第14話
あらすじ
二人は医師から今まで通りのミセスの活動は難しいと説明を受けた。
三人を待ち受ける未来とは…
⚠️attention⚠️
⚠️今回のお話では、せん妄により大森が混乱するシーンがあります⚠️
大変 ダークな雰囲気なので、注意してください。
可哀想な大森が苦手な方、今回のお話は大森がとにかく可哀想です。
“特に!!” 注意してください
それでは…行ってらっしゃい!!
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14-1 〜夢の世界〜
医師の診断では、大森は今まで通りの活動が難しいという事だった。
さらに、今すぐの復帰も叶わないだろうと伝えられる。
少なくとも、1年の猶予が必要なようだ。
二人は 医師から話を聞いて、最後に大森の顔を見ようと思ったが面会時間を過ぎていた。
仕方なく二人とも病院を後にする。
タクシーを待っている間、藤澤が提案する。
「この後…どうするか僕たちの意見だけでもまとめない?」
若井も頷くと、藤澤に本心を漏らす。
「ていうか…今日、一人で居たくない…かも」
藤澤が、若井の様子を伺う。
「そうだね、僕の家来る?」
若井は無言で頷いた。
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二人はタクシーで、藤澤の家に向かった。
到着する頃には、どっとした疲れが身体を重くさせる。
二人とも特に、会話もしないで靴を脱いでリビングに向かった。
若井は まるで自分の自宅の様に、リビングのソファに ドサッと座る。
そんな若井に、藤澤が聞く。
「なんかご飯食べる?」
若井は首を振る。
「今、本当に食欲ない」
藤澤は心配になって、若井を見つめる。
今日は 体力も心も、沢山使ったはずだ。
何かは食べさせないと
「お粥みたいなのも、あるからさ」
藤澤が、冷蔵庫を開けると鶏白湯味のお粥を取り出す。
藤澤も 食欲がない時は、良くこれを食べる。
藤澤は それを2分程、レンジで温める。
暖まるのを待っていると、若井が後ろから近づいてきた。
藤澤が、振り返ると言う。
「あ、座ってていいよ」
しかし若井は ふらふらと寄ってくると、ぎゅっと藤澤に抱きついた。
藤澤は一瞬驚いて、目を見開いた。
しかし、すぐに藤澤も背中に腕を回す。
そして、そっと抱き返した。
若井が、抱きつきながら涙声で言う。
「涼ちゃん…
涼ちゃんはずっと一緒にいて、 お願い」
藤澤は心が、苦しくなった。
唇を噛み締めて、涙を堪える。
「なに、言ってんの…当たり前でしょ
ずっと一緒にいるよ」
藤澤が さらに強い力で抱きしめると、若井が嗚咽を漏らす。
「…う゛、ぅ゛」
呼吸の音が 徐々に早くなると、堰を切ったように若井が泣き出した。
藤澤も釣られるように、涙が零れる。
「若井、辛かったね…頑張ったね」
藤澤が頭を撫でると、 若井が腕の中で頷く。
「こ、怖かったっ!!
元貴死んじゃうかもって!! 」
藤澤は頷きながら、若井の頭を撫でる
「そうだね… 」
若井はしばらく、不安を吐き出すように泣き続けた。
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ー大森入院から3日後ー
二人は、あれから大森に会いに行けていない。
ミセスの今後の方針を固めるのに、時間を取られていた。
その代わりに 大森の母が、毎日写真を送ってきてくれる。
写真の中の大森は、首と足にギブスを巻いている。
痛々しい姿に心が苦しくなる。
しかし、笑顔でピースをしている表情には救われた。
今、ミセスのチームは混沌そのものだ。
ミセスの要となっていた、大森が動けない。
“休止” 以外の選択肢はなかった。
実際 昨日 歌番組の収録があったが、それも見送りになった。
今日の昼には、その知らせが大衆に発表されるはずだ。
理由は明記せずに “出演見送り” のみ
確実に波紋を呼ぶだろう。
しかし今、ミセスチームが頭を悩ませている事。
それは、休止の理由とその休止期間についてだ。
はっきり、マンションからの転落と伝えてしまえば勘付かれてしまう。
少し濁して、転落事故と言う明記でも若干匂う。
結果、チームが導き出した文言は
“事故により大森が負傷、それにより暫くの休養が必要である”
しかしチームは “当面の間、活動休止”という 文言を使うことを、恐れていた。
そうなると、期間を設けない休止が2回目になってしまう。
これはファンの不安を、激しく煽ることになる。
恐らく 以前の休止の時とは、比べ物にならない程の大荒れを巻き起こすだろう。
しかし どう足掻いても10年の間に二回休止すると言う事実は、もう動かせない。
安定感のないグループ
大森の才能が尽きた
そんな印象は、どうしても付いてしまうだろう。
それでもチームは どうにか大森やメンバーに責任が向かないように
“原因は事故による怪我” という事を、大衆に印象づける必要があった。
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ー大森入院から4日後ー
若井と藤澤はやっと時間が空いたので、大森に会いに病院へ向かっていた。
若井は いつものハーブティを持っていこうが悩んだが、辞めた。
これも大森を追い込んだ、一つの原因なんじゃないかと若井は思っているからだ。
病院に着くと、二人は受付に向かった。
受付の女性に名前と、病棟を伝えると面会の札を渡される。
前回と違って、柔らかい雰囲気の女性だ。
「面会は2時間くらいを目安にお願いします」
にこっと微笑みながら言われる。
二人とも返事をして、病室に向かう。
大森の病室は4階なのでエレベーターに乗り込む。
若井は 久しぶりに会えると思うと、胸が高なった。
エレベーターが到着したので、右側に進む。
藤澤が、そわそわでした様子で若井に話しかける。
「…ちゃんと、元気にしてるかな」
若井は答えずに、ただ頷いた。
廊下をしばらく歩いていると、叫ぶような声がする。
二人はなんだろうと思って歩いていたが、それが大森の声だと気づいた。
「元貴…!!」
若井はそれに気がつくと、廊下を走り出した。
藤澤が服を引っ張って止める。
「ここ病院!!危ないから!!」
そういうと、藤澤は早歩きで足を進める。
病室に近づくにつれ、叫び声が大きくなる。
なんて言ってるのか、聞き取れない。
でも、ただ事では無いことは分かる。
藤澤は自分で言ったのに、つい耐えられず駆け足になった。
病室の前に大森の兄が立っている。
藤澤が駆けつけると、声を掛けた。
「お兄さん!!」
大森の兄が振り返る。
動揺を隠しきれない様子で、藤澤の名前を呟いた。
「涼ちゃん…」
若井が病室の中へ入ろうとするのを、兄が止める。
「若井くん、待って」
若井が振り返る。
兄が首を振った。
「今は、出てた方がいい」
若井は困惑しながら、病室の中を覗く。
すると大森がまるで子供の様に、腕をバタつかせて叫んでいる。
中にいる女性の看護師が 怪我をしないように、机や点滴を遠くに移動させている。
若井には、何が起きているのか分からない
しかし、とにかく大森を助けないと言う義務感で頭が埋まる。
「も、元貴…!!」
踏み出そうとしても、兄が腕を掴む。
若井は泣きそうになりながら、兄に縋った。
「な、なに、なんで?
元貴どうしたの!?」
兄は、少し震えながら答える。
「せん妄ってやつらしい」
若井はただ言葉を繰り返した。
「せん妄…」
それが、何が分からない。
若井は余計戸惑っていると、医師と看護師が早歩きで病室に向かって来ている。
医師が 三人の隣を足早に通り過ぎて、病室に入っていく。
看護師は、三人に素早く言った。
「面会の方、ここでお待ちください」
大森は まだ暴れている。
むしろ人数が増えた事で、さらに混乱が加速したようだ。
大森が枕を手に取ると、叫びながら医師に投げた。
医師はそれでも、冷静に看護師を見ると質問する。
「前、薬いつ打った?」
看護師がすぐに答える。
「2日前にドルミをルートから入れてます
少量ですが、効きは良かったです」
もう一人の看護師が、通る声で話す。
「今は、ルート抜けてます」
この会話の最中にも、大森の興奮状態が治まらない。
「うるさい!どっかいけ!!邪魔すんなっ!!」
大森が叫ぶ。
医師が頷くと、看護師に指示する。
「なるほど
なら セレ1本、筋注で入れる
抑えて」
看護師達は頷くと、大森の身体を力ずくで押さえつけた。
大森の身体がベットに押さえつけられる。
大森の顔が、恐怖で歪むと叫ぶ
「いたい゛!!」
しかし、看護師は手を緩めない。
大森はとうとう、半狂乱になって叫んだ。
「や゛、や゛だ!!殺され゛る!!」
大森がベットから落ちそうになるので 医師が、それを必死に抑える。
三人がかりで抑えつけられている 大森を見て、若井は耐えられず呟いた。
「な、なんかやりすぎじゃ…」
藤澤も複雑な表情で、大森の様子を見ている。
医師の切迫した声が聞こえる。
「もっと抑えて!」
看護師の二人が、ほぼ乗っかる様に大森の身体を抑え込む。
大森は、苦しそうに唸る。
「や゛、た、すけて゛!ゔぇーえ゛!!」
あまりに悲痛な大森の声に、若井は耐えられず一歩近づく。
その時、大森の目が若井を捉える。
充血した瞳から、涙が零れる。
そして叫んだ。
「わ、かい!!わ゛かい!!」
若井の脳が震える。
助けに行きたい
でも、医師のやっている事だ。
間違っているとは言いきれない。
それに大森の暴れ方を見ると、これしか方法が無いような気もした。
若井は、耐えられず目を逸らした。
医師が、筋肉注射を太ももに刺す。
看護師は 大森が落ち着くまで、まだ抑えている必要があった。
大森が、ばたばたと暴れる。
声を枯らしながらも、叫んだ。
「ゔぇー!ごめんな゛さい!!ゆるして゛、 やめ゛て!!」
しかし、徐々に鎮痛剤が聞いてきたのか。
身体の力が抜けていく。
大森の瞳が、曇るように混沌としていく。
看護師は、やっと大森の上から降りた。
二人とも汗だくだ。
今度は看護師が、二人掛りで大森の身体を上向きにする。
大森は、完全に力が抜けていて 虚ろな瞳で天井を見つめた。
看護師の一人が、大森の腕を掴む。
「ルート、再度確保します」
しばらく、看護師と医師で大森の様子を確認する。
看護師がモニターを見て、報告した。
「SpO₂ 96、呼吸は安定してます」
医師が、大森のお腹を強めに叩く。
「大森くん、聞こえる?」
医師が呼びかけると 目線だけを動かして、声をする方を見た。
医師が続けて、指示をする。
「手、握ってみようか」
大森は 薄く唇を開いただけで 手を握らない。
「目を閉じてみようか」
大森は、ぼーっとして医師を見続けた。
医師は頷くと、言う。
「うん、言誤反応が低いね。
巡回頻度、増やして貰えるかな
もし急に意識が沈むようなら、連絡して 」
医師は テキパキと指示すると、もう一度大森の様子を観察する。
そして 頷くと看護師達に言う。
「じゃ、よろしくね」
医師は振り返ると、こちらに向かってくる。
そして、病室の前で待っている三人に声をかけた。
「今は薬で興奮を抑えられています
無理に話しかけなくても大丈夫だから
そばにいてあげると、安心すると思いますよ」
医師は、藤澤と若井をみる。
「今のは せん妄と言って、脳が疲れちゃって起きるんです 」
藤澤は、こくこくと頷いた。
若井は完全に、放心状態になってしまっている。
医師が続けて説明する。
「事故のあとは、特に起きやすいかな
現実と夢がごちゃっとしてしまう事があって…
暴れたりするのも、その一つです
時間が経てば落ち着いてきますよ」
そういうと ぺこりとお辞儀をして廊下を歩いて行った。
若井は、医師が立ち去るとすぐに病室に入った。
看護師が そそくさと、部屋を元通りに戻す。
それが終わると、ぺこりとお辞儀をしながら出ていった。
若井もお辞儀を返す。
若井は 震える身体を、落ち着かせるようにそっと息を吐く。
怖がらせたら行けないので、若井は笑顔を作った。
ベッド脇の椅子に座ると、大森の姿を見つめる。
大森は 少し口を開いて、ぼーっとして天井を見つめている。
眠そうにも見える。
「もとき」
若井がそっと、名前を呼ぶ。
大森は口を閉じると、瞬きをする。
大森の瞳がゆっくりと、若井の方を見る。
若井は 椅子を寄せて、ベットに近づくと手を ふわりと握った。
大森の目が微かに優しくなる。
「わかい…」
大森が少し舌足らずな口調で話す。
「また来たの?馬鹿だね」
若井は目を見開いた。
この言葉
確信は持てないが、若井は続けてみる。
「今日は…雨降ってないよ」
若井がそういうと大森が笑う。
「じゃ、学校行かないとだね」
若井は震えながら、息を吸った。
懐かしさと切なさで、息が詰まる。
学生の頃、 大森は学校に行きたがらなかった。
とくに、雨の日は絶対に外に出てこなかった。
だから、若井は晴れている日は毎回こう言って外に連れ出していた。
今、元貴は中学の頃の元貴なんだ
そう思うと、心がぎゅっと痛んだ。
ミセスの事を一時的でも、忘れてしまっているんじゃないかという寂しさ。
しかし 若井にとって、あの時間は宝物だった。
その元貴がいる、嬉しさもある。
若井は、どうにか笑いかえす。
しかし、瞳からは涙が零れた。
震える声で言う。
「元貴…ごめんな、俺のせいだ 」
大森が、心配そうに若井を見つめる。
若井は、震える手で大森の頬を撫でた。
「 俺、約束したのに
何があっても守るって…」
若井は言葉を最後まで言えずに、嗚咽をあげた。
耐えられずに、顔を伏せる。
大森の手が、若井の頭を撫でる。
暖かくて優しい、元貴の手だ
「また…悪口言われたの? 」
若井の嗚咽がさらに、大きくなる。
「そんな奴ら、ほっときな
俺が全部、倒してやるよ」
コメント
16件
うわ大好きです!!!! 見てる途中、中学時代の大森さんのところで涙目になりました(;;) 続き待ってます!!
学生時代の大森さんになっちゃった、今までのお話でトップクラスで泣きそうになりました🥲
大森さん、辛い時どうか乗り越えて!