クルルたちは店に帰り
しばらく数ヶ月ほど休んでいた。
仕事は特にないから家でゴロリゴロリとしていた。
だが、五月の夜、悲鳴が寝室から聞こえる。
「ギャァァァ?!」
泣き声も少しばかり混じった
叫び声を聞くとサーフィーが急いで
寝室に走って行った。
「どうしたの?!」
扉を勢いよく開くと
頭を抱えて泣くクルルと、真顔で机に座るグルが居た。
クルルは話せる状態ではなかったが
グルが紙にメモを取りながら言った。
「依頼者だ。ほら。」
サーフィーが紙を受け取ると
そこには、すでに契約印が押されていて
驚くべきものが書かれていた。
【年齢…なし。職業…なし。
依頼…自分を殺した犯人を見つけて欲しい。】
「…って死んでるじゃん。」
すでにお亡くなりである。
こんなの出来るわけがないとサーフィーは
グルの顔を見たが、グルは首を振った。
「…お前は見えないかもしれないがな
目の前に居るんだぜ?依頼者が。」
「え…」
「泣くクルルを慰めている。
契約のための物がないから、あることを頼んだ。」
「…アイツは格があるからな。
死んでるなら来世を頂こうってことさ。」
グルがやってやったとウィンクすると
やれやれとサーフィーが声を出した。
「…相変わらず自分勝手だねぇ。
死者の依頼も聞くのかい。」
「当たり前だ。ストレスってのは
あればあるだけ晴らさないと爆発してしまう。」
「それに、変死遺体なんかだと俺が調べれば良い話だ。
本部に聞いてみるから、お前はクルルと現場行きな。」
「…急だなぁ。」
目の前で電話を掛けるグルを見て
サーフィーは霊と会話を試みた。
「あー、依頼者さぁん。死亡推定時刻は?それと日にち。」
「…」
「あ、話せませんよね。
大学ノートとボールペン貸すので書いてください。」
グルの机から勝手に大学ノートを出して
胸元からボールペンを出すと
ベッドにそれを置いた。
しばらくすれば勝手にノートが開いて
死亡推定時刻に亡くなった日にちを書いてくれた。
サーフィーは大学ノートを覗き込んでハッとした。
「去年の四月八日。死亡推定時刻、午後八時二十分だ。」
「兄ちゃん、これ分かってんの?」
「______あぁ」
ボソッと言うと
電話に会話を戻した。
その頃クルルは泣き止んで少しずつ話し始める。
「ごめん。…俺、霊とか初めて見たから
気分悪くなってしまって…。体腐ってた…」
「腕が無くて、生臭くて…
言ってもわからないかもしれないな。」
身の毛もよだつような言い方をして
下を向いた。サーフィーは想像して絶叫したが、
仕方がないとクルルを慰めた。
「あーはいはい。泣かない泣かない。
今から現場行きましょーね。
兄ちゃんが連絡してくれてるからぁ」
「…泣いてねぇし。」
「言い訳は良いから。ほら、兄ちゃん。
何事件?何刑事担当?現場は何県のどこ?」
「…杉山事件。坂本刑事担当。
現場は神奈川県横浜市。未解決事件。」
「というかパソコンで調べれば出るから
調べてさっさと行け。犯人特定で忙しいんだこっちは。」
グルが冷や汗をながしながら言うと
クルルが心配そうな顔をして言った。
「グルさん…何を急いでるんです?」
「お前は知るな。知ったら駄目だ。」
「なんで…」
「早く行けよ。今回の担当俺なんだから。」
「…分かりましたよ。言って何するんです?証拠探し?」
「それもあるが足跡とかもな。
念の為霊を連れていけば一発だ。」
言われてみれば霊が居るかと
クルルは納得した。
グルが何件も電話をしている間
サーフィーとクルルは店を出て
単車で横浜まで走った。