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20
あまね🍡💠
75
朝。
湊は学校へ向かって歩いていた。
いつもと同じ道。
いつもと同じ時間。
昨日までと。
何も変わらない朝。
「……。」
湊は自分の手を見る。
昨日。
育成プログラム第一段階が終わった。
日下部の言葉が。
まだ頭に残っている。
『聞こえたんじゃない。』
『朝霧は、最後まで聞こうとしていた。』
そして。
『能力がないことは、弱さだけじゃない。』
「……弱さだけじゃない。」
小さく呟く。
能力がないことを。
今まで何度も考えてきた。
どうして自分だけ。
何も持っていないのか。
能力があれば。
もっと違う人生だったのか。
そんなことばかり考えていた。
でも。
昨日。
初めて言われた。
能力がないことにも。
意味があるかもしれない。
「……。」
まだ。
自分でもよく分からない。
それでも。
少しだけ。
昨日までとは違う気がした。
学校が見えてくる。
湊は歩く速度を少し上げた。
教室へ入る。
「おはよう。」
「おはよー。」
いつもの声。
いつもの教室。
湊は自分の席へ向かう。
鞄を置く。
その時。
「朝霧。」
クラスメイトに声をかけられた。
「最近、放課後すぐ帰るよな。」
「え?」
「前は教室に残ってることもあったじゃん。」
湊は少し考える。
「ちょっと。」
「用事があって。」
「何の?」
「……。」
育成プログラム。
でも。
詳しいことは話せない。
「色々。」
「何だよ、それ。」
クラスメイトが笑う。
「まあいいけど。」
「最近、忙しそうだな。」
「そうかな。」
「そうだよ。」
クラスメイトは自分の席へ戻っていく。
湊は椅子に座る。
窓の外を見る。
自分では。
何も変わっていないつもりだった。
チャイムが鳴る。
授業が始まった。
数学。
国語。
能力社会史。
いつもと同じ授業。
いつもと同じ先生。
黒板に文字が並ぶ。
湊はノートを取る。
でも。
ふと。
昨日の光景を思い出す。
九条の念力。
蒼井の超怪力。
如月の氷。
黒崎の炎。
天城の風。
輝羅の雷。
それぞれが。
自分にできることを考えていた。
「朝霧。」
「はい!」
先生の声に。
湊は慌てて顔を上げる。
教室から小さな笑い声が聞こえる。
「授業中だぞ。」
「すみません……。」
湊はノートへ目を戻した。
昼休み。
チャイムが鳴る。
生徒たちが一斉に動き始める。
湊は鞄から昼食を取り出す。
「……。」
一瞬。
教室の中を見る。
そして。
屋上へ続く方向を見る。
(今日もいるかな。)
気付けば。
湊は立ち上がっていた。
屋上へ向かう。
階段を上る。
扉の前で止まる。
以前は。
この扉を開ける理由なんてなかった。
今は。
少しだけ違う。
湊は扉を開けた。
「こんにちは!」
小春の声。
「……。」
輝羅もいる。
二人はすでに。
昼食を広げていた。
輝羅が湊を見る。
「遅かったな。」
「え?」
湊は時計を見る。
昼休みが始まって。
まだ数分しか経っていない。
「遅くないけど。」
「俺たちは先に来てる。」
「それは二人が早いだけじゃ……。」
小春が笑う。
「湊くん。」
「こっち。」
「うん。」
湊は二人の近くへ座る。
三人で昼食を食べる。
小春が湊を見る。
「昨日も行ってたの?」
「え?」
「育成プログラム。」
「ああ。」
湊は頷く。
「昨日で。」
「第一段階が終わった。」
小春の目が大きくなる。
「終わったの?」
「うん。」
「どうだった?」
「……。」
湊は少し考える。
訓練の内容。
国からの要請。
実際の災害現場。
詳しく話していいことばかりではない。
「詳しいことは。」
「話せないんだけど。」
「うん。」
小春は素直に頷く。
輝羅は黙って昼食を食べている。
湊は空を見る。
「大変だった。」
「何回も。」
「自分がここにいていいのかなって思った。」
小春は何も言わない。
「能力がないのに。」
「能力者を育てる場所にいて。」
「何を学ぶんだろうって。」
風が吹く。
「でも。」
湊は続ける。
「みんな。」
「すごかったよ。」
小春の動きが止まった。
「……。」
湊が小春を見る。
「どうしたの?」
「今。」
「え?」
小春は少しだけ笑う。
「みんなって言った。」
「……?」
「湊くん。」
「前だったら。」
少し考える。
「能力者の人たちって。」
「言ってた気がする。」
湊は黙る。
「そうかな。」
「うん。」
「そうだよ。」
湊は昨日の訓練を思い出す。
九条。
蒼井。
如月。
黒崎。
天城。
そして。
輝羅。
「……。」
確かに。
能力者たち。
とは思わなかった。
自然に。
みんな。
そう思っていた。
「別に。」
「意識してないけど。」
「うん。」
小春は笑う。
「だから。」
「変わったんじゃない?」
「……。」
湊は自分の昼食を見る。
変わった。
自分が?
「俺は。」
「何も変わってないと思う。」
「そう?」
「うん。」
小春は少し考える。
「じゃあ。」
「気付いてないだけかも。」
「何に?」
「自分が変わったことに。」
湊は何も答えなかった。
その時。
輝羅が口を開く。
「どうでもいい。」
小春が輝羅を見る。
「神童くん。」
「何?」
「今までずっと黙ってたね。」
「食ってた。」
「それだけ?」
「それだけだ。」
小春が笑う。
湊も。
少しだけ笑った。
輝羅が二人を見る。
「何だ。」
「別に。」
「何でもない。」
「気持ち悪いな。」
三人の間に。
笑い声が流れる。
以前なら。
考えられなかった。
世界唯一の無能力者。
動物と話せる少女。
雷を操る能力者。
全く違う三人。
それでも。
今は。
同じ屋上で。
同じ時間を過ごしている。
昼休み終了のチャイムが鳴った。
「あ。」
小春が立ち上がる。
「戻らなきゃ。」
三人は昼食を片付ける。
屋上を出る。
階段を下りる。
途中で。
輝羅の教室へ向かう廊下と。
湊と小春の教室へ向かう廊下が分かれる。
輝羅が足を止める。
「じゃあな。」
「うん。」
小春が手を振る。
湊も歩き出す。
数歩進んだところで。
何気なく。
振り返った。
「じゃあ。」
輝羅が湊を見る。
小春も足を止める。
湊は。
何も考えずに言った。
「また明日。」
「……。」
小春が目を瞬かせる。
輝羅も。
一瞬だけ黙った。
「うん。」
小春が笑う。
「また明日。」
輝羅は少しだけ口元を緩める。
「ああ。」
湊は前を向く。
そのまま。
教室へ向かって歩いていく。
小春は。
湊の背中を見る。
「ねぇ。」
「何だ。」
「今の。」
「聞いた?」
「聞こえてる。」
「湊くん。」
小春は笑う。
「変わったね。」
輝羅は。
遠ざかる湊の背中を見る。
少しだけ間を置く。
「……少しだけな。」
昨日まで。
明日も会うなんて。
考えたこともなかった。
でも。
いつの間にか。
また明日会うことが。
当たり前になっていた。
第26話 また明日 完
コメント
1件
うわあ……「みんな」って言ったところ、私すごく響きました……!湊くん、無意識に仲間のことをそう呼べるようになったんだね。前は「能力者たち」って距離があったのに、屋上の三人の空気も、背中に向かって自然に「また明日」って言えたのも、全部ちゃんと変化してる。小春ちゃんと輝羅くんがその変化に気づいてるのも尊い…。まだ言葉にできないけど、確かに湊くん、変わってるよ。次が楽しみです🌙