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ゴドファンスが私に仕えてから五日が経った。
あれからすぐさまフレミーがプレゼントしてくれた布を用いて全員分の寝床を製作した。
そう。全員分だ。元はホーディやゴドファンスのように私の体よりも大きく寝床が使用できない子達用だったのだが、ウルミラから自分の分も欲しいとせがまれたのだ。
ならば、ということで全員分の寝床を作った。布の量は潤沢で、全員分作り終わった後でもまだ私の服を二、三着作れるほどの量が残っている。フレミーは今後も布を作ってくれるそうなので、必要に応じて有難く使わせてもらおう。
この五日間、何も寝床を作っていただけというわけではない。
というか寝床自体はたとえ全員分とは言え、一番大変な布を織る作業が終わっているのだ。全員分の寝床を作るのに一日も掛からなかった。
布を縫い合わせる糸はフレミーが用意してくれたし、糸を通すための針は、”光の剣”の応用で作り出せた。
私の身体から離れてエネルギーを込めることが出来るのだ。”光の剣”を私の体から離しても維持できるように意識してみたところ、成功してしまったのだ。おかげで寝具の完成までの時間が大幅に短縮できた。少し寂しかったが、その日は全員自分の寝床で眠ることになった。
話を戻すが意識を覚醒させてから二日目以降、何かと日を跨いで作業をしていたり、朝目を覚ましてから直ぐに勧誘に向かったりとで、これまで全くやっていなかった力のコントロールの訓練を行っていた。
レイブラン、ヤタール、ウルミラからは遊んでいるように見られていたのが少し釈然としなかった。これは君達と触れ合うためには必要なことなんだよ?
その他にも、ラビックとホーディに稽古をつけてもいる。
始めたのはラビックの要望からだったが、それを見ていたホーディが自分にも稽古をつけてほしいと言い出したのだ。
まとめて相手取っても構わないのだが、如何せん彼らの体格差は大きい。互いに手合わせする仲ではあったが、連携という意味では経験は無いと言って良いだろう。一体ずつ稽古をつけている。
私が稽古をつけていない時は2体で手合わせをしているようだ。
そう。このラビックとホーディ、やはりかなり親しい関係だった。ラビックが挑んでいたのも、殺し合いではなく、強さの競い合いといったところだろう。
彼らがお互いの動きを知り、連携が取れるようになったのなら、二体を同時に相手取っても良いと思う。尤も、それができるようになるのは、まだ時間が掛かりそうではあるが。
他の子達はというと、レイブランとヤタールは気ままに森の空を飛びまわっているようだ。あの娘達が言うには、自分達の日課らしい。特に強いエネルギーの所有者だったり、珍しい相手には積極的に襲い掛かっているのだとか。
珍しいという相手を詳しく聞いてみると、そのほとんどが森の中に入ってくる2本足で行動する生き物とのことだった。
おそらく人間か、それに近い種族が森の恵みを享受しに来たのだろう。
この森は広い。多少外から来た者達が森から素材を調達したところで、これといって問題は無いだろう。問題があるのならその都度対処しよう。聞いた限りでは、あまり関心が沸いてこなかった。
そういえば、魚を凍らせる際に、ヤタールが[意志の力だけで事象を発生させすぎだ]と言っていたな。
他に事象を発生させる方法があるのだろうか?あの娘達の使っている空気の刃は、私の方法とは違うのだろうか?時間があったら聞いてみよう。
ウルミラはウルミラで気ままに広場を走り回っている。彼女が言うには、平らな場所を思い切り走り回れるのが楽しくて仕方がないらしい。気持ちは分かるけれども、飽きてこないのだろうか?
そういえばウルミラは私が訓練に用いている果実のオブジェクトを見て、遊んでいると思っていたな。今度、ウルミラに木か石で球体でも作って渡してみよう。走る以外の遊び道具になってくれるといいな。
道具と言えば、食事関係の道具をいくつか作っていた。木製、石器、両方、気分によって変えている。
ゴドファンスが塩を持ってきてくれたおかげで、私達の食生活がかなり充実したものになった気がする。といっても、相変わらず食料は果実と魚だけなのだが。
味覚に私と皆で大きく差があったのは意外だった。私にとってちょうどいい塩加減の物を他の子達に食べてもらったら、漏れなく皆から味が濃すぎると言われてしまった。皆に合わせて私も薄味の食事を取るべきだろうか?塩にも限りがあるし、その方が良いかもしれない。
さて、その塩なのだが、今のところ入手をゴドファンスに任せっきりになってしまっている。私の手も空いたところだし、彼に塩の場所を案内してもらうのも良いかもしれない。
ところで、私がエネルギーを操作できるようになってからというもの、たまに背中がむず痒くなって来たりしたのだが、最近はそれが特に如実に表れてきている。
推定、私はドラゴンと考えているので、近いうちに翼でも生えてくるんじゃないかと予想している。恒例のなんとなく、というヤツだ。
そんなこんなで五日が経過していた。今の私の予定としては、レイブランとヤタールに意思の力以外の事象の発生方法を尋ねるかゴドファンスと塩の回収に向かうかのどちらかだが、どちらにしようか?
塩、だな。他の皆がやりたいことをやっているというのに、ゴドファンスだけは私達のために岩塩を取りに行ってくれているのだ。私の手が空いた以上、彼を手伝って彼の自由時間を設けてやるべきだ。
レイブラン達に起こされて家を出ると、ちょうど、ゴドファンスが今日も岩塩を採取しに向かおうとしていたところだった。
「おはよう。ゴドファンス。今日も岩塩の採取?」
〈お早う御座います。おひいさま。その予定に御座います〉
「良ければ私を岩塩の取れる場所に案内してもらえるかな?いつまでも君に採取を任せきりにするのが申し訳なくてね」
〈お心遣い、有難う御座います。ですが、これは儂が自ら望んで行っていること。おひいさまはどうぞ、お気になさらず御身がしたいことをなさって下され〉
なんだか、やんわりと断られてしまった。彼は、岩塩の採取を自分が望んでやっているといったが、私が加わると不都合があるのだろうか。
…もしかして、私が採取を手伝うことでゴドファンスの仕事を奪う。という形になってしまうのか?だとしたら、彼のみで採取に行ってもらうか。
いや、ここは我儘にならせてもらおう。
「ゴドファンス。君が岩塩の採取に責任と誇りを持ってくれていることを嬉しく思う。だけど、今回は私の我儘を言わせてもらうよ?私も岩塩のある場所を見たいんだ。今、私がしたいことが岩塩のある場所に行くことなんだ。そういうわけだから、案内してほしい」
〈そう仰るのであれば、断ることなどできますまい。然らばご案内いたしましょう。どうぞ、こちらへ〉
ゴドファンスが私に背を向けて歩き出す。その背中を見て、私の欲求が出てきてしまった。
「ゴドファンス。案内するついでにお願いがあるんだけど、聞いてもらっていい?」
〈もちろんに御座います。して、おひいさまの望みとは?〉
「君の背中に乗せてもらいたいんだ」
〈勿論、ご自由にお乗りくださいませ〉
許可をもらったのでゴドファンスの背中に横座りさせてもらう。彼の体毛は少しゴワついているものの、とてもフサフサだ。撫でてみるとやや硬い毛並みが、ゴドファンスのこれまでの生きた時間を感じさせる。彼は他の子達と比べて年老いてはいるが、それでもなお、他の子達に引けを取らない力強さが伝わってくる。
「君は今日まで多くの戦いを生き延びてきたんだね。君の毛並みは、頼もしさを感じるよ」
〈儂など、ただ運のよかった凡才に御座います。他の者よりも長く生きているだけにすぎませぬ〉
「そんな凡才が長く生きてきたからこそ、頼もしさがあるということさ」
〈お褒め頂き、恐悦至極に御座います〉
ホーディに乗せてもらった時は終始二足歩行で移動していたが、四足歩行の乗り心地も良いものだ。
岩塩の採取場所まで、退屈することは無いだろう。