真剣そのものの顔つきで大きな声を上げたのはカエルの殿様、ゼブフォである。
「ナッキ王! ことはそう楽観出来る物では有りませんぞ! 考えても見てくだされ、万が一それ等と戦いになった場合、こちらから攻め込める勢力といえば我等カエルだけなのですぞ! ウシガエルは三十匹ほど、総数でも二百に過ぎないのですよ? 彼我(ひが)の戦力差は拮抗(きっこう)、そう見るべきですぞぉ!」
なるほど…… 相手の戦闘力が不明な状況である事を鑑(かんが)みれば、割かし的を射た意見に聞こえる。
だと言うのにナッキと来たら、聞いていなかったのか満面の笑顔を浮かべているではないか。
その顔を訝(いぶか)しげに見つめるゼブフォにナッキは言う。
「んだから心配要らないって言ってるんだよ、こっちから攻めなければ良いんでしょ? こっちに攻め込まれたら圧倒的に多数なだけじゃなくて地の利、砦(とりで)や城だってあるんだからさ! それに相手も陸上を移動できないかもしれないし、仮に出来てもワザワザこの『美しヶ池』を相手にしようと思わないでしょ、今僕たちって総数で万を越えているんだよ?」
ゼブフォはナッキの説明を聞くと先程のアカネ同様恥ずかしそうに返す。
「仰るとおりです…… 確かに相手にとってメリットがあるとは限りませんし、その化け物達が我々カエルのように陸上を移動できるとは思えませんな…… いやぁ、これは恥ずかしい所をお見せしてしまいましたな、てへへ」
「ね♪」
『あははは』
一気に和やかになった砦の中の休憩室には、アカネを含めた幹部たちの笑い声が響いた。
警備部の責任者、モロコのカーサとサムはこの場に居ないはずだったのだが、何故か二人の元気な声も聞こえる。
曰く、
「貴様何者だぁ! ここはナッキ王が治める『美しヶ池』だぞぉ!」
「怪しい奴! さては他国の間者だなっ! そこになおれ!」
だそうだ。
ナッキは笑顔で言う。
「またやってるよカーサとサムってば♪ あはは」
議長のモロコはバツが悪そうだ。
「いつまでたっても落ち着きませんで、困ったものです」
議長の言葉通り、カーサとサムは手下のモロコたちを指揮して衛兵ごっこをし続けているのだ。
この『美しヶ池』開国当初からずっとであり、この池に暮らす者には一種の日常となっていたのである。
良く飽きないね? 意地なんじゃない? そんな風に言葉を交わしていると、衛兵ごっこに飽きたのだろう、カーサとサムが休憩室に姿を現して幹部達に声を掛ける。
「アカネさん、ここにいると聞いて来たんですけどぉ、あれ? ナッキ様? 皆も居たんですかぁ! じゃ、丁度良かったですよぉ! なあサム」
「ああ、本当だなカーサ! おいっ! 貴様っ! キリキリ歩けっ!」
そう言ってサムが掴んでナッキたちの前に引っ張り出した場所に現れたのは、八本足に茶褐色の体、二つの大きな開閉式の爪を装備した、まあ判り易く言うと、先程アカネが言っていた悪魔であった。
悪魔は言う。
「お邪魔します、森の中の沼の方から来ました」
「あ、どうも」
『どうも』
悪魔が来たのだ。
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