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すみれ

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すみれ

17 - 第17話

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2025年06月28日

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ある日、放課後の図書室で。静かにページをめくる音と、机に落ちる陽の音だけが聞こえる空間。

すみれが突然、小さな声で言った。


「……私、絵を描くの、好きなんだ」


私は少し驚いて、顔を向ける。


「え? そうだったの?」


「うん。誰にも言ってなかったけど、

 小さい頃から、夢の景色とか、心に残ったものを描いてて」


すみれは、照れくさそうに笑った。

でもその笑みは、どこか決意のようなものを含んでいた。


「ねえ――あなたの写真、見せてくれない?」


私は少しだけ戸惑ったけれど、

カメラの画面を開いて、最近撮った写真を見せた。


夕暮れに染まる校舎。

雨上がりの道端に落ちていた菫の花。

窓越しの逆光に浮かぶ誰かの背中。


すみれは、画面をじっと見つめていた。

まるで、一枚一枚の奥にある時間に触れるように。


「……やっぱり、好きだな。

 この視線。あなたが見てる世界、ちゃんと写ってる」


私はうれしくて、でも少し恥ずかしくて、視線を逸らした。


「もしよかったら、その写真……絵にしてもいい?」


「え?」


「あなたが撮ってくれた景色を、

 私が描いてみたいの。

 ふたりでひとつのもの、作ってみたいなって」


その提案に、胸がじんわりとあたたかくなった。


「……うん。描いてほしい。

 すみれの手で、私の世界を残してくれたら……すごくうれしい」


すみれは小さくうなずいて、

そのとき、ほんの少しだけ、頬を染めた。


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