カチャン。 後から静かにドアが閉まった音がした。
広い部屋なのにテーブルとソファーしかない無機質な空間には日和と洸夜の息をする音しか聞こえない。いつも堂々としていて、凛としている大きな身体が今は小さく背筋も曲がり萎縮しながらもしっかりと日和を抱きしめてくれている。
洸夜の「ごめんな」と、か細い声がスッと空間に吸い込まれた。
「大丈夫だから、気にしない――」
「馬鹿野郎! 大丈夫なわけないだろう!!!」
初めて見る洸夜の涙に驚いた。自分のためにこの透き通った綺麗な涙をながしてくれているのだろうか。確かに悠夜とは和解して仲直りしたが、やっぱり悠夜に触れられたことを思い出すとブッルっと身体が恐怖で震えてしまう。必死に抑え込んでいるのが洸夜にはバレてしまっているのかもしれない。なら、もうこの胸に飛び込んでしまおうか。自分を好きだと言ってくれるこの大きな胸に泣きながらすがりたい。淫魔だからとか細かいことは考えずに、好きだとかんじたこの気持をぶつけてしまおうか……
淫魔……フェロモン……
悠夜の言っていたフェロモンって。洸夜はフェロモンとかいうものを自分に使っているのだろうか。だから、こんなにも洸夜に抱かれると気持ちいいの?
「震えてる。……日和、俺に触れられるのも嫌か?」
「……ふぇ、フェロモンってなに?」
「あいつから何か言われたのか?」
「あんたも私に流し込んでっるって、なにそれ、すごい気持ち悪かった。なんも気持ちいとかない! 怖くて気持ち悪くてっ――……」
身体が震える、感情と共に溢れ出す涙が止まらない。もしも洸夜も使って自分の事を抱いていたとしたら。この洸夜に対する感情がフェロモンのせいだったのかと思うと、それが怖くて身体が小刻みに震えてしまう。
「馬鹿野郎!!! 好きな女に使うかよ! 確かに淫魔は女をその気にさせるフェロモンは出せるけど、俺は今まで一回もフェロモンをだしたことなんか無い。そんな精気を吸うために女を惑わすものなんて使わない。俺は日和しか抱きたくないんだから」
背中に感じていた温もりがぐるりと身体を回されぎゅうっと力強く大きくて広い洸夜の胸の中に抱きしめられる。
あぁ、なんて愛おしいんだろう。自分だってもう一生知ることはないと思っていた過去の真実が明かされ、動揺しているはずなのに洸夜は自分のことよりも日和を心配してくれている。洸夜に触れられて嫌なはずがない。むしろこうして優しく抱きしめてもらえると荒れていた心がだんだんと穏やかになっていく。
「あんたの事……嫌じゃないっ……」
「よかった……本当に俺なんかのためにあの場に残ってくれてありがとうな。日和が強がって側にいてくれたから俺は真実を知ることができた。本当は一刻も早く立ち去りたかったはずなのに……どうして、どうしてお前はこんなにいい女なんだよ。一生離さないからな」
ジリっと濃くなる空気はキスをされる予兆をあらわす。お互い涙で濡れた頬を包みあい唇を重ねた。もうこの唇しか日和の身体は受け入れてはくれない。温かくて優しい唇に包み込まれてフッと今までずっと気を張っていた身体から力が抜け落ちた。ガクンと膝から崩れ落ちる。
「っと、日和大丈夫か?」
崩れた日和を洸夜はしっかりと抱きとめた。
「ご、ごめん。なんだが気が緩んじゃったみたい……」
「謝ることじゃない」
身体から骨が無くなったように力の入らない日和をひょいと持ち上げソファーに背をつけた。日和に覆いかぶさっているのは洸夜だ。悠夜じゃない。でも、どうしてもフラッシュバックしてしまう。あの時の恐怖が。男の人の強い力で抑えつけられたことが、憎しみの感情をぶつけられたことが、ハッキリと蘇る。
「抱いて……」
洸夜に抱かれたい。隅から隅まで洸夜に愛されたい。あの深い愛情に満ちた綺麗なブラウンの瞳に見つめられたい。
洸夜の首に腕を回ししっかりと抱きついた。
「ん……ん……」
引き寄せ合うように唇を重ねる。どうして洸夜とのキスはこんなにも身体が溶けそうになるくらい気持ちいいんだろう。悠夜と仲直りしたとはいえ、された事は記憶から消えない。悠夜のされたおぞましいキスを思い出してしまいバッと唇を離してしまった。日和の異変に気づいた洸夜は優しく日和の頬を撫でる。
「日和、俺が全部塗り替えてやるから安心して俺に抱かれて。俺の腕の中ではなにも余計なことは考えなくていい。俺だけを感じろ、な?」
真っ直ぐに熱い視線で見つめられる。
「ど、どこ触られたとか聞かないの……?」
「聞かない。そんなこと口にしなくていいだろ? 俺が日和の身体全部を消毒してやるから、いい」
優しさがツンと鼻の奥に染み、目頭が熱くなった。何も不安がることなんてない。この男に全てを委ねよう。
そう思うとふと身体の力が抜け気持ちが楽になった。
「こんなに噛み締めて……血は止まったみたいだな」
日和の切れた唇を覆うように唇で包み込まれる。柔らかくて温かな温もりがまるで治癒効果でもあるんじゃないかと思うくらい唇に痛みを感じない。
優しく優しく啄まれる。傷つけないように気をつけてくれていることがひしひしと伝わってくる。上唇を丁寧に舐められ、下唇を優しく吸い尽くされた。
「あ……ん……んぅ……」
呼吸を交わす合間に漏れるとろけた声、まさかこんなにキスだけで感じてしまう日がくるなんておもってもいなかった。キスを繰り返すうちにお互いの息がどんどん上がっていく。腕を洸夜の背中に回し、強く抱きついた。この男から離れたくない。
「日和……好きだ」
唇からゆっくりと下に這うように移動し、ツツーッと洸夜の柔らかな舌が日和の首筋を這う。細く線を書くような刺激に思わず身を捩った。好きな人に触れられるってこんなに気持ちよくて幸せなんだ。
「日和の匂い、大好き」
ドクンと鼓動が大きく波打った。好きと言われて嬉しくて、大好きと言われて泣きそうになる。嬉しいのに泣きそうになるなんて恋とは不思議な感情だ。
舌先が身体から離れバチンと目が合う。洸夜の瞳は優しく細まるが、その瞳の奥は熱お帯びていたのが日和にはすぐに分かった。
大切なプレゼントをゆっくり開けるように日和の服のボタンが外されていく。一つずつ丁寧に、それが逆に恥ずかしくて顔を横に向けた。
はらりと脱がされ日和の砂糖のように白い肌があらわになり、洸夜は体重をかけないように気を使いながら日和を抱きしめた。肩に蹲る洸夜のブラウンの髪が頬に当たる。
「ん……」
首筋にチリっと痛みが走り、キスマークを着けられたと気付かされた。けれど日和は俺のもの、と表されているきがして嬉しくて、もっと、もっと着けてほしい……
「あっ……」
洸夜の手が胸に触れた。そっと触れ、撫でるように全体を揉みしだく。マッサージをうけているような、そのくらい優しい。優しすぎてなんだかもどかしい。日和をこんな淫らな身体にしたのは洸夜だ。もっと、もっと欲しい。
「……じ、焦らしてるの?」
恥ずかしいながらも精一杯の言葉だった。
洸夜は一瞬驚いた顔を見せたが、直にいつもの強気な態度の洸夜に戻り、くすりと小さく微笑んだ。
「俺に早く抱かれたいの?」
……当たり前じゃない。一刻も早く悠夜の痕跡を消してほしい。洸夜でいっぱいにしてほしい。
「日和?」
……言わない。言わないけど、分かってよね。
洸夜の首に腕を回し自分からキスをした。これで分かるでしょう?
恥ずかしくて自分でも分かるくらいに顔が赤面している。そんな顔を見られたくなくてそっぽを向いた。
「まじで、可愛すぎ。もう抑えらんねぇよ」
そっぽを向いていた日和の顔を洸夜は両手で包み込み正面を向かせた。欲情に滾った洸夜の顔がよく見える。
「ちゃんと俺に抱かれてるってしっかり見ておけ」
真っ直ぐに見つめられ身体の奥底からジワジワと何かが湧き上がってくる。熱くて、甘い何かが。
洸夜はネクタイをしゅるりと外し、ベストもシャツも剥ぐようにして脱ぎ捨てた。スーツの下の引き締まっ身体が眩しくて直視できない。
「駄目。ちゃんと目をそらすな」
ぎしりとソファーがしなり、その瞬間唇が重なった。胸もやわやわと揉まれている。
「ん、……んっ……」
甘い声が徐々に増えていく。抑えようがないくらいに気持ちが良い。
「日和を初めて抱いた時のことを思い出すな。日和とのセックスは全部覚えてる。ほら、もうこんなに乳首固くして、俺の事待っててくれてる」
下着をいつの間にか外されて二つの膨らみが揺れた。洸夜のいう通り胸の先端は早く刺激してほしいといわんばかりに固くなっている。キュッと指で摘まれビリっと軽い電気が身体を流れた。
「可愛い。日和は乳首も甘くて飴でも舐めてるみたいだ」
胸の頂きを口腔内に含みコロコロと本当に飴玉を食べているように転がす。右を舐めては次は左と交互に洸夜の頭が胸元で動いている。日和は膝を擦り腰を揺らしていた。腰に感じる重苦しさがもどかしくて堪らない。もどかしくてどうにかなってしまいそう。
「腰動いてる。今触ってやるからな」
洸夜の右腕が太腿を撫でながら伸びてくる。スルリとスキニーパンツを脱がされ一緒にショーツまで抜き取られていた。柔らかな内側をまわし撫でなかなか触って欲しい場所まで辿り着いてこない。日和のもどかしさはどんどん溜まっていくばかりだ。
もう、欲しい……そう言いそうになるまで焦らされた所で洸夜の指が日和の秘溝に触れた。触れただけなのに腰が浮きそうになるくらいの衝撃だった。
全然違う。あんなに悠夜に触られ痛かったのに、洸夜に触れられると蕩けるような感覚で甘い蜜が溢れ出してくる。
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