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正式なLの後継者となったニアの補佐を勤めるようになって、早三年が経った。 ある日の夕方、捜査本部のメインルームで一人でデスクワークをしていると、後ろから声がかかった。
「ジェバンニ」
振り向くと、ニアが立っていた。だが、いつものブカブカのパジャマではなく、白いフリルやレースがふんだんにあしらわれた黒いベビードール姿だった。
「どうしたんですかその格好は……」
僕は呆気に取られて、間抜けな声を出した。
「男性はこういう下着が好きだと、雑誌で読みました。どう思いますか?」
「どうって……。潜入捜査にでも使うのですか?」
「まさか。私が自分の身を危険に晒すことはありません。それに、あなたや連携先の捜査官がこれを着ても滑稽なだけでしょう」
確かに体格のいい男がこれを着ても、笑い者にしかならないだろう。だが、女性のように白く華奢な手足を持ったニアにはとても似合っていた。21歳になったニアは首筋まで銀髪が伸び、身長も10cm程高くなって、あでやかな雰囲気を纏い始めている。女性物の下着を身につけると、本当に綺麗な女の子に見えた。
「似合ってますが……。なぜそれを僕に見せるのですか?」
「あなたの戸惑った顔が見たかったからです」
ニアはそう言うと、椅子に座っている僕の膝の上に跨るように乗り上げてきた。ベビードールの裾がズリ上がり、下着はいつも履いてる白いトランクスではなく、女性物の黒いショーツであることが分かった。
「ニア……!?」
「遠慮せず、あなたのしたいことをしてください」
言葉を失って固まったままでいると、ニアは僕の左手を手に取り、自分の胸に当てた。
「……!?」
「手を動かしてください」
言うことを聞いてという訳ではないが、胸元を縁取るチュールレースとニアの白い胸の境目に置かれた手を、衝動的に思わず横に滑らせてしまった。
「……っ」
ニアはそれだけで感じたのか、微かに喉を鳴らした。
「ジェバンニ、もっと……」
「ま、まずいですよ、ニア。降りてください」
「何がまずいのですか?」
「こういうのは恋人同士でするものです」
「私は遊びでやっているつもりはありません。あなたがいつまでも奥手だから、一肌脱いであげたまでです」
「ニア……」
「それとも行為を始める前に、何か私に言うことが?」
普段と変わらない仏頂面で臆面もない言い方をするニアに僕は赤面し、額に手を当てた。
「……とりあえず降りてください。話はそれからです」
「意気地なし」
ニアはそっぽを向き、不満げに鼻を鳴らした。
目を覚ますと、日本捜査本部内の自室の天井だった。心臓がドキドキと高鳴っている。夢の中で触った生々しい肌の質感がまだ指に残っているようだ。肌の感触だけでなく、至近距離で嗅いだニアの甘い匂いも、幼さが抜けた美麗な顔つきも、全てがリアルだった。それらを思い出すだけで、胸がギュッと締め付けられる。
「どうかしてる……」
僕は体を起こし、ため息をついた。
壁の時計は9時を差している。寝坊だ。今日はレスターとリドナーが潜入捜査で出払っているので、内勤務の僕がニアの朝食を作らなくてはならない。急いで身支度を済ませると、階下に降りた。
メインルームでは、先に起きていたニアが、ソファの上で日本の芸能雑誌を捲っていた。高田清美に関する調査のためだろう。ソファの下にはその他の紙資料やDVDが散らばっている。
「あなたが寝坊とは、珍しいですね」
ニアは雑誌に目を落としたまま、淡々とした声音で言った。
「申し訳ありません。今朝食を作ります」
「ジェバンニ、ちょっと来てもらえますか?」
ニアに呼ばれて、ソファのところまで行った。
「この前同じことを聞きましたが、親しみやすさと堅実な肩書きで世間の信頼を得やすいという理由から、女子アナウンサーがキラの代弁者に選ばれるというところまでは分からなくもないのですが、なぜ高田なのかが分かりません。もしこの中でキラの代弁者を選ぶとしてあなただったらどうするか、決まりましたか?」
ニアが僕の方に向けた雑誌のページには、『2008年版女子アナランキング』という俗っぽい特集記事が載っている。
「そうですね……。渡されたDVDはまだ半分しか観終わってないのですが、今のところ高田である必然性は感じないとしか…。なにしろ資料が膨大なので、目を通すのに時間がかかります。もう少し待っていただけますか」
「分かりました。後でレスターにも意見を聞いてみます」
いつも通りのニアだ。猫のように小さく丸っこい可愛らしい姿。このニアが、まさかあんな色香漂う青年になるはずがない。
僕はリビングに行こうとしたが、その前に思わず声を掛けてしまった。
「変な夢を見ました。ニアが大人になっていて、私を……」
誘惑してきたんですと言い掛けて、さすがにやめた。こんなくだらない話で捜査を妨げようとするとは、まだ寝ぼけて頭が働いていないらしい。
「なんですか?」
ニアは雑誌を捲る手を止めないまま、返事をした。
「いえ、なんでも。気にしないでください」
「ジェバンニ」
「はい」
「オムレツがいいです。野菜は食べたくないのでサラダはいりません」
「はいはい」
僕はニアのわがままを可愛く思い、ふんわりとした白銀髪をそっと撫で付けた。