テラーノベル
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彼の腕に抱かれ、心からの安心感に包まれた僕は、気が付くとそのまま深い眠りに落ちてしまっていたようだ。
次にゆっくりと目を覚ますと、すぐ隣には、僕の顔をじっと見つめている彼の姿があった。
「……じゅう、目、覚めたん?」
「うん……」
「大丈夫? ……まだ身体だるかったりしたら、ここでゆっくりしててもええんよ?」
暗い暗闇をすべて吐き出したあとの僕を、彼はまるで壊れやすいガラス細工でも扱うかのように気遣ってくれる。
「大丈夫。ありがとね」
心配そうに眉を下げる彼の顔を見て、今度は本当に大丈夫だよと伝えるように、僕は優しく笑いかけた。
「そっか。でもほんま、無理せんでな?」
どこまでも優しくて、僕のすべてを全肯定してくれる彼。
こんなの、好きになる以外の道なんて、最初からどこにも残されていなかった。
「しゅん、好き」
まだ少し掠れた小さな声だったけれど、今度は誤魔化さず、しっかりと彼の目を見つめて伝えた。
「もぅ…じゅうーーー!! 」
言葉が終わるか終わらないかのうちに、しゅんは子犬のように僕に勢いよく飛びついてきた。
「……俺も、ほんま、愛してるで!!」
そうして甘えてきたかと思えば、今度は耳元に顔を近づけ、鼓膜が痺れるような色っぽい低い声で愛を囁いてくる。
感情の高低差がすごすぎて、僕は思わず吹き出してしまった。
「ちょ! なに笑ろてんねん!!」
「だって、しゅんって表情がころころ変わって面白いんだもん!」
「なんか、めちゃくちゃ馬鹿にされとる気もするけど……じゅうがそうやって笑ってくれるなら、もうなんでもええわ!」
そう言って、幸せそうに笑う彼の顔が眩しくて、僕は「ああ、自分は今、本当に幸せなんだ」と心から実感していた。
「ねえ、しゅん。……もう一回、温泉行かない?」
「おぅ! ええなぁ! 貸切風呂行こうや!!」
「いく! 空いてるかなー!」
部屋を出てフロントで確認すると、今回はいくつかある貸切風呂のうち、岩風呂のみが綺麗に空いていた。
「まじツイてるじゃん!」
「ほんま! じゅうといると良いこと沢山やわ〜、ふへへっ」
「ふふ、ほんとハッピーなやつだな」
「えへへ〜」
そんな風にいつもの調子でおどけながら脱衣所に入り、自分の浴衣の帯に手をかける。
――けれど、その瞬間に、さっき部屋で打ち明けたばかりの「あの凄惨な過去」の記憶が急に脳裏をよぎり、指先がピタッと止まってしまった。
服を脱げば、あの醜い、穢れの象徴だと思い込んできた脇腹の傷が露わになる。
すべてを話したあとだからこそ、何となく裸になるのが怖くて、僕は下を向いたまま脱衣所の真ん中で立ち尽くしてしまった。
ガタガタと震えそうになる僕の様子に、しゅんはすぐに気がついた。
彼は何も言わず、僕の頭をぽんぽんと優しく大きな手で触ると、そのまま僕の腰元へと手を伸ばし、僕の帯をそっと滑らせるように解いていく。
するりと、結び目が解ける。
浴衣の前がはらりと左右に開かれ、僕の剥き出しの身体が空気に晒された。「っ、……」襲ってきた羞恥と恐怖に、僕は咄嗟に開いた浴衣を両手で強く掴み、身体を隠そうと身を縮こまらせた。
だが、浴衣を掴んでいた僕の強張った指先は、しゅんの温かい手によって、優しく、けれど拒ませない強さで一本ずつ丁寧に解かれていく。
再び、僕の素肌が浴衣の隙間からのぞいた。
「じゅうは、綺麗やなぁ」
そう呟きながら、彼の手によって、僕の肩にかかっていた浴衣が床へと吸い込まれるように、はらりと落ちていく。
身に纏っていた下着も、すべて彼の大きな手によって優しく脱がされ、ついに僕の身体を隠すものは何一つなくなった。
恥ずかしさなんかじゃない。
僕の過去の傷痕を、すべてを知った彼に改めて見られてしまうということへの恐怖心。
拒絶されたらどうしようという不安が混ざり合った、複雑で、息の詰まるような感情。
僕は耐えきれなくなって思わずしゅんに背を向け、その場に小さくしゃがみ込んで、自分の膝を抱えるようにして必死に身体を隠した。
汚いものを見せないように。
けれど、しゅんはそんな僕を見捨てなかった。
彼は何も言わず、無防備に丸まった僕の後ろ姿を、背後からそっと包み込むように抱きしめてくれた。
ピタリと重なるしゅんの肌が驚くほど温かい。
「さぁ! じゅう、温泉行くで!」
しゅんは僕の細い肩をしっかりと支え、優しく立ち上がらせると、僕の歩調に合わせてゆっくりと大浴場の方へと歩き出した。
過去の事件に怯える僕を置いていかない、いつも通りの「変わらない彼」の存在が、今の僕には言葉にできないほど心強かった。
「わぁ、岩風呂もええなぁー!! ほら、じゅう、手!」
湯気の向こう、立派な岩組みの温泉を前にして、しゅんが僕のほうを振り返って真っ直ぐに手を差し出す。
僕は差し出されたその大きな指先を、まだ少しだけ遠慮がちに、おずおずと掴んだ。
すると、しゅんはそんな僕の手を安心させるように、今度は骨がきしむほどぎゅっと強く繋ぎ直してくれた。
繋いだ手のなかで、彼の親指が、僕の手の甲を優しく愛おしそうになぞった。
to be continued…………
コメント
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しゅんちゃんやさしくてもう涙