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「へーじゃあ君たちのリーダーが僕に会いたい、そう言う話なんだね?」
「ええ、我等の長老が是非お会いして語り合いたいと申しておりまして」
「ふーん、何の話だろ?」
言いながらナッキは目の前に居る悪魔、いいや生き物をまじまじと見つめた。
――――見れば見るほど変わった生き物だな…… 種族名はザリガニとか言っていたけどぉ…… これ、八本足じゃなくて十本足で、一番手前の二本、所謂(いわゆる)前足が戦闘用になっているんじゃないかな? って事は戦闘種族、なのかな? んだけど話し方とかめちゃくちゃ礼儀正しいんだよなぁ~、取り敢えずその長老さんとか言うのと会うだけ会ってみようかなぁ~、僕より小さいらしいし…… うんっ、そうしようっ!
「判ったよザリガニ君、えっとぉ?」
「あ、私の名前でしたらランプと申します」
「ああ、そうなの? んじゃあランプ君、長老さんとやらに会うのは吝(やぶさ)かじゃあないんだけどさぁ、実は僕って陸上では呼吸とか出来ないんだよぉ! どうすれば良いのかなぁ、はてな?」
ザリガニ改め、ランプとやらは上体を屈め、何と無く恭(うやうや)しそうな感じのポーズを取りながら答える。
「ご安心下さいませ、『美しヶ池』国の王様、『メダカの王様』ナッキ様…… その様な事も有ろうと我が主、長老より言い付かっております故、私がご案内いたしますので早速森の中の池にお連れいたしましょう」
「おお、そうなんだね、だったら――――」
「お、お待ち下さいナッキ様!」
今すぐにでもザリガニのランプと共に森の沼を訪ねに出発してしまいそうなナッキを引き止めたのは、この三年間、常にナッキの傍(そば)に付き従い、時に厳しくまた時にはイエスマンとして行動の指針となるべく、言葉の粋(すい)を尽くして諌(いさ)めてきたモロコの議長、その名も『ギチョウ』であった。
「ん? 何なのギチョウ? 話したいって言ってるんだからちょこちょこっと行ってくれば良いんじゃないの?」
ギチョウはいつになく厳しい顔を浮かべて言う。
「いやいやいや、それは違いますぞぉ! ナッキ王、良く考えてくださいませっ! 会見を求めてきたのは森の沼の元首、長老殿なのですよ? 話したいと言っておきながら自身は本拠地から離れる事無く、あろう事か我等が君主、『メダカの王様』に対して、来いっ、と言わんばかりの要請等、聞き入れる訳には行きませんぞぉ! 礼を失して余りある、最早、無礼と言わざる得ない蛮行ではないでしょうかぁ? どう? 皆の衆、どうですかぁ!」
ふむ、聞いてみれば判りやすい事この上ないな。
会いたい、話したい、今直ぐだよっ! あ? そうなの? じゃあ会おうか? やったぁー! じゃあ来て! って事だもんなぁ~、ギチョウの言葉はめちゃくちゃ理解できるぞ、中々に失礼な申し出だな、こりゃ。
周囲に控えてナッキとランプのやり取りを聞いていた幹部たちも一気に色めき立ってしまった。
そりゃそうだろう、自分たちの王様を呼び付けられた事に気が付かされてしまったのだから仕方ないだろう。
騒然と仕掛けた場を静寂に戻したのは、相変わらず誠実そのもののランプ、ザリガニの言葉であった。
「それは皆様のお立場であればそう思われる事でしょう…… 我が主、長老もその事には心を砕かれて…… 自らこちらの池、『美しヶ池』ですか? ここを訪ねようとしていたのですが…… 申し訳ありません! 我等臣民がお留めしてしまったので御座いますぅ! 最早、自由に動き回る事も叶わない主の為にぃ、お、お迎えに上がってしまったのでぇ、ご、御座いますぅ~! うっうっうっううっ」
ナッキは固まりながら言った。
「ほらぁ、泣いちゃったじゃないどうすんの? ギチョウ…… 心配し過ぎだってぇ~、お隣さんに挨拶行く感じで話してくるからさっ! そんなに心配しないで待っていておくれよ、ねっ?」
「し、しかし――――」