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――佐藤美咲の視点――
「美咲ちゃん、今日も鈴木くんと一緒に帰るの?」
昼休み、クラスの女子にからかわれた私は、思わず顔を真っ赤にしながらも笑ってうなずいた。
「うん、たぶんね。迎えに来てくれるって言ってたし」
そう言って笑う自分は、たぶん誰よりも“恋をしてる女の子”だったと思う。
でも、その笑顔の裏側には、ずっとずっと胸の奥に沈んでる不安がある。
それは――
拓海のこと。
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幼稚園からずっと一緒だった、幼馴染。
家が隣で、朝は一緒に登校して、遊ぶときも何をするにも一緒だった。
中学のとき、初めて「恋愛」って言葉を意識し始めた時期に、周りの友達が冗談で言った。
「美咲と拓海って、将来絶対付き合いそうじゃない?」
それを聞いたとき、私は笑って「ないない!」って答えたけど、なぜか胸の奥が、ぎゅっと痛かった。
だってその頃、私の心はすでに――陽翔に惹かれていたから。
明るくて、自然体で、まっすぐで。
気づいたら目で追ってて、話すだけで嬉しくなってて――
気づいた時には、好きだった。
でも、言えなかった。
だって、私が拓海の隣にいるのが「当たり前」みたいな空気だったから。
みんながそう思ってるし、もしかしたら――拓海も、そう思ってたのかもって。
そんな空気を壊す勇気もなくて、ずっと何も言えなかった。
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「陽翔と付き合ってるって、拓海に話した?」
放課後、彼に話す前のこと。私はずっと悩んでた。
「うん、今日言った」
陽翔の言葉を聞いて、ホッとしたような、でもどこか苦しいような、不思議な気持ちだった。
「なんて言ってた?」
「“おめでとう”って。すげー笑ってたよ」
それを聞いて、胸がズキンとした。
あの笑顔は、本当に喜んでくれてる笑顔だったのかな?
分かってる。拓海は、自分の気持ちを表に出すのが下手な人。
強がるし、我慢するし、優しすぎる。
だから、あの「おめでとう」には――きっと、言えなかった“何か”が隠れてる。
私はその何かに、ずっと目を向けないようにしてた。
でも、本当は気づいてた。
拓海が、私を見る目が、誰かを見る目だったこと。
それでも、私は陽翔のことが好きだった。今も、大好き。
だけど、心のどこかで思ってしまう。
――陽翔と付き合うって、間違ってなかったかな?
――もし、あのとき拓海の手を取ってたら、何か変わってたのかな?
そう思ってしまう自分が、嫌だった。
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「ねぇ、拓海」
次の日の放課後、校門で彼を見かけた私は、つい声をかけた。
「ん? どうした、美咲」
「……ごめんね」
彼は少し驚いた顔をしたけど、すぐにいつもの穏やかな笑顔になった。
「何が?」
「分かんない。なんか、ずっと言いたかったの。ごめんって」
「……バカだな、美咲は」
そう言って笑う彼の目が、一瞬だけ悲しそうだった。
私は、それ以上何も言えなかった。
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そしてその数日後。
中庭のベンチに座る私の前に、意外な人物が現れた。
「佐藤さんって、鈴木くんと付き合ってるんだよね」
そう話しかけてきたのは――高橋優菜。
明るくて、女子の輪の中心にいる彼女が、今はどこか寂しそうな表情で私を見ていた。
「陽翔くんの、こと……本気?」
その一言に、私は思わず答えを詰まらせた。
本気だよ、もちろん。
でもその答えを言う前に、私の胸の中で「拓海」の名前がまた、静かに揺れた。