「でもよ」
ルフィの声に、皆が顔を上げた。
「音とか、匂いとか……空気の感じが、ちょっとだけ“外の海”に似てんだよなァ。……生きてるかどうかなんて、わかんねーけどさ。なんか、残ってんのかもな」
その何気ない言葉が、なぜか誰よりも核心を突いているように思えて、
誰も何も言えなかった。
ただ、静かな水の音だけが、また空間の奥から響いていた。
館内を一巡した麦わらの一味は、ちょうど中央ホールに戻ってきていた。
高い天井のドーム。周囲にはいくつもの通路が枝分かれしており、展示の痕跡が静かに息づいている。 人の気配のない水族館。けれど、不思議なことに、誰もがどこか名残惜しそうだった。
「この上にトンネルがあるみてェだ!」
ルフィが天井の案内図を見上げ、目を輝かせた。
「でもそのルート、途中で崩落してるっぽいわ」
ナミが指差した案内板には、赤く「立入禁止」の文字が貼られている。
「危ないから、みんなで行くのはやめときましょう」
「おれ、ちょっと見てくるー!」
ルフィが嬉々として駆け出そうとした瞬間、ナミが首根っこをつかんで引き戻した。
「ダメに決まってるでしょ!あんたが踏んだら床ごと落ちるわよ!」
「い、いてて……!」
「おいルフィ……やめとけって」
チョッパーも心配そうに声をかける。
そんなやりとりを背に、ゾロとサンジは少し離れた壁際に立っていた。
「……なぁ、あっちのルート、まだ通れそうだな」
ゾロの視線が向いたのは、ホールの奥に延びる、ひと気のない細い通路。
「崩れた形跡もねェし、天井も持ってる。時間あるし、ちょっと見てくか?」
「……ああ。ここの空気、なんか引っかかるしな」
サンジがぼんやりとした表情で通路の奥を見やったまま、口元で息を漏らすように言った。
「おーい、ナミさーん!俺たち、ちょっとこっち見てくる!」
背後から「勝手に迷子にならないでよ!」とナミの声が返ってきたが、
ゾロとサンジは軽く片手を上げるだけで、それ以上は何も言わず、静かに通路へと歩を進めた。
空気の密度が変わる。
足音すらも吸い込むような、静かな回廊。
壁を伝う管とパイプの間を、やわらかな青がまだ微かに流れている。
その中で自然と、横に並ぶ。
言葉も交わさず、ただ足音だけが静かな通路に落ちていた。
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