「東京奪還最終決戦の話だけが読みたい!」と言う方は約2年位お待ちください。頑張って書いてます
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10年前、僕が小学生2年生の頃。
魔術師3人組による大規模魔法にて、東京都に住まう人間の大半が死亡し、姿を消した。
突然、何の前触れも無く。
僕の父親は当時、対魔法術師の1人。『日本最強の妖術師』として小さな集落から東京都まで行き、政府 警察と共に調査を行った。
本来、妖術師は妖 ―――妖怪と戦う術師の事だが、対人戦も可能だ。
父親の話によると東京都に着いた瞬間猛烈に嫌な予感がしたらしい。そして渋谷駅から出て区内を歩き回ったが、渋谷区内はもぬけの殻だったそうだ。
当然だろう、大規模魔法による死者は563万人、行方不明者は819万人。東京都内の人口は1,396万人、大半が死亡、又は行方不明になっている。
死亡と言っても、死体が転がっていた訳では無いらしい。 灰に近い砂状の何かになっていたと父親は言っていた。行方不明と言う事は恐らく…風に吹かれて消えてしまったのだろう。
そして時は進み、現在。僕が高校二年生に成った頃。
父親は病気で、母親は老衰で亡くなった。
一応、先程も話した通り父親は政府公認の妖術師として、全国の術師を集めた組織が行う東京大規模魔法事件の調査に参加していた為、中学の頃に父親の妖術を継ぎ、中学卒業後は僕が代わりに調査をしていた。どちらかと言えば、「手伝っていた」の方が正確だろう。
勿論、そう簡単に魔術師3名についての情報は集まらず組織は解体。僕はただの妖術が使えるだけの高校生になってしまった。
東京大規模魔法事件の調査に参加していた為、余裕で一人暮らし出来る程の金は貰えていたから生活に不自由はなかった。
しかし、今の僕は実質無職。そして終業式直後と言うのもあり、すぐにバイトをしたりは出来なかった。
それから少し経った日のこと、貯金していたお金で都心の一角にあるマンションに僕は住んでいた。住み心地は良く、隣人さんも優しい人ばかりだ。
だがどうしても、どうにもならない問題があった。
「お金が……無い……」
貯金も底を尽く寸前。高校は現在冬休みに入り、僕はバイトの許可が降りなかった為、家でゴロゴロしていた。
このままではいずれ食料も全て無くなり、餓死してしまう……。そうなる前にどうにかしてでもお金を手に入れなければならなかった。
かと言って犯罪に手を染めるのだけは流石に良くない。そう思い、僕はベッドの上で考える。
そんな時、ふと実家の事を思い出した。父と母が暮らしていた家だ。もしかしたら何か金になる物があるのではと思い、僕はすぐに向かった。
住んでいたマンション近くの駅から電車で約2時間半。ようやく実家に到着した。
「ここに帰ってくるのも久しぶりだな」
中学校以来一度も帰ってきたことがなかった実家。なんだか懐かしく思えてくる。でも今はそれより先に優先すべき事がある、
「すまんな父さん母さん!家にある金目のモノは全て僕が―――!!」
結果、家の中を探し回ったが金になりそうな物は何も無かった。父親の事だ、死ぬ前に金になりそうな物は全て売り払ったのだろう。
「何も無かった……!!いや待てよ、あと一件ある」
諦め半分、僕は母親と父親が住んでいた家から離れた場所にあるもう1つの家に行った。家中をくまなく探したが案の定、何も無かった。家の中は。
「ここもかよ!!僕の父親はどこまで用意周到なんだ!!……いや待て、そう言えばあそこに―――」
歩いて10秒で着くすぐ近くに小さな蔵があった。昔ながらのなんだか懐かしい感じの蔵が。
だが蔵には鍵が掛かっていて簡単に開きそうが無かった。しかし―――
「―――解錠!!」
例え最強の金庫でさえも開けてしまう術『強制解錠』を発動。
鍵を外して開けてみると中には何やら難しい字で書かれた本や巻物、触っただけで崩れそうな棚が沢山あった。
「ここにある本売れば大金になるんじゃ……」
僕は棚の中に沢山置いてある本の中で一際異彩を放つ、赤い本を手に取った。
「―――顕現せよ」
その瞬間、僕は無意識的に本を開いて中を読んだ。声に出して読んだ。最初から最後まで、1文字も残さず。
異変が起き始めたのは最後の一行辺りだった。本が段々と光り始め、足元に大きな陣が出来ていた。
最後まで読み終わった僕はまるで夢から醒めるような感覚で意識を取り戻した。
「―――なっ!?」
突然の出来事で混乱していた僕は急いで本を閉じて棚にしまった。すると足元の陣も消えた。何事も無かったかのように。
「止ま……った…のか?」
一体何だったのか、何故僕は何も考えずに本を開いたのか。理解出来なかった。
だけど、一つだけわかる事が有った。
これは父親─── 先祖が残した妖術の書だと言う事が。
僕は、もしかしたら物凄い術を手に入れれるかもしれないと考えた。次は蔵の奥、灯りが届かない所にある何重にも鍵が掛かっている扉を見つけた。
「なんだこれ…凄い怪しいぞ…」
中に何か隠されている様な扉を
僕は時々休憩を挟みながら5日かけて鍵を全て解錠した。この行動が間違いだった。今の僕はこの時の行動を悔やんで―――いや、話を戻そう。
その後僕は中にあった1冊の緑色の本を手に取った。中を見なくてもわかるほどの禍々しさ、まるで今まで誰も開かずに封印してきた様な本だった。
「なんだこの本…他と違って―――」
この本は他と違い、詠唱のような物が書いてあった。
「―――永劫の時を視認する」
僕は、声に出して、読んだ。詠んでしまった。
突然、僕の足元が光り始め、先程とは違う形の大きな陣が生成された。僕は詠むのを辞めなかった。途中で辞めれば何かを失う様な気がして。
「これは常世全ての時間を遡行する術であり、常世全ての未来を見据える―――」
詠み始めて数秒後、僕の口から液体が出来た。赤い。血だった。
その血が陣に垂れた瞬間、陣が赤く発光した。僕は詠むのを辞めなかった。どんどん体から血が無くなっていくのを感じた。これ以上は危険だと僕の体は悲鳴をあげていた。
陣が完成していく、僕の体も限界を迎えていた。
いつの間にか本の色が緑色から黒色に変わっていた。そう言えば昔父親が言っていた。
「黒色の本は禁忌の術が書いてある本だ、禁忌の術ってのは妖術師の中で使う事が禁じられた本の事だ。妖術師が使う術ってのは等価交換と同じだ。だから禁忌の術を使うと一生、死より最悪な…地獄が待っているそうだ」
と…。
「ぐ……っ!」
この時僕はもう何も考えられなかった。体も精神も限界だった。ここで詠むのを辞めればもしかしたら体の一部を失うだけで済むかもしれない。それでも僕は、詠むのを辞めなかった。
「―――術、発動。」
すると突然、頭の中に何かが、流れ込んで来た。
未来を視た。人間が沢山死ぬ。
未来を視た。大きな魔法陣が空に展開される。
未来を視た。今度こそ東京都に住む人間全員を消し去ろうとする魔術師3人組が。
未来を─── 視た。
『2年後、再び惨劇が起こる。大規模な魔法発動により全員が巻き込まれ、死滅する』
気が付くと僕は蔵で寝ていた。先程まで手に持っていた本は無く、陣も消えていた。鍵が何重にもかかっていた扉さえも。
「あれ……僕は何をしてたんだっけ…」
僕はその時、夢を見ていたのだと解釈した。色々見ている内に眠くなってしまい、そのまま眠ってしまったのだと。しかし、夢にしてはハッキリしすぎていてまるで現実のようだった。それに、体の痛みがまだ鮮明に残っていて―――
「―――違う、僕は眠くなって寝ていた訳ではない…。」
妖術師は術を発動させるのに『妖力』を必要とする。術のグレードが上がれば上がるほど妖力を多く必要とする。
そしてこの体を襲う強烈な痛み、これは間違いなく『強力な術』を使用した後と同じ感覚だった。
だが、どんな術を使ったのかを僕は覚えていなかった。
「クソ…取り敢えずここで色々考えても無駄だな。宿に行ってから考えよう」
僕は体を起こそうと上半身に力を入れたが、ピクリとも動かなかった。沢山の妖力を使用した代償がまだ続いていたのだろう。
僕はもう一度横になって数分間待った後、再び体に力を入れてようやく立てるようになった。
外はもう暗く、夜になっていた。結構長い間眠っていたのだろう、腹も空いていた。
家を離れ、田舎特有の蛙の鳴き声と虫の音を聴きながら歩いて5分。宿の近くまで来ていた。
「確かこの道を右だったか…?あれ、道なんて無いじゃないか」
と、その瞬間。
大きな何かが横から猛スピードで突っ込んで来ていた。
大型のトラックだった。
道を探すのに集中していた所為か、いつの間にか道路まで出てしまっていたらしい。
「な…っ?!マズイ!」
僕は驚き、咄嗟に術を発動させ、避けようとした。妖術師の中では基礎の基礎、回避の術だ。
僕は術を使用しトラックを避け―――れた。
顔面スレスレの所をトラックは通過し、どこかへ行ってしまった。
危うく轢かれる所だった…と安心していたその時
「え?」
僕の体は宙に浮いていた。
なんと、2台目のトラックが来ていた。全身に痛みが走る。今まで体験した事の無いような痛み。そのまま僕は地面に叩きつけられるように落ちた。
「ぼはぁッ!!」
痛い。
痛い痛い痛い「たすけ」痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い「これは死」痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛「ほんとにまずい」い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい「嫌だ」苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦し「なんでこんな」い苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。
これは流石に、妖術師とはいえ厳しかった。呼吸は出来ず、声も出ない。手も足も動かない。回復の術を使うには詠唱が必要だった。何も出来ない儘、僕は死ぬのかと思った。何も出来ない儘…。
まずい意識が
遠く な っ
こ れは
「これは―――どうにも出来ない…」
そして僕は、死んだ。
苦しみながら死ぬのは嫌だった。
例えば、溺死とか焼死、出血死とか窒息死とか。もし助からない状態で死ぬなら、苦しまずに一瞬で死んだ方が僕は良い。そう思っていた。
だけど、僕は苦しみながら死ぬ。諸臓器の破裂・挫滅,大血管損傷による失血。生存は不可能な状態だった。
もしここで死なずに生きていたら…東京に戻って、蔵で視た未来を頼りに、政府と協力して魔術師を探すはずだった。
だけど、僕は苦しみながら死ぬ。自分の成すべき事も成せぬまま。
そろそろだ…。視界が狭くなっていく。これが死。体験した事の無い痛み。
怖い。死ぬのが怖い。嫌だ。死にたくない。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ助け───
「あっ………………」
気が付くと僕は蔵で寝ていた。
先程まで手に持っていた本は無く、陣も消えていた。鍵が何重にもかかっていた扉さえも……
「なんだこの不快感は…何かがおかしい。」
その時僕は違和感を感じた。前にも1度経験したような。これから起きることが分かる感じ。
この後起こる全てを僕は知っている感覚。僕は一度死んで──────
─────いや、違う。
恐らくこれは禁忌の術を使った時に視た未来だろう。それに、体の痛みがまだ…無い。禁忌の術を使った後に来る反動が無かった。
やはり何かがおかしい。
だが、違和感を感じるだけで他に何かある訳では無かった。僕はそこで考えるのを辞めた。
「難しい話は一度宿に帰ってからまた考えよう。さてと…」
僕は体を起こそうと上半身に力を入れたが、ピクリとも動かなかっ―――
「前にもこんなことあったような、これがデジャヴってやつか…?」
僕はそう呟いて数分間待った後、再び体に力を入れてようやく立てるようになった。
外はもう暗く、夜になっていた。お腹も空いている。
宿はすぐ近くの場所にある為、僕は歩いて向かった。田舎特有の蛙の鳴き声と、虫の音を聴きながら歩いて5分。宿が見えてきた。目の前には広い道路、この時間帯の車通りは少ない。
僕はお腹が空きすぎて我慢の限界だった。僕はショートカットしようとして道路に飛び出した。
その瞬間、僕の脳内で何かが引っかかる。
と、その瞬間。大きな何かが横から突っ込んで来ていた。猛スピードで近づいてくるのは大型のトラックだった。
「っ!?やっべぇ!!」
僕は驚き、咄嗟に術を発動させ、避けようとした。妖術師の中では基礎の基礎、回避の術だ。僕は術を使用しトラックを避け………れた。
顔面スレスレの所をトラックは通過し、どこかへ行ってしまった。
「あっぶねぇ…!轢かれる所だった……」
と安心していたその時。
この光景を、僕は知っている。トラックを避けた後、もう一台トラックが来ることを。
「来る―――!!」
僕は咄嗟に術を発動させた。
一台目のトラックが過ぎてから約10秒。恐らく今このタイミングでトラックが来るはずだ。あと数秒、術の発動が遅れていたら僕は死んでいただろう。
顔面スレスレの所で僕はトラックを回避した。受身を取ろうとしたが、咄嗟の行動だった為、道路に転がるように倒れた。
「避け…れたのか…?」
間違いない。僕はトラックが来ることを知っていた。この予知的な何か…少し前にどこかで視ていた気がする。
「蔵で目覚める前…僕は禁忌の術を使った。その時に……」
この時、僕は勘違いをしていた。恐らく蔵で視たのは『2年後の未来と死ぬ時の出来事』だと。
宿へ戻り、立て付けの悪いドアを開けて部屋の真ん中に座る。そして僕は脳内情報の整理を開始した。まずは視た未来について。
2年後、再び東京に魔術師3名が姿を現し大規模魔法を展開。その後、東京に住む人間全員が消滅する。考えただけで恐ろしい。
もしこの未来視が本当で、再び魔術師が現れたら…。間違いなく、大惨事になるだろう。そして、次は死ぬ時の出来事について。僕はトラックに轢かれて死ぬという事を知っていた。
禁忌の術を使った時に未来視と一緒に視たのだろうか…。よく思い出せ、僕が視たのはトラックの件だけだった。もし本当に死ぬ時の出来事を視たのなら、トラックだけじゃないはずだ。
トラックだけじゃないはずなのに───僕の記憶には二度目の死に関する情報が何も無かった。死ぬ時間帯も死ぬ場所も死因も何もかも。
「…落ち着け、冷静になれ。こう言う時は一度深呼吸して冷静さを取り戻すんだ…」
そうだ、冷静になって考えてみればいい話だ。もし仮に『2年後の未来と死ぬ時の出来事』の未来視では無かった場合、他になにが出てくる。未来視……。未来、出来事、体験。体験…?
僕は一度死を体験している?だとすればなぜ僕は生きている……。
死ねばそこで終わりのはずだ。蘇り…?だがその場合は死んだ場所で始まるのが基本…。始まる…。死んだ場所、蘇生、もう一度、繰り返し、ループ。
「そうか……!!よく良く考えればそれがあるじゃないか、なぜ僕は思いつかなかったっ!?」
そうだ。僕は『ループ』している。詳しく言うとこうだ、自分自身の意識だけが時空を移動し、過去や未来の自分の身体にその意識が乗り移っている。
僕はやり直しをしているのだ。
だとすれば疑問点がまた増える。
・何回まで死ねるのか
・二回死んだ場合、始まりの場所はどこなのか
・2年後を視たと同時になぜこの力が授けられたのか
・どうやったら完全に死ぬ事が出来るのか
―――試してみる価値はある、今ここで自らの命を絶ち次のスタート地点を確認する。だがもし、ループの限界が二回だったら。
僕はそこで本当に死を経験するだろう。だが、妖術師と言う者は恐怖心より好奇心を優先する。
宿泊用のバッグに手を伸ばし、中から長い黒色の棒を を出す。自らの身を護るために持っていたこの刀で、僕は、自らを殺す。
自害は初めてだ、だがやるしかない。僕は鞘から刀を抜き、首元へ持ってくる。
この時僕は、笑って──────────
───────気が付くと僕は蔵で寝ていた。
先程まで手に持っていた本は無く、陣も消えていた。
鍵が何重にもかかっていた扉さえも……この光景を見るのは三回目。
刀で自らの首を切ったが…痛みは無い。だが心臓の鼓動はあの時と同じ速さ。
僕は本当に、タイムリープをしていた。
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作者の天ヶ瀬です。
私の作品「遡行禍殃」を読んで頂きありがとうございます。
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