コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ジャッキー=ニシムラ(半裸)さんが無事に(?)お巡りさんに連行されたのを見送って、私達は旅館へ足を踏み入れることにした。その直前にフェルが何かを唱えた。なにか魔法を使ったんだろうけど、私にはよく分からないし悪いことはしない筈。
ちなみに私は今パタパタと空を飛んでる。事故を止めた時にサンダルも擦り切れてしまったし、予備を持ってくるためにわざわざプラネット号に戻るのも手間だしね。つまり、裸足のままだ。でも翼があるから飛べば良い。手間もかからないし邪魔にもならない。
「合衆国とは建築様式が違うんですね……」
「地域によって文化が違うからねぇ」
まさに和風のお屋敷みたいな旅館だ。建物の周りには警備のためかお巡りさんや武装した人が何人か見えた。なんだか申し訳ないけど、何か起きたら美月さん達の責任になってしまう。気を付けないと。
玄関口で従業員の皆さんが出迎えてくれたけど、その中に見知った顔が……。
「ティナさん、フェルさん。お待ちしていましたよ」
「朝霧さん?」
そう、朝霧さんだ。どうやら宿に先回りしていたみたいだね。
「ご活躍は聞きましたよ。日本人としてお礼を言わせてください」
「あはは、皆さんに心配をかけちゃいましたけどね」
「それでもです。ただ、怪我をしてしまったと聞いていましたが、どうやら大丈夫みたいですね」
「はい、フェルが治してくれましたから」
「日本の皆さんが簡単な手当てをしてくれたから治るのも早かったんですよ」
「治療に携わった皆さんに伝えましょう。喜んでくれる筈です。っと、このような場で立ち話もなんですから、中へ入りましょう。皆さんお待ちかねですよ」
「はーい。フェル、行こっか」
「はい!」
「「「いらっしゃいませ!」」」
朝霧さんに伴われて旅館へと足を踏み入れた。着物を着た女将さんを筆頭に皆さん和服で綺麗にお辞儀をしてくれる。うんうん、まさに日本だね。懐かしくて泣いちゃいそうだよ。
もちろん私もお辞儀をして、フェルも倣うようにお辞儀をした。いや、私は飛びながらだからお行儀が悪いかな?
先ずはロビーだけど、落ち着いた照明に柔らかそうな絨毯が敷かれている。調度品も落ち着いたものが多く、モダンな感じだ。いや、よく分からないけどさ。
ん、土足厳禁みたいだね。女将さんかな?着物を着た美人さんが私達に近付いてきた。
「ようこそ、やすらぎの里へ。当館の女将を務めております、朝霧 瑠美と申します」
えっ!?
「朝霧って……朝霧さんの!?」
「ええ、妻です。この旅館は妻の実家でして、身内贔屓にはなりますが信用できる宿ですよ」
多分、私達と交流がある朝霧さんの奥さんが居るから選ばれたんだろうなぁ。全く知らない地球人の宿よりはってことかな。
「お二人にはいつも主人がお世話になっております。いつの間にかとても逞しくなってしまって驚いてしまいましたわ」
瑠美さんは笑顔なんだけど、圧を感じる。これはあれかな、私のやらかしで怒ってるんだよね?土下座するしかないよね?
取り敢えず正座しようかと思ってたら、朝霧さんも笑顔を浮かべた。
「はははっ、妻を驚かせてしまいましたよ。ただ、どうやら妻は逞しい男も好みだったらしく……まあ、感謝していますよ」
「年甲斐もなくときめいてしまいましたわ。ふふっ」
「はっ、ははは……」
何だろう、生々しい何かを感じた。フェルも困ったような笑顔を浮かべてるし、これ以上はやぶ蛇だよね?
私達の様子に気づいたのか、瑠美さんの表情が営業スマイルに変わった。
「あらいけない、つい惚気てしまいましたわ。お二人をお迎えできたこと大変光栄に思います。宇宙の彼方からのお客様をお迎えするのは当館としても初めてのこととなりますので、至らぬところも多々あるかと思いますが、誠心誠意おもてなしをさせていただきますね。ささっ、先ずはお履き物を」
瑠美さんに促されてホバリングしていた私は、用意されたスリッパに着地した。真っ白でふかふか。
「ほら、フェルも。日本では屋内で履き物を脱ぐんだよ」
ちなみにアードは土足だ。リーフ人はどうだったかな。基本的に裸足で過ごしたいから土足厳禁かな?
フェルも私に倣って履き物を脱いでスリッパを履いた。あっ。
「気持ちいいですね、ティナ」
「触り心地が良いよねぇ」
一瞬だけフェルは僅かに眉を顰めたけど、直ぐに笑顔を浮かべてくれた。周りの皆さんも安心したのかほっとしてる。
まあ足先を覆うタイプだし仕方無い。
「ではお部屋にご案内させていただきますね」
「お願いします」
「私も滞在していますので、何かありましたらお気軽に。女将、あとは頼む」
「ええ、任せて」
朝霧さんと分かれて、瑠美さんの案内で私達はお部屋へとやってきた。
「わぁっ!」
「当館自慢のお部屋でございます。露天風呂付きで、眺めも大変よろしいと評価を頂いておりまして」
まさに和風のお部屋だ。畳敷きの広い空間を襖で何部屋かに分けてる。夕日に照らされた東京のビルや周りの森が美しく見える縁側には、椅子が用意されている。家具も全部木製、拘りを感じるよ。
「お召し物も御用意致しましたので、ご自由に」
浴衣だぁあっ!しかも……背中が広く開いてる。多分私達用に仕立て直してくれたんだろうなぁ。
「こんな素敵なお部屋を……ありがとうございます!」
「お二人は大切なお客様、少しでもご満足頂けたならば幸いでございます。また夕食などの御用意が出来ましたらお伝え致しますので、それまではどうぞごゆっくり」
瑠美さんは笑顔を浮かべたままお部屋を後にした。私達はスリッパを脱いで部屋に上がる。うーん、畳の感覚が懐かしい!フェルもお部屋に興味津々だ。
「この床は……不思議な感覚です」
「畳って言うんだよ。まあ、合衆国には無かったからねぇ」
周りに自然があるのも好印象だ。私達アード人はもちろん、フェル達リーフ人は自然の中に居る方が安心できて安らげるんだよね。多分種族的なものだろうけど、朝霧さんが頑張って手配してくれたのが分かる。トランクは難しいけど、日本政府にも贈り物を用意しないと不義理になるなぁ。
まあ、取り敢えず。
「フェル、先ずはお風呂に入ろっか」
露天風呂があるなら黙って入るべし。
『ブラボーよりアルファ!ブラボーよりアルファ!』
『こちらアルファ、どうした?』
『ゲストの宿泊地を特定したが、近付くことが出来ない!』
『アルファよりブラボー、日本の警備が厳重なのか?情報は仕入れている筈だが』
『いや、そうじゃない!物理的に近付けないんだ!』
『なんだと?詳細を』
『分からない!宿泊地周辺が半透明の膜のようなものに覆われているんだ!壁のように固くて先へ進めないんだ!』
『バリアのようなものか?宇宙人め、姑息な真似を。監視は可能か?』
『いや、無理だ。内部の状況がまるで分からない!』
『……仕方無いか。応援は回せん、チャーリーチームの脱出を最優先にしている。ブラボーチームはその場で待機しろ』
『ブラボー了解!くそっ、宇宙人めっ!』