1年1組 教室
朝の教室で、静かにドアを開ける音がする。
「…おはようございます」
私、「篠宮 玲奈」はそう小さく呟く。
「おはよう、篠宮さん」
優しく低い声で返してくれたのは「相良 慧」。
このクラスの担任の先生であり、国語教師だ。
…そして、私の好きな人だ。
優しくて、清潔感があり、包容力がある。
気がついた時には好きになっていた。
けれど…
「おはよー、相良せんせ!」
「おはようございます!先生っ!」
…が、先生はすごく人気な先生なのだ。
私みたいなネガティブ思考で内気で地味な女が相手されるわけもなく。
ほぼ唯一関わりがあるのは…
「篠宮さん、今日の委員会のことなんだけど、今いい?」
先生は私の入っている『図書委員会』を担当している。
そのため会話することもあるのだ。
それでも雑談したことすらないが…。
まず先生と付き合えるとすら思っていないので半分諦めている。
図書室 18時
「ふぅ…委員会の仕事、やっと全部終わった」
貸出された本をしまったり、次のイベントのポスターを作っていたらいつのまにかすっかり日が暮れてしまっていた。
昇降口が施錠される前に帰らなければいけないため、急いでカバンにペンケースなどをしまう。
すると
『ガチャッ』
と音が鳴った。
「え?」と反射的に振り向くとそこにはベランダから出てくるタバコを手にした相良先生がいた。
「あれ、まだいたんだ」
こちらをまっすぐ見つめながら、少し不思議そうな顔でそう呟く。
「あ、はい!ちょうど委員会の仕事が終わったところで…!」
突然現れた先生を前に、慌てて答える。
「あ、タバコ…」
先生が『やらかした』そんな顔でぼそっと呟いた。
タバコを吸っていることを、生徒には隠していたのだろう。
実際私も今初めて知ったのだ。
「た、タバコ吸われるんですね…!」
緊張しながら捻り出した言葉だ。
「ああ、昔から吸っているんだ」
「…引いた?」
どこか悲しそうな表情で私にそう問いかける。
生徒にバレてしまったことを気にしているのだろうか。
それに、いつもと話し方が違う気がした。
「い、いえ!」
緊張しつつもそう答える。
実際驚きはしたが、引きはしていない。
「…そっか」
「もう帰っていいよ、仕事終わったんでしょ?」
そう話す声は、いつもの話し方に戻っていた。
やはり喫煙者であることを隠したかったのだろうか。
「じゃあ、また明日」
軽く会釈をしながら図書室を出る。
いつもと違う先生に少しドキドキしながら昇降口へと繋がる階段を駆け降りた。
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