私
の名前は、エアリス・エルフィンストーン。
かつてこの国で魔術師をしていた者だ。
今はもう引退して余生を過ごしているのだが、先日とんでもない事件が起きてね。
とある少女を保護して欲しいという依頼を受けたのだ。
なんでも彼女は異世界からやってきたらしい。
詳しい事情はまだ聞いていないが、かなり危険な状態にあるらしく、一刻を争う事態だとか。
それを聞いた瞬間、私は思わず声を上げてしまった。
「え!? 今からですか?」
目の前にいるのは、つい先日この村に来たばかりの行商人さんだ。名前は……そう! モウルさんだわ!! 私が住んでいる村は、とても小さな農村よ。村の人たちは皆仲が良くて、平和でのんびりした毎日を過ごしているの。私の名前はリーシェっていうんだけど、小さい頃からずっと同じ家に住んでいる幼馴染がいるの。その娘が今度結婚することになってね、今日はそのお祝いのために朝から色々と準備をしていたら、ちょうど良いタイミングで村長さんのところへ行っていたお父さんが帰ってきたの。そしたらね、なんとその人を連れてきちゃったんだよ!? それで、なぜかその人がうちに来ることになっちゃって……。えっと……どうしてこうなったんだろう? とりあえず、その人を家に案内してみたけど……うん、やっぱり落ち着かないよね。だって、こんな田舎の家に知らない男の人が来るなんて思ってなかったもん。しかも若いし、カッコイイし、なんか変な感じだよ〜。それにしても……本当に変わった服を着てるよね。黒い生地の上着とズボンに白いシャツを着ていて、腰には剣を下げているみたいだけど……あぁっ! よく見ると靴まで真っ黒じゃない!? これじゃまるで全身が真っ黒の服に身を包んでいるようなものだわ。一体どういうことなのかしら? 不思議に思いながらも私は彼にお茶を出してあげた。最初は遠慮していた彼だったけれど、喉が渇いていたらしくすぐに飲み干してしまったわ。どうやらかなり緊張していたようで、ほっとした様子で息をつく姿がちょっと可愛かったかな♪ しばらく世間話などをした後、いよいよ本題に入ることになった。村長さんからは「この村にある伝説について調べに来たそうだから協力して欲しい」と言われたんだけど……正直言って困っちゃうよねぇ。まさか、あの『魔王』の伝説を調べるためにやって来るだなんて思わなかったもの。私が生まれる前に一度起きたっていう事件以来、ずっと封印されていたはずなのにね。一体どこから来たんだろうか。そもそも『勇者様』って誰のことだろう? そういえば、さっき名前を聞いていなかった気がする。
「あのぅ、あなたの名前は?」
「あっ、申し遅れました。僕の名前はアベルと言います。実は旅をしている途中で立ち寄った街でこの国の貴族の方々から歓待を受けていまして……それで今夜はこの城に泊めさせてもらおうと思っています」
「そうですか、それならばこちらへどうぞ。ご案内致します」
「あぁいえ、大丈夫ですよ。場所さえ教えてもらえれば自分で行きますよ?」
「ふむ、確かにそれもそうなのですが……よろしかったら私が部屋まで送りましょうか? これでも城には詳しいものですからね」
「本当ですか!? 助かります! えっと、じゃあお願いできますか?」
「もちろんですとも。では参りましょうか」
―――――――――
「ありがとうございます。本当にここまで送っていただいてすみません」
「気になさらないでください。それにしてもアベル様は
とてもしっかりしていますね。まだ成人もしていない子供なのに」
「そ、そうですか……」
「あぁ、もう本当に面倒臭い奴だったよ」
「……」
「ん?どうかした?」
「いえ、なんでもないです!」
「ふーん、あっそうだ!ねぇねぇ」
「はい?」
「僕さ、君の名前聞いてなかったよね?なんていう名前なのか教えてくれないかな?」
「えっとですね……私の名前は……」
(……私の名前は?)
「あれ?おかしいですね。なんででしょう?」
「どうしたの?」
「わからないんです。思い出そうとすると頭が痛くて……」
「私の夢はあなたの夢!あなたの願いは私の夢!」
「私がこの世で一番美しいと信じているものは?」
「私の夢はあなたたちの夢!あなたたちみんなの夢よ!」
「私の名前は……」
「私にはあなたが必要なの」
「私の夢はあなたへの愛だわ」
「私を愛してくれるあなたが欲しいからよ」
「私はあなたを決して裏切らない」
「私は誰よりも強い」
「私はあなたを守る」
「私はあなたの一番になる」
「私はあなたのために生きる」
「私はあなたのために戦う」
「私はあなたを愛する」
「私はあなただけを見ている」
「私はあなただけの女」
「私はあなたのものだから」
「私はあなたを幸せにする」
「私はあなたを癒やす」
「私はあなたを満足させる」
「私はあなたの全てを受け入れる」
「私はあなたのためなら命だって惜しまない」
「私はあなたに尽くす」
「私はあなたと共に歩みたいのです! 例えそれがどんな茨の道だとしても!」
この世界で生きていこうとする意志を持つ者ならば、誰もが一度は抱いて当然の願望。ただそれだけのことを言葉にするだけで、なぜこんなにも勇気がいるのだろうか。しかし、少女にはもう迷いはなかった。彼女の前には今、一人の少年の姿がある。強く気高く美しい勇者と呼ばれた青年の姿を。そして彼女は願っていた。その願いこそが自分がここに在る意味なのだから。そう自分に言い聞かせるようにして、彼女は自らの想いを口に出すことができたのだ。
「……俺もお前と一緒に行きてぇよ。だけど駄目なんだ。俺はここで止まっちゃいけねぇんだよ……」
「どうしてですか!?」
「俺は罪人だ。裁かれるべき人間なんだぜ?」
「それでも構いません!!」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!