テラーノベル
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IRIS防衛学園の朝は、軍隊式の起床ラッパと共に、無機質な静寂を切り裂いて始まる。
午前6時。僕は、首の後ろのチップが発する微かな電子音で目を覚ました。
隣のベッドでは、いふくんが「……ん、あと五分……」と布団を被り直している。
その隙だらけの姿を見るたび、僕の胸には「罪悪感」という、スパイには不要な感情が澱のように溜まっていく。
身支度を整え、いふくんを半ば強引に引き連れて向かった食堂には、既にいつものメンバーが集まっていた。
桃.彡「あ、ほとけくん! おはよう。こっちの席空いてるよ」
ないこさんが、朝日を背に完璧なリーダーの笑顔で手を振る。
その隣には、山盛りの白米を前にした悠佑さんと、眠そうにコーヒーを啜る初兎さんの姿があった。
水.彡「おはようございます、ないこさん、初兎さん……悠佑さん」
僕が椅子に控えめに座ると、悠佑さんがガハハと笑って、僕の背中を力強く叩いた。
黄.彡「おう、ほとけ! ちゃんと食わんと、今日の演習でバテるぞ。ほら、この唐揚げも食え」
水.彡「あ……ありがとうございます、悠佑さん」
悠佑さんは、出会ったばかりの自分を「ほとけ」と呼び捨てにし、まるで本当の弟のように接してくれる。
その屈託のない厚意が、今の僕には何よりも苦しかった。
白.彡「ほとけくん、顔色えらい悪いなぁ。まろのいびきがうるさくて眠れんかったん?」
初兎さんが、瞳を細めて覗き込んできた。柔らかな関西弁の響きとは裏腹に、その視線は鋭い。
水.彡「……いえ、そんなことないです、初兎さん。いふくんは、静かに寝てましたから」
白.彡「ふーん。ならええけど。自分、嘘つく時、左の眉がちょっと動く癖あるな。……まぁ、緊張しとるだけやろけど」
初兎さんの言葉に僕の心臓が跳ねた。
この学園の人間は、誰もが「観察」のプロだ。一瞬の油断も許されない。
午後の戦術講義が終わり、夕闇が廊下を侵食し始めた頃。
僕が一人で資料室から出ると、そこには赤い髪を揺らし、窓の外を眺めているりうらさんの姿があった。
水.彡「……あ、りうらさん。お疲れ様です」
赤.彡「やっほー、ほとけくん。待ってたよ」
りうらさんは、ゆっくりとこちらを振り返った。
その瞳には、夕日の赤とは違う、獲物を狙うような冷徹な光が宿っている。
水.彡「……僕に、何か御用ですか?」
赤.彡「んー、別に? ただ、俺、ほとけくんのこと、もっと知りたいなーって思ってさ」
りうらさんが一歩、距離を詰めてくる。
彼は僕の耳元に顔を寄せ、囁くように言葉を続けた。
赤.彡「俺さ、嘘ついてる人間を見分けるのが得意なんだよね。……ほとけくん、君、この学園の誰とも違う匂いがする。……硝煙と、冷たい鉄の匂い」
りうらさんの「嘘」という言葉が、僕の中で重く響く。
赤.彡「今度、放課後に俺と『特別訓練』しない? 二人きりでさ。……君が何を隠してるのか、俺が全部暴いてあげるよ」
僕は、言葉を失った。首の後ろのチップが、警告の熱を発する。
りうらさんは、僕の反応を楽しむようにクスクスと笑うと、「じゃあね」と軽く手を振って去っていった。
(……バレてる? いや、まだ確証はないはずだ。でも、このままじゃ……)
深夜2時。寮の部屋は、いふくんの規則正しい寝息だけが支配していた。
暗闇の中、僕の首の後ろが、鋭い痛みを発した。
_____『指令。対象:if。端末内の防衛データを抽出せよ。制限時間は30分』
脳内に直接響く、母国のオペレーターの冷徹な声。
僕は音を立てずにベッドから抜け出し、床を這うようにしていふくんのデスクへ向かった。
デスクの上には、いふくんのノートパソコンがある。
僕は震える指で、首の後ろの皮膚の下から、極細の有線コネクタを引き出した。
これは、僕の体の一部であり、あらゆる電子機器をハッキングするための「触手」だ。
(……ごめんなさい、いふくん。これさえ終われば……)
コネクタをパソコンのポートに差し込む。
視界に青いプログレスバーが浮かび上がり、データの抽出が始まった。
10%、20%……。 静寂の中、ハードディスクが回る微かな音だけが、僕の耳には爆音のように聞こえた。
30%、40%……。 その時、背後のベッドで、いふくんが大きく寝返りを打った。
青.彡「……ん、……ほとけ……?」
いふくんの掠れた声。僕の全身が凍りつく。
僕は咄嗟にパソコンの画面を伏せ、コネクタを隠しながら、床にうずくまった。
水.彡「……あ、……いふくん。……お水、飲もうと思って……」
心臓が口から飛び出しそうなほど激しく打っている。 いふくんは、半分眠ったような目でこちらをぼんやりと見た。
青.彡「……なんや、……驚かすなや。……さっさと飲んで、寝ろよ……」
いふくんは再び目を閉じ、深い眠りへと落ちていった。 僕は、数分間そのまま動けずにいた。
冷や汗が床に滴り落ちる。
50%……80%……100%。 抽出完了。
僕は震える手でコネクタを抜き、自分の首へと戻した。 任務は成功した。
けれど、僕の心は、かつてないほどの恐怖と罪悪感に支配されていた。
(……いつか、本当にバレてしまう。その時、僕は……)
暗闇の中、僕は自分の冷たい手を見つめた。 いふくんの寝息が、今は何よりも恐ろしい凶器のように感じられた。
長…い?丁度いい?
どっちにしろ頑張りましたので、!!!褒めろ!(?)
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