テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ボイスチャットには、いつも甘いものが似合う声が響いていた。
「ねえ、とーますくん。今日の企画、赤色がちょっと強すぎたと思わない?赤は、プリンの金色と喧嘩しちゃうよ」
あーけんは、ふわふわとした声で、企画の配色について真剣に語りかけてきた。彼女の「自分らしさ」は、独特の感性と、時折見せる情緒不安定さだった。その感性のズレが、「勘違いする方が悪くない?」という彼女の口癖を生み出し、周りから理解されにくい「困り事」となっていた。
とーますは、優しく笑った。彼は色覚異常を持っている。そのため、彼女の言う「赤と金色の喧嘩」という感覚は理解できなかったが、彼女の感性そのものを否定することはなかった。
「そうだね、あーけん。プリンの金色は特別だ。でも、赤が強いと、甘いカヌレを先に食べたくなる気分にはならないかな?」
とーますの「困り事」は、自分が見ている世界が、他の人と同じではないという、身体的なズレだった。その不安は、彼の「無気力なニート」という殻を固くしていた。
あーけんは、とーますの色覚異常について知っていた。そして、彼女は、彼が見ている世界を否定するのではなく、彼女の感性で彼の世界を理解しようとした。
「なるほどね!赤色は、『早くここから逃げなきゃ!』って気持ちにさせる色なんだよ。だから、逃げた先にプリンの金色があると安心するけど、カヌレの甘さで誤魔化したくなるんだね」
あーけんは、とーますの持つ「困り事」を、彼女の独自の「感性」という新しい「見方」で言語化してくれた。彼女にとって、色の感覚は「逃げたい気持ち」や「安心感」といった感情と直結していたのだ。
とーますは、自分の持つ「身体的な欠陥」が、あーけんの感性を通して、「感情を理解するためのツール」という「すてきな個性」に変わるのを感じた。
「ありがとう、あーけん。君の『見方』のおかげで、俺のプリンももっと美味しく感じるよ」
今度は、あーけんが少し困ったように言った。「ねぇ、とーますくん。私、時々、急に全部が嫌になって、誰も私のことなんて理解してくれないって思っちゃうんだよね。カプチーノを無限に飲んで、美術館で泣きたくなっちゃうの」
彼女の抱える「困り事」である情緒不安定さを、とーますは否定しなかった。彼は、彼女の言葉を、無気力な自分が感じている「孤独」と重ね合わせた。
「大丈夫だよ、あーけん。君のそういう気持ちは、君が誰よりも正直に、世界を感じている証拠だ。勘違いする方が悪くない。誰も君の感性を責めたりしないよ。俺は、君の感性が作った世界が好きだから、ずっと『味方』だよ」
とーますのその言葉は、あーけんの不安を鎮める最高のカプチーノになった。彼女の「自分らしさ」である繊細な感性は、とーますの身体的な弱さを理解という力に変え、とーますの優しさは、彼女の不安定さを安心感という居場所に変えた。
ニート部という場所は、彼ら二人にとって、「自分のズレ」を「愛される才能」に変え、互いを補い合う「みかた」を見つけるための、甘くて優しい空間だった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!