがつけあがるのでしょう」
「ええ、そう思うわ。この現状で生産量を増やしたら、領民が疲弊するだけよ」
「先々代までは各地の商会と取引をしていたとお聞きしてますが」
「そうね。家業を仕切っていたお母様が体を壊して倒れたことが大きかったわ」
父が代わって取引を進めたが、商売に不慣れだったことも影響して次第に販路を失い、没落の危機を迎えた。そんな我が家を助けて下さったのが、ペンロド公爵夫人だった。だから、我が家はペンロド家に頭が上がらないし、ペンロド公爵夫人が紹介してくれたウィンズロー商会との繋がりを切ることもできない。
過去をとやかく言っても仕方ないが、お母様が倒れられなければ……そう思ってしまう時もある。
カップの底に残る僅かな紅茶を見つめ、私はペンロド夫人と継母の後ろ姿を思い浮かべた。
ペンロド公爵夫人からのお手紙が増えのは、継母がこの家にやってきてからだ。それを、お父様は渡りに船だと言っていた。ペンロド家がさらなる後ろ盾となってくれる。そう思ったのかもしれない。
それからお父様は、家にいることがほとんどなくなったのよね。だから、お父様に代わってミルドレッドお姉様と、ダリアのお父様であるデール子爵が家業を取り仕切って、どうにか持ちこたえてきた。
商会との取引って大変なんだと、幼かった私でも分かるくらい、当時、家の中は混乱していたわ。
「ウィンズローはペンロド夫人の紹介でしたね?」
「ええ。だから、ウィンズローは強気に出られるの。でも、これ以上、魔法繊維の価格を下げるのは無理だわ」
本音をいえば、ウィンズロー商会との取引を減らしたいくらいだ。
「価格競争が起きればいいんですよね?」
「そうね。……西のドリス商会がウィンズローより好条件を出す、価格を倍にしてもいいから納品数を増やして欲しいとはいってるのよ」
「渡りに船ではありませんか!」
「そう簡単にはいかないのよ」
溜息をつくと、ダリアが眉をひそめて深く息を吸う。
「……西のドリスはフォスター公爵家縁の商会でしたね」
「そう。古い代では、うちの織物をずいぶん贔屓にしてくれていたわ。出来れば、私も関係を改善したいのだけど」
お姉様は、必死にドリス商会との繋がりを残してくださった。きっと、エヴァン王子の後ろ盾であるフォスター公爵様のことを考えてなのだろうけど。
今は、なんとかその繋がりを保っている状態。お姉様のことを思うと、もっと深い付き合いをしたいところなのよね。
「ドリスに鞍替えしても良いんじゃないですか?」
「そんなことしたら、それこそ、ペンロド公爵夫人の怒りを買うことになるわよ」
深いため息を零すと、ダリアは「新しい繋がりを持ちましょう」といい、視線を一通の手紙へ向けた。
送り主はローザマリア・ロックハート。何度もお茶会のお誘いをくださるロックコンサート家の当主である女侯爵様だ。
「ロックハート侯爵様は、いくつもの大商会と繋がりを持たれているとお聞きします。きっと、お力を貸してくれますよ」
「……お継母様に知られたら、裏切りだと言われるわ」
「でも、このまま断り続けるのは、ミルドレッド様のお立場にも影響します」
「お姉様のお立場……」
「お茶会を受ける口実は、いくらでも用意が出来ます。いい機会ではありませんか」
「……考えてみるわ」
私がしぶしぶ頷くと、ダリアはハッとしてドアを振り返った。
ややあって、バタバタと品のない足音が近づいてくるのが、私の耳にも届いた。そして、その足音と一緒に、これまた品性の欠片もない金切り声が聞こえてきた。
「──ルマ! ヘルマはどこだい!?」
廊下の向こうで繰り返される叫び声は、間違いなく継母のものだ。
ローザマリア様からの手紙を、そっと書類の下に差し込んで、私は息を整えた。
継母のことだ。また何か、無理難題を持ち掛けてくるのだろう。
コメント
1件
第7話、めちゃくちゃ重い展開だった……! ウィンズロー商会の理不尽な要求に加えて、継母のプレッシャーもあって、主人公の板挟み状態がひしひし伝わってきた。特にダリアとの会話で「ペンロドの後ろ盾を失うリスク」と「新しい繋がりを求める葛藤」がリアルで、現実の経営判断みたいでゾクゾクしたわ。お姉様の立場も気になるし、ロックハート侯爵夫人の手紙をどう使うのか、次が待ち遠しい🔥 継母の金切り声で終わるラストも緊張感あってよかった!