〇オメガバース×男性妊娠の作品です。
〇茈(α)×赫(Ω) (茈の出番少なめ)
〇ご本人様とは一切関係ありません。
〇過呼吸、嘔吐表現、妊娠表現有
所々分からない点や間違ってる設定等もあると思いますがご了承ください。
また、分からない所がありましたら、ご自身で検索してくださいませ。(←多分皆様の方が詳しいと思われますが)
___________________
母さんが乗せてくれる車に揺られながら、俺はいつもと変わらない風景を眺める。母さんとはお互い何も話さず、俺はただ膝の上に乗せられたエコー写真と書類を握る。
俺は、両想いを実らせてない大好きな彼との子供を妊娠してしまった。
数ヶ月前の発情期の時、彼が襲いたくて噛みたい衝動と理性を自身を傷つけてまで抑えて俺を看病してくれたのに、ただ自分の精を吐き出したいが為に彼を利用してしまった。
その時互いが了承して交わした精が、こんな形になって現れるなんて思いもしなかった。あの後、何も無かったかのようにお互い忘れ、いつも通り互いに隣で過ごしたのに。
病院で医者と母さんが話してる内容を耳にする。妊娠21週目までに避妊するかとか、経口中絶薬だとか、『運命の番』を作るかどうかとか、妊娠による言葉が聞こえてくる。
まだ学生である俺にはあまりにもの罪の大きさと衝撃と重い責任に呼吸が分からなくなってしまった。
それを見た医者と母さんは慌てながらも看護師に対応されながら別室で休んでいた。俺はただ、看護師に背中をさすって貰いながら呼吸を整える事に必死になっていた。
そんな時も、休む前に最後に見た いるまの笑う顔が頭に残っていて、思わず声を抑えながら泣いてしまった。それを見た看護師から背中を撫でてくれる、それだけで我慢してた物が溢れてくる。喉から鳴る嗚咽を吐き出しながら、ただ、ただ後悔と苦しみに押しつぶされる。
少し落ち着きを晴らし、休んでから医者の元へと戻る。医者と母さんが向かい合って話してる。俺が戻ってきたのを気づいてはこちらを見た後、母さんは立ち上がり俺を椅子に座らせようと背中を押してくれた。
医者の前に置かれた椅子に大人しく座ると、医者は俺に優しく話しかけてくれた。
「…那津さんは、まだ学生です」
赫「…ッはい…」
「まだ命の重さだとか、責任だとかは知らないのも当然ですけど、答えはちゃんと出さなきゃお腹の子は死んでしまいます 」
「お腹の中の赤ちゃん、産みますか?」
赫「っ…!」
そんなこと、聞かれても分からない。
彼との子供なんて、きっと彼と結ばれていた方が全然マシだったのかもしれない。生命ができた事に俺は怖くて苦しむだろうけど、彼は隣で俺を抱きしめながら話を聞いてくれるんだろう。
「…赤ちゃんを産むなんて怖いですよね。今までΩの方以外にも、妊娠されたどの女性も誰だってそう言ってます」(ニコッ
赫「!」
「でも、もし那津さんの意思で産みたいって思いましたら、私はお力になりますし他の病院だって紹介できますから」
赫「っ…意思、でッ…」
今、まだ小さいけど命が宿してあるお腹を撫でながら、医者の話を働かない頭で何とか理解しようとした。
「…お母さんと話してみて、答えを出してくださいませ」
空が少し薄暗くなった時に家に着き、駐車してる母さんを置いて玄関に入れば父さんが仕事で使ってる皮靴があった。重い足取りを何とか動かしながら、きっといるであろうリビングの扉の取っ手を握る。
父「!…おかえり、なつ」
赫「っ…た、ただいまっ…」
乾いた洗濯物を畳みながら優しく笑う父さんを見て、罪悪感で押しつぶされそうになる。
父「症状はどうだったか?」
赫「っ…ぁ、っ…」
父「?なつ?」
背中に隠した渡された書類とエコー写真を握りしめる。絶対に言った方がいいのは分かる、けど、なんて顔されるか分からない。 自分の息子が、友達とヤって赤ちゃんができましたとか。信じられないに決まってる。
また呼吸が分からなくなりそうで、額と手からは冷や汗が流れ落ちてく。口から出るのは言いたい言葉じゃなく苦痛な息で、震えが止まらなくて、顔もきっと真っ青だ。
父「っおいっ!?なつ、しっかりしろッ!」
母「っなつ!?」
車を停め終わり、家に入ってきた母さんの声がする。驚いてしまい後ろで隠してた書類が手から滑り、父さんの近くまで流れるように落ちていった。父さんは落ちた書類を拾い、羅列された文字を見ては目を見開いた。
父「……!っ、お前ッ…」
あぁ、バレてしまった___
赫「っごめん”なさい”ッ…」(ポロッ
足腰が抜けてしまいゆっくりと床に座り込んだ。何とか口から出た言葉は両親に対する謝罪で、結果とか症状の具合とか、そんなものは頭になくて、ただ俺がやってしまった失態に対する謝罪しか吐き出せなかった。
父「…なつ、落ち着け。謝って欲しいとか、そんな事思ってないからさ?」
赫「っ…ぅ”…ふッ…ッう…」(ポロポロ
母「何があったかだけ、教えてくれん?」
それでも優しく声をかけるくれる優しい両親に、涙が止まらなくて嗚咽を吐き出す。母さんに支えてもらいながら、いつも食事する時に使う椅子に座らされた。
だんだん気持ちも少しずつだが余裕が出てきて、両親に全てを話した。
俺が学校に薬を持って行くのを忘れてしまった事、
いるまの匂いで発情してしまった事、
いるまが俺のフェロモンに当てられても家まで送り届け看病してくれた事、
俺が我慢できなくて彼を誘ってしまった事、
ゴムもせず性行為をしてしまった事、
今でもずっと、彼が大好きな事。
俺の途切れて拙い言葉を、両親は真剣に聞いてくれた。それから、何か考え込むかのように両親は黙ってしまい、俺の泣き止もうとする息遣いと リビングにある時計の秒数が進んでいく音しかしなかった。
そんな沈黙を破ったのは母さんだった。
母「…なつは、その子を産みたい?」
赫「っ…え…」
俯いた顔をあげれば、母さんの顔は真剣な顔をしてても、どこか暖かくて優しい雰囲気を出していた。隣にいる父さんも嫌な顔もせず、俺の答えを待っている。
俺は無意識に自分の腹を中にいる赤ちゃんを撫でるように触れる。
赫「っ…産み、たいッ…」
母「…そう、…なつが決める事だし、全然構わないよ」
母さんの言葉に顔を上下に振って相槌してくれる父さんもいて、そう言ってくれた親に有り難さと安堵を感じていた。
母「…でも、それはいるま君に言うん?」
きっと、親が1番聞きたかった答えは、それなんだろう。部屋の空気が少しだけピリついたような雰囲気がした。
赫「…っ言いたく、ない…」
母「でも、これは貴方達の問題だよ?医者はお腹の中の赤ちゃんの命の事しか言ってなかったけど、なつの命の問題でもある」
赫「それでも、俺はっ…」
母さんからの槍のような言葉を刺されても、俺は拒むばかり。そんな俺に痺れを切らしたのか母さんはどんどん言い放つ。
母「妊娠はそんな軽いもんじゃないんだよ?」
赫「っわかってるッ…!」
母「分かってない。俺は今こうやって生きているけど、赤ちゃんを産む、しかもΩで男なんて亡くなる確率が高いんだよ?俺だって、腹を痛んでまでなつを産んだんだから」
母「俺はいるま君に絶対に言った方がいい。話を聞いてて、彼が優しい事も考えてくれてた事も分かった。お前が彼が好きな事だって快く認める。でも、それも含めて、言った方が断然後が楽だろ」
赫「っでもッ、嫌われたくないッ…!!」
それが俺の本心だった。
絶対に嫌われないのは分かってる。俺の羞恥を晒したって、彼は何も言わずに俺に寄り添ってくれてたんだから。
俺は彼を信じたい。 それでも、俺の中にある心配性が勝ってしまって、
そんな俺を見て、母さんはまた口を噤んでしまったが、今度はずっと口を開かなかった父さんがようやく言い始めた。
父「…言い方が悪くなってしまうが言っとく。これはαの俺からの助言みたいなもんだ」
父「もしお前が死んだら、俺達も、お前の友達も、関わった人達みんなが悲しむだろうに、誰が面倒見て、金を払ってまで謝罪をすると思う?」
赫「っ____」
じゃあ守ってやらんとな?___
赫「っや”めろッ”!!」
反射的に止めてしまった。それでも父は言葉を止めない。
父「そうやって現実逃避しても、後で苦しいだけだ。母さんも言ったろ、妊娠は甘くねぇって、これは自分達で解決できるもんじゃねぇ」
赫「っ……」
赫「俺が、責任取るっ…」
赫「俺っ、1人でもいいからッ、金だって貯めるしっ、この子もちゃんと産むッ…!」
赫「俺が死んだってッ、この子はきっと俺に似た子なんだから、俺がいたって分かるじゃんッ…w」
身勝手なことだって、そんなことは分かってる。それでも、彼が大好きだから、俺のせいで不幸になって欲しくないから、思わず口走ってしまっていた。
母「っ!勝手なことをッ!!」
父「落ち着け」
ついに苛立ちを表に表したのか、母さんが叱り始めるが父さんは静止し、落ち着かせる。それだけ、俺の事を大切にしてくれてるから言ってくれてる事だって分かってる。こんな姿の両親を見たことがなく、本音を吐き出した分、心は締め付けられていた。
父「どうせ、このままずっと話したってなつは考えは変わんねぇだろ?」
赫「っ…ごめ、んッ…」
父「…謝んなくていい。お前の意見に、俺は尊重するよ」
そう言ってくれる父に俺は心底安心してしまった。まだ、ちゃんと問題は解決してる訳じゃないのに。
母「っ、父さんッ…!!」
父「ただし、条件がある。」
赫「条件…?」
父から言われたそれは、俺を苦しませるものだった。
確か、小学校の時の社会科見学で班が一緒になって仲良くなったのがきっかけだった。
俺は、よくなつと 一緒に行動するようになった。
でも、アイツと俺は性格も好きな物も全然違うから、最初はあまり気が合わない所もあった。だったら、俺が好きなものを好きにさせてやると意気込んでは、クラスの端の席で黙々と本を読んでるアイツを無理やり外に連れ出したり、ゲームしてるとこを邪魔して怒られ、たまに喧嘩したり笑
最初は嫌そうな顔をして渋々着いてきてくれるけど、遊んでる時に見せてくれる楽しそうな笑顔を見せてくれて、嬉しかった。
そこから俺は壊れたように、なつの事しか見ていなかった。運動するのが苦手だからかマラソンの時は1番後ろでゆっくり走ってて俺が声をかけてやれば必死に着いてく所とか、小さい口で必死に食いもんを食って舌を火傷した時いちごみたく赤い舌を出して冷ましてる所も、何事にも俺に勝てないからと必死に練習して俺に勝てた時、褒められた時、歯を見せて嬉しそうに笑う所とかも全てが可愛くて愛おしくて。
今でも思い出のように、彼からもらったゲームカセットやフィギュアも、折り紙で作ったくしゃくしゃのかぶとも、クレヨンで字も色も汚いけど俺となつの2人で遊んでる可愛らしい絵だって残ってる。それを箱の中に大事にしまってはたまに取り出して思い出に浸ってる事もあった。
そんな毎日を送りながら中学にあがる前の時、彼に呼び出された。どこかソワソワして落ち着かない彼を見て、もしかして、と少々俺も緊張した時、
赫『っ…俺、Ωだったッ…』
少し暗い顔をしてそう言う。俺の予想の遥か上を行く彼から発された言葉に少し戸惑った。そして、俺の中に意思が生まれた。
茈『じゃあ、守ってやらんとな?』
まだ彼に言っていないけど、俺の家族はみんなα属性の人が多かった。きっと、俺もαなんだろう。
もし、Ωのお前が何かあったら、苦しんで、泣いていたりしてたら、俺が絶対に助けてやるんだって、俺は中学生ながらも決心した。
そうなつに言ってあげたら、なつは少し驚いた顔をした後に、茜色の瞳が潤み始め、ありがとう、と嬉しそうな笑顔で言ってくれた。そんな見たことない笑顔に俺の心はまた、愛おしさに心が苦しませていた。
でも、彼はそんな素振りを見せてこなかった。たまに彼からのフェロモンの甘い匂いや、1週間休むとこを見たことがあったが、全て自分でこなしていったから、俺は何もできなかった。
そんな時、俺の元に顔を赤くしながらノートを返しに彼が来てくれた。不思議に思いつつ、彼と話してたら彼はヒートなのかフェロモンの匂いがした。しかも、俺以外にもフェロモンにあてられた奴らがいては、なつの事をジッと見ていた。
それも彼は察したのか逃げて行った。俺の手に渡されたノートはなつが握ったまま、そのまま持ってかれた。
流石に不安に思い、俺は1人の友達に早退すると言い、残ってたフェロモンの匂いを頼りに彼の元へ走って追いかけた。
走って行くに連れ匂いが濃くなっていき、着いたのは別館の小さなトイレ。入ってみれば案の定、他の学年の体育を担当していたおっさんがあてられててトイレの上から入ろうとする姿があった。
襲われないように、襲わないように、おっさんを離れさせ、彼に声をかける。何時でも彼を助けれるように一応の為に持っておいた抑制剤をここで使うと思わなくて焦って取り出し渡す。すると飲み込む音が聞こえた。
茈『大丈夫、お前の事襲わないから』
できるだけ、優しく声をかければ目の前の扉が開いてくれた。中を見れば縮こまってるなつの姿。
俺に弱みを見せてくれた事に嬉しかった。必死に俺の名前を呼んで頼ってくれて。でも嬉しかった分、こんな事になるとは思わなかった想定外に戸惑っていた。
なつも周りに迷惑かけないように自分の事はちゃんとするタイプだ。きっと、これからもそんな姿を見せることは到底ないんだろう。その分、ちゃんと彼を守らなくちゃ。
そう思って、俺はできる限りの事をしたつもりだったのに。
茈『やべぇッ…やばいッ…!』
俺は彼を襲ってしまった。
気づいたら俺の下で泣いてるなつがいて、止まろうと思っても身体が言う通りに動かなくて、ただ、守りたい人の声も顔も気持ちよさも堪能したくて、自分の欲を吐き出す獣のようになっていた。
そして俺は何も考えられず、彼のナカに吐き出してしまった。それは、俺の理性の糸が再び結び、自我が戻ってきた時。なつの気が失った、もう遅かった頃に。
俺は飛び出すように彼を背負って部屋から出ては、なつの家の風呂場まで駆けつき、下半身にシャワーをかけながらナカに入ってる自分の汚い白濁液を掻き出した。なつは気を失いつつも感じてるのか、か細い息遣いが耳元に聞こえてくる。少しだけ我慢してくれと言うように背中を撫でてあげる。 だが、奥まで吐き出してしまったのか自分の指じゃ届かなくて、零れ垂れた白濁液しか出てこない。
それでも俺はできるだけ掻き出しては、彼の身体を拭き着替えさせ、なけなしの小遣いで薬局に行きピルを買った。なつの家に帰ってきて、また水と薬を口に含ませ口移しで飲ませる。
今度はちゃんと彼の口を見て薬を飲んだかを確認すれば、なつの部屋に行きシーツを変え、床に落ちてる制服はハンガーにかけてやり、彼をベッドに寝かせてやった。
茈『っ、ごめんッ…ごめんッ…なつっ…』
安らかに眠る彼を見ながら、自分がやってしまった事に涙が出そうになった。もう口を聞きたくないって言われたらとか、また顔を合わせた時に嫌われたらとか、最悪な事しか頭に出なくて。まだ彼からほんの少し臭うフェロモンがさっきの事態を思い出させ、俺は帰ってしまった。
でも、1週間経った朝になつと会ってしまった。なつはあの時を思い出せるからか俺の顔を見た後に顔を少し赤くして、俯いた。
俺も緊張してるからかいつもは適当な挨拶を交わすつもりだったのに、おはよう、とらしくない挨拶をしてしまった。それでもなつも俺に合わせて挨拶をしてくれては、俺の隣まで来てくれた。
何事もなかったように接してくれる彼に有り難さと申し訳なさを感じながら彼の歩幅を合わせて学校へ行った。
それから3ヶ月が経った時、なつが学校を休んでしまった。
きっとヒートでまた1週間休むかと思って、なつのいない時間を乗り越えたのに、それから何日、何週間も学校に来ていないし会っていない。
スマホで心配の言葉を投げかけてやるが既読はつかないし、1回だけ彼の家にお見舞いに行ったが、出てきてくれた彼の母からは
『なつは今風邪が酷くて、いるまくんに移すと悪いから…』
と、申し訳なさそうに謝り断られた。それ程酷いものかと俺も了承して帰り、それからは受験や部活の引き継ぎが忙しく、彼の家に訪問する時間がなくなっていた。
そんな毎日を送っていた今日、
俺の心は彼の心配と会いたい気持ちで溢れかえっていた。 部活の引き継ぎもだいぶ片付き、志望校も決まりそこそこ良い点も取れるようになってきた為、彼の家に訪問しようと次の時間の準備をしている時、
桃「いるまッ、いるま!!」
俺となつの中学からの友達のらんがこちらに走ってきた。いじりに来たかと分かりやすい嫌そうな顔をしながららんの顔を見てみると、顔を真っ青で必死そうにしている姿があり冗談じゃない事が分かる。
茈「どうした?」
桃「っなっちゃんがッ…なつ、がッ…」
桃**「っ学校を辞めるって…!!」**
茈「……は?」
らんの言葉に思考が追いつかなくなる。
桃「っ先生は、なつが病気になったからとか、家庭の事情とかもあったからって、隣の教室から聞いてっ…!!」
俺は思わず立ち上がり、自転車の鍵を持って教室を飛び出そうとする。だが、らんに腕を捕まれ止められた。
茈「っらんッ!!離せよッ!!」
桃「待ってよッ!そんな、急に行ったって断られるだけでしょッ!!」
茈「じゃあ何もしねぇで大人しくアイツを見送れって言うんか”ッ!! 」
俺達の言い合いに教室の騒ぎ声が静かになる。それを見たらんは焦っているが、俺は羞恥心も焦りも何処にもなく、ただなつに会いたい一心で教室から出たかった。
桃「っ…とりあえず、今はやめろ。なつだって今も病気と戦ってんだから、行って困らせたりしたらシャレにならんだろッ…」
茈「っ…っ、なつッ…」
だとしても、なんで俺には言わないんだ。
十数年間の仲なのに、 俺は、またお前を助けてやれないのか?
結局俺は、大人しく授業を受けた。
先生の教える授業内容なんか俺は耳に入らなくて、ただずっと隣にいた彼の存在がいきなり居なくなった事の現実が受け止めきれなくて、孤立感と寂しさで胸がいっぱいだった。
そんな事をずっと考えてる1日が終わり、俺は玄関に行き靴を履き替えた。
桃「いるまっ」
言われたばっかなのに、なつの家に行こうかと足が彼の家の方向に向こうとした時、言った張本人が俺の後ろから声をかけてきた。
茈「……んだよ…」
桃「そんなに暗い顔されたら、困るだろ」
らんは笑顔で言ってるが、なつがいなくなった事に寂しさがあるからか無理にあげてる口角が本心を滲み出している気がした。
桃「…みことが、先生に聞いたらしい」
茈「何が…」
らんから言われた言葉に俺は目を見開いた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
茈「っ…今日、だよな…」
少しの緊張感を持ちながら、休日でも練習に取り組む陸上部の声を聞きながら校門に入る
桃『なつが、今週の土曜に学校に来るらしい…!___』
みこととらんの情報を頼りに、俺は学校に行った。きっと、自分の荷物だけ取りに、誰も居ない時を見計らって学校へ向かったのだろう。他の4人も会いたそうにしていて連れて行こうとしたが、俺の気持ちを尊重してくれたのか断られた。
そんな優しさを感じながらも俺はなつを探しに廊下を歩いてく。学校に入る途中、彼の親が乗ってる車を見つけたから、 きっと学校に来ているはずだと小走りで探す。
彼のクラスの教室も、いつもサボる時に使う空き教室も、昼飯を食う時に行った屋上も、放課後たまに遊んでいた裏庭にもいない。 探し始めてから1時間が経つが、どこを見ても彼はいない。
茈「っなつ、何処だッ…!!」
彼が帰ってしまうタイムリミットに迫られながら必死に探した。むしろ全ての場所を探してもいないから、もう帰ってしまったのではないかと焦りと不安が俺の中に膨らんだ。それでもまだ居ることへの願望を抱きながらまた彼の教室へ行こうと足を動かそうとした。
赫『ッ!!あの、俺もう行くな?///』
茈『え?…あぁ、もう授業始まるか…』
そんな時、ふいに思い出す。
彼から、ノートを返されてない事を。
俺はなつの教室を行こうと廊下を走ってた足を止め、反対側の、俺のクラスの教室に向かって全力で走り出した。
何十年の仲だから分かる。俺と性格が真反対な事も、彼は絶対に約束を守る事も
自分のクラスの教室が見えてきては、俺は走る脚を早める。扉の前で急ブレーキで内履きをキュッと鳴らし、扉の取っ手に手をかけた
((ガラッ!!
茈「なつッッ!!」
教室はとても静かで、俺が走り疲れて口から吐き出す息しか聞こえない。少しズレてて不規則に並んでる机を見ながら俺の席に目を向けた。
机の上には汚い俺の名前と英語と書かれたノート。
傍にいる人影は、彼が大好きだとよく飲んでいたミルクティーの髪色に、小さい頃からつけてた赤と黒のピン、着崩したシャツと緩んだネクタイが風に吹かれて揺れている。
久しぶりに、彼を見た。
すると、いきなり俺から逃げるように走り出そうと足を動かし俺がいる反対側の扉へ向かった。俺も彼が逃げないようにと先に反対側の扉へ向かった。案の定、彼は反対側の扉から出てきて廊下を走り出そうとしてて、俺は必死に腕をのばし、彼の腕を掴んだ。
茈「っなつッ!!逃げんなッ!!」
俺の言葉に、なつは足を止めた。
それでも、なつはこちらに顔を向こうとしない。俯いたまま、大人しく俺に腕を掴まれていた。
捕まえたものはいいものの、彼になんて話そうか悩んでしまう。聞きたいことは沢山あるのに、頭が整理しきれていない。
赫「…久しぶり、だね。いるま」
少し掠れたなつの声を聞いたら、少しづつ聞きたかった事が頭の中で整理されていった。
茈「…ほんとに、退学すんの?」
赫「…うん」
茈「っなんで、俺に言ってくれねぇのッ…」
赫「…ごめん…」
茈「ッ何処に行くん?隣とかか?遠く?」
赫「ッごめん、言えねぇっ…」
茈「…症状とか、教えてくれん?」
赫「っそれも、言えねぇ…」
茈「っ俺、そんなに頼りねぇ…?」
赫「ッ…そんな、ことっ…」
聞きたい事を聞いても、なつは曖昧な返事ばかりで、何も聞き出せない。ただ、俺が掴む彼の腕は震えていた。
なんで、なつはそんなに怯えてるのか、俺から離れてるのかが分からず、頭の中で記憶を思い出させた。でもやっぱり、俺が心当たりがあるのはあの時のなつのヒートの時で。
茈「っ…ごめんっ”…」
謝ることしか、俺にはできなくて、
茈「ッ俺が、お前の事襲ったからかっ…?」
そう言うと、なつは分かりやすく身体をビクつかせてはまた、身体を震わせた。
茈「なつッ、」
赫「っやめろ”ッ…違うからッ…」
茈「んな訳ねぇだろッ…!俺がっ、俺のせいでっ、お前がこうなってんのにッ…!!」
赫「違う”から”ッ!!」
そう言って俺の手を振りほどいては、なつの顔が見えてしまった。
赫「ッ…違うッ…違う、からッ…」(ポロポロ
彼の泣き顔を見てしまい、あの時の俺の罪悪感が生まれては、あの時より重く押しつぶされそうになる。
そして、少しだけ、彼の症状が分かってしまった自分も生まれてしまった。
茈「ッ、お前ッ、まさ、かっ…!」
赫「ッお願いっ…近づかんといてッ…」
茈「なんでッ、そんな事早くッ”!!」
赫「嫌だ”ッ!!!」(ポロポロ
そう言って、俺から逃げるようになつは廊下を走り出した。俺も追いかけようとするが、罪悪感と疲労が来てしまい、足がすくんで動かなくなってしまった。
少しづつ彼の姿が遠くなっていく。
待てッ、 俺、まだ、 何も言えてないのに…
赫『ありがとうっ、』
なつを、幸せにできてないのに…
赫『ッお前だって遅刻してんじゃんっ!』
なつに、まだ、何も伝えられてないのに…
赫『いぅまっ、が、いるッ…からっ…おぇ、ず…とッ…ぐる、しぃ”ッ…//////』
茈「___ッ好きだッ”!!!」
赫「ッ…!!」
茈「ッ…なつの事ッ、好きだッ…!!」
掠れる声で俺は言い放った。
やってしまった事への罪悪感とか、気づけなかった自分への醜さとか、彼の苦しそうな顔を見てしまった苦痛とかが、押しつぶされそうになっても、 今はアイツの事は追いつけなくて、床に這いつくばる事しかできない、かっこ悪い姿を晒してしまっても。
せめて、この想いだけは伝えておきたかった。
すると、遠くにいる愛おしい彼は、俺の言葉に止まったあと、啜り泣く声が廊下に響いた。必死に腕で擦って涙を止めようとしてて、止まらないのか涙が床に落ちてて。 そんな姿をさせてしまったことに俺も、涙が溢れ出てしまった。
何とか、なつは少し落ち着いたのか、消えそうな声で、呟いた。
赫「ッ…ごめん、なさぃ”ッ…」(ポロポロ
そう言って廊下を走りだし、見えなくなってしまった。
彼との別れの言葉は、俺の長年の想いの終止符を打ったものだった。
茈「ッな、つっ…」(ポロポロ…
誰もいない廊下で、俺は泣き続けた。
NEXT⇒♡3,000
コメント
2件