息を吹き返したぼくは、右半身が動かなかった。目を開けると、真っ白な天井。
瞬きひとつに時間がかかる。息がうまくできない。
「聞こえますか?」
左側から声がした。けれど返事ができない。
声を出そうとするのに、喉が詰まり、唇が震えるばかりだった。
医者が静かに言った。
「あなたは脳内出血を起こして、1ヶ月間、眠っていました」
「息を吹き返したのは、奇跡としか言いようがありません」
右手が冷たい。そこにあるのに、自分のものじゃないみたいだった。
動け、と思っても動かない。
足も、肩も、まるで氷の中に閉じ込められている。
「……」
何か言いたかった。
助けて、でも、なぜ、でも、ありがとう、でもよかった。
でも声が出ない。言葉がうまくつかめない。
どうやら“言語障害”もあるらしい。
話すことも、思ったようにはできなくなっていた。
ただ、目からこぼれる涙だけが、自分の意志だった。
ぼくは、生きていた。
でも、ぼくはもう、元のぼくではなかった。
左手が、布団をぎゅっと握っていた。
それだけが、まだぼくを「ここ」に留めていた。
誰かが言った。「大丈夫、これから少しずつ戻していこう」
その声にうなずけないまま、ぼくはまた、目を閉じた。
静かな、でも確かな痛みの中で――。
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