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「晴翔、キッカーはおまえだ」
拓真さんの言葉に、表情が遅れて反応をあらわした。目を見開き、口もぽっかりと開けてしまう。
「俺、そんな……自信ないです」
自分でも、声がぼそぼそと小さい、と思った。でも、これ以上ハキハキ喋ることはできなかった。俯き、足もとの芝を見る。芝がぽつりと抉れていた。身を縮こまらせて、そこに隠れたい衝動に駆られた。
既に後半のアディショナルタイムに突入していた。
俺がペナルティエリア内でファールを受けたことによって得たペナルティキック(PK)だ。ここでゴールを決めれば、勝てる。勝てるのだが、……キーパーは、水沼だ。
「何やってんだよぉ! 早く蹴れよぉ!」
相手チームの選手が野次を飛ばす。
「ビビってんじゃねえよ、オラ」
低くねちゃついた声は水沼だ。気温は三十度近いはずなのに寒気を覚えた。
審判が目線でペナルティキックを蹴るように合図をした。
「晴翔、怖いか?」
穏やかな口調で拓真さんが尋ねてきた。
「まあ、怖いよな。ゴールを決めれば勝利、だが外すと……。チームの明暗を分けるキッカーを任される訳だから、心臓に毛が生えていても蹴る瞬間は不安にかられる」
頷いた。俺の心理をまさに言いあらわしている。拓真さんが空を見あげた。今日、三度目だ。
「俺も怖い」
天を仰ぎ見たまま拓真さんが唾を飲み込んだ。喉がゆっくりと隆起する。
「俺は決められないだろう。朔太郎が蹴っても、仮に退場した幸成が蹴ったとしても結果は同じだ。外す」
拓真さんが顎を沈めるように視線を平行に戻した。俺と目が合う。
「ここで決めることができるのは、瑞奈と、――おまえだけだ、晴翔」
「ど、どうして俺が。瑞奈なら納得ですが」
「瑞奈は、……別格だな」拓真さんが含み笑いをする。「でも、おまえも、別格だ」
「俺が……ですか」
静かに拓真さんが頷いた。「別格だ。いや、別格になりつつある、と言った方が的確か。おまえには俺達が持っていないゴールへの嗅覚がある。練習で磨けるものではない。嫉妬するくらいの才能だ。だが、……おまえはその能力を無意識のうちに自身の殻の中に押し込んでいる。勿体ない。晴翔、その才能を殻から出せ」
「殻から……出す」
「俺達には、おまえの才能が必要なんだ。殻を突き破ったゴールへの嗅覚が、今求められ、そして優勝するためには不可欠だ。だから出すんだ。発揮しろ、おまえの才能を。ゴールを奪え」
どくん。
大きく胸が高鳴った。腹の底が身体の奥が全身が、熱くなっていく。そのくせ妙なほどに冷静さが頭頂から降りてくるのが分かった。視界がクリアになっていく。耳が微かな風の揺れを感知する。心地よい風が吹いた。
「蹴らせてください」
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