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親から言われた、あの言葉
やってしまった失態を、心臓を抉られたようなこの言葉を、俺は覚えている。
父『その変わり、 学校を辞めなさい。祖母のとこに住むぞ』
赫『…は?な、なん、でッ…』
父『…いるま君にバレたくないのなら、離れるしかない。それに、ここは住みにくい。街の空気も治安も祖母のとこならまだ良い方だろう』
赫『っ……』
父『お前の願いは聞いてやる。これ以上何言ってもお前は諦めがつかない事は分かってるからな。』
父『だが、いつかはいるま君にバレる時が来るだろう。お前が赤ん坊を残して居なくなった時、いるま君に俺らから赤ん坊を渡して言ってやる』
父『お前が殺したんだ、と___』
赫「___っ!!」
新幹線で眠っていた目を開ける。窓の外を見れば、俺が住んでいた見慣れた街が遠くから見えている。
先程見た夢、学校を中退する前に親と約束したあの嫌な話を頭の中が掻き乱しては、俺は必死に忘れようと頭を振る。
新幹線には仕事帰りの疲れた顔をしたサラリーマンや、都会まで遊びに足を運んだ女子高生達が乗っている。その中に混じって1人、窓の方へと顔を移すしかなかった。
俺は、親元から離れて田舎へと行き、そこで暮らすことになってしまった。
妊娠している為学校には行かず、祖母のとこでお手伝いをしながら出産も、子供の世話もする事になった。いつ、彼がいる都会に戻れるか分からない。もしかしたら、もうこの先会えないのかもしれない。
でも彼も、子供も守るための覚悟を決めて俺はこの決断をした。
手元には自分の着替えや必要なものだけを入れたキャリーバッグと、大事な品を入れた小さショルダーバッグ。
そして俺のお腹の中にいる小さな命
まだ腹は膨れていないし、本当にいるのか分からない。けれど、何故か守ってやらないとという使命感に駆られて腹を撫でてしまっていた。
今まで自分の腹なんか、食べ過ぎで太った身体をいるまに見られたくなかった時くらいしか気にしたこともなかったのに。
赫「っ…ぃ”、るまッ…」(ポロポロ
きっと、あの時の事故でできてしまった事、俺の腹にいる赤ん坊の存在も、彼は知ってしまったんだろう。
彼は俺がΩだって事は知ってるけど、自分が妊娠させたその対象になるとは思わなかったはず。
会った時、知った時、気持ち悪いとか離れて欲しいとか言われていれば。 俺は楽だったのに、逃げきれたのに
なのに、
茈『___ッ好きだッ”!!!』
茈『ッ…なつの事ッ、好きだッ…!!』
告白されるって、思わなかった。
彼の俺に対する気持ちの中に、少し混じった悔やんだ声を今まで聞いたことがなかった。 いるまは優しいから、嘘でもそう言って引き止めるんだろう。
赫「っ…ク、ソッ…クソッ…!!」(ポロポロ
でも、偽りもない、本心から放った彼の言葉は俺の胸に刺さったままだった。
いつもクラスの輪の中心に居るような、友達も恋愛対象として見られてる女子達もいて恵まれてる彼が俺を選んでくれた事。
妊娠した俺を見て、引いたような顔もせず、きっと俺を探しに学校を走って、疲れてるだろうに必死に俺と向き合って、口に出せなかったであろう言葉を言って、振ったら心から悔しがって泣いてくれた事。
全て、嬉しかった。
赫「嫌っ、だッ…嫌だぁっ…」(ポロポロ
もう遅いのに、自分から離れたはずなのに、忘れてしまった方が楽なのに、まだ心の中に彼が残っている。
もう一度、もう少しだけ、1分でもいいから彼と話をしたかった。
彼の温もりを感じたかった。
あの温かい手で俺の腹を撫でて欲しかった。
でも、そんなのはもう叶わない。
告白も、行為も、彼との過ごした日々を思い出しながら、 静かな新幹線の中で俺は1人で泣きながらこの街を離れた。
それからも、泣き疲れたのか眠ってしまっていた。目を開けば外は先程見慣れていた景色はなく、知らない場所へと着いていた。
ビルやマンションなどの高い建物はなく、緑に囲まれた古い一軒家達が並んでいて、所々には寒い時期に入ったからかもう稲刈りが済んでいる田んぼが何十坪もある。
知らない外の景色を見ていれば、緑の多い景色から駅のホームへと変わり、新幹線にアナウンスが響いた。来てくれた人達への歓迎の旗を見ながら持っていた鞄達を準備し始める。
新幹線から降りると、東京とは全然違って人がいなかった。今まで人混みに巻き込まれながら通学していた為息がしやすい分、慣れない環境に緊張が混じっていた。
重いキャリーケースを運びながら下に向かうエスカレーターに乗り、改札に切符を入れる。持ってきたコートを羽織って、都会より寒い田舎の外へと歩いて行った。
「なつ。よう来てくれたねぇ」
久しぶりに聞いた声に俺は顔を上げれば、母さんに少し似た俺の祖母が出入口の自販機の横にあったベンチに座っていた。
赫「…久しぶり、ばあちゃん」
「うんうん、元気そうで何よりだ」
柔らかく笑ってくれる祖母に挨拶を交わして、もう数分で着くバスを一緒に待つ。
俺が着いた場所は新潟県に住んでいる祖母の家だった。
小さい頃、毎年夏休みにこの場所まで新幹線に乗り、祖母の家に行っては遊んでいた。近くの森に行って虫取りや魚の掴み取りをし、休憩に麦茶とひんやりした夏野菜を食べて過ごした日々を思い出す。
昔はそうやって祖母の家に行く事が楽しみになっていたのに、大人になるに連れここまで行くのに面倒になってしまったり、何より彼と一緒にいる夏休みを優先になってしまっていた。
「見ないうちに大きくなったねぇ…」
赫「ッうん、ごめん、行けなくて…」
「いいんだよぉ、子供は今を楽しみなされ」
それでも祖母は柔らかく笑って俺の話を聞いてくれていた。きっと、俺の母から俺が妊娠してしまった事も聞いたのに、俺のことを見守ってくれている。
赫「…ばあちゃんは、なんも思わんの?」
「はて?何がかい?」
赫「俺が、妊娠しちゃったこと…」
そう聞くと、祖母は考えてる素振りをしてしまった。祖母からすれば、自分の孫がどこぞの知らねぇ男に妊娠させられて帰ってきたなんて聞いたら驚くに違いない。 聞き間違えたと、今更後悔しているとちょうどバスが走っては俺らの前に止まった。
祖母を先に誘導させてからキャリーケースを持ち運んで俺も入る。バスの出入口にある番号が書かれた切符を取って、なるべく1番後ろで大人しく座ればバスは発車された。
バスに揺られながら、何も話せずに黙り込んでしまうと、祖母はようやく口を開いた。
「…大変だったねぇ」
赫「え?」
「子供を産むってのは、そう簡単に決めれることじゃないさぁ 」
赫「っ……」
「今の若いもんは、そうやって経験して大人になってくのがお仕事なのよ」
俺の質問の答えになっていないけれど、祖母の否定も肯定もしない言葉に、どこか安心感が得られてた。俺が悲しまないように言葉を選んでくれてるのかと祖母を見てみても、息子が帰ってきたのが相当嬉しかったのかニコニコとバスに揺られていた。
赫「…ごめんね、ばあちゃん」
「ふふっ、いいんだよぉ」
赫「うんッ…よろしくね、ばあちゃん…」
都会とは違う静かな街、いつも一緒にいた家族に言われたのと違う言葉が、より一層安心感で満たされる。
思わず涙が出そうになるのを止めるのに必死だった。
バスに揺られて20分くらい経ち、ようやく祖母が住む地に着いた。バスから降りて、祖母の家まで歩いてく。
昔遊んだこの思い出の景色は、俺が来てない間にも変わっていた。昔行った駄菓子屋さんも日中でも扉は閉まっていて、毎回挨拶を交わすと笑顔で出迎えてくれるおじいさんもいない。
「…みんな、歳をとっていくもんよぉ」
赫「!」
「それでも、変わらない場所もあるからねぇ」
そんな祖母の話を聞きながらついて行くように俺も歩む足を少し早めてく。歩いてると、祖母の家が見えてきた。
祖母の家は変わらなくて、唯一塗装が剥がれてきたからか家の壁の色がくすんだ色へと変わっていた。周りには俺が遊びに行った森も遊んだ公園も残っている。
「あらまぁ、糸満さん家のお孫さん?」
懐かしさに浸っていると、隣の家からご近所さんが出てきた。よく料理を作っては祖母の家に分けてくれてたから顔馴染みはあった。柔らかく笑ってる顔は、昔と変わらない。
「こんなにもべっぴんさんになっちゃって」
赫「ぁ、ははっ、そうすか笑」
久しぶりに出会ったからかどう接すればいいのか分からなくなった俺は、曖昧な返答に雑な敬語を混ざってしまう。
それでも楽しそうに話をし続けるお隣さんに安堵の気持ちと、早く離れたいという焦燥が出てしまう。
「なぁつ、荷物を置いてきなされ」
まるで助け舟のように祖母は笑って俺の荷物を運ぼうとしてくれている。
赫「ばあちゃん、重いからいいよッ…」
「あら、長くなってごめんなさいねぇ、何もないとこだけどゆっくりしなされ」
ようやく離してくれたご近所さんに俺は会釈をしては荷物を手に取る。次に 祖母と立ち話を交わし始めた為、俺は祖母の家へと入った。
家に入り、手を洗ってから祖父のとこに挨拶に行く。祖父は俺が中学生の時に癌によって亡くなってしまった。静かな人だったが俺が帰ってくるとお菓子を買ってくれたり、散歩をしたりと囁かな優しさを貰っていた。
お線香を挿して手を合わせて挨拶をする。しばらくお世話になる事も伝えてから 荷物を持って寝泊まりの時に使ってた2階へと行った。
ここに来る前に綺麗にしてくれた部屋はホコリ1つもなく、綺麗に片付けられていた。タンスと布団、柔らかい座布団と机が置かれたシンプルな畳部屋。持ってきた荷物を取り出しては整理をしていく。
持ってきた荷物は少なかった為、タンスに服類を入れるだけで他の荷物は鞄に入れておく事にする。 外を見れば日は暮れていて、学校帰りの学生達が歩いてたり、自転車をこいでいた。
赫「…っ、元気に、してんのかなッ…笑」
自転車をこいで速さを競ってる学生を見て思い出してしまった彼との通学路。あの時の寝坊の他にも、何回か彼の後ろに乗っては通学した事があった。
坂道を登る時は2人分の重さに耐えきれないからと降ろされて一緒に上り、降る時は後ろに乗り一緒に下って、スピードに追い付けれなくて持ってた荷物が飛んでいっては、笑いながら拾いに行ったのも思い出だった。
最初の頃、怖くてしがみついてしまった時、後ろから見えてた彼の耳が赤くなってたのも、今になってようやく気づいてしまった。
そんな昔の思い出に浸っていると、玄関の方から扉の音が聞こえる。お隣さんと話を終えた祖母が入ってきたのだろう。
下に降りる前に、前の病院から貰ってきた母子手帳を取り出して机に置いておく。表紙に描かれていたマタニティのイラストを見て、無意識にまだ人間としての形をしていない小さい命が入ってる平べったい腹を撫でる。
赫「…病院行って検査しねぇとな」
未だに自分が母親になる事が実感できない今、消えない不安を忘れようと心に押し付ける事しかできなかった。
それから、アプリの地図を見ながら総合病院へと行った。
学校帰りの学生と並んで歩いてると、 俺の顔は見ないのか周りからチラチラと見られては、顔を赤らめながらコソコソと何か話している。
嬉しいけど、ここに暮らして関わりが繋がったとしても、可愛い子とかかっこいい人とかに好かれたとしても、どうせ期待に答えらんないんだろう。
『___なつっ!』
俺の名前を呼ぶアイツが、鮮明に頭に思い浮かぶ
赫「……ッはぁ… 」
きっと、唯一卒業できない物を足枷に俺は生きていくのだろう。忘れたくて、周りの視線から逃げたくて無意識に足を早めながら視線はスマホと一本道を交互に向ける。
歩いて数十分、地図に示されてた総合病院へと着いた。それほど大きくないが新しい外観を持ってる病院の玄関に行き、壁に吊るされた地図を一通り見てから中へと入った。
産婦人科の受付カウンターを探しながら、長い廊下を歩く。意外と中が広い病院をうろついては、近くにいた看護師に案内される。
医者から事前に連絡をしてくれた為、用意された書類を渡して名前を言ったらすぐに準備すると言ってくれた。その間、受付前の椅子に座って母子手帳と書類を手に持ち、祖母から貸してもらったコートを着てお腹を温めておく。
周りを見てみれば若い女性ばかりで少し居ずらくなる。男性で妊娠したなんて言ったら、きっとαとそういう事をシただとか、ヤリチンに無理やり孕まれただとか、悪い印象を持たれそうで。
アイツはそういう奴じゃないって、言いたい
「暇さーんっ、こちらへ〜」
赫「ぁ、はいッ…」
看護師さんの呼ぶ声に数人の妊婦は反応し、俺の事を見た。何か言われる前に俺は急いで呼び出された部屋へと入っていく。
中に入れば若い男性の医者が座っていて、俺の書類を見ていた。俺に気づいたのか視線を向けては真剣な顔から笑顔へと変わる。
「こちらに座ってください」
赫「っ、失礼します…」
医者は裏に行った為設置された椅子に座って、大人しく医者を待っておく。戻ってくれば手元には俺が持ってきた書類があった。
「暇さんは、現在妊娠されてるという事で?」
赫「ッ、はいっ…」
「ふふっ、そんな緊張されなくても大丈夫ですよ」
俺の緊張地味た声を、医者は柔らかく笑ってくれた。
それからも細かく説明される。
運動はしないで大人しく過ごす、重い荷物は持たない、バランスの良い食事、カフェイン摂取はしないと、 運動以外の項目はどれもできなさそうで無意識に顔を引きつってしまった。
「…という形ですので、暇さんの夫にもサポートのご相談をしてみてはいかがでしょう? 」
その言葉を聞いて、心臓の奥底が槍で刺されたように痛くなった。返事をする声も、言葉も出なくなってしまった。 口を開いたまま何も言わない俺に、医者は顔を傾けてしまう。
赫「ッあの、夫が不在の場合って…」
そう言った瞬間、医者も俺が意図して言ってる言葉に気づいたのか目を見開いた。
「…そうですか、それは大変申し訳ありません」
赫「い、いえっ、そんな…」
持ってきた書類の空白欄に何かメモをしていく。俺は夫 がいない説明をしてみれば、医者は真剣に話を聞いてくれた。 事故を起こしてここに来た事と、 祖母の家に住むことになったが、従姉妹や親戚がサポートしに来てくれる事を。
「そうですか…かしこまりました」
きっと哀れだと思われてそうなのに、笑顔が崩れない医者。それからも体温計を渡され毎日測ってくれとの話と母親学級の説明をされていく。
一通り話し終えて、腹の中の赤ちゃんを確認したくエコー検査をする事になった。俺もいきなり言われただけで見たことがなかったから一緒に見ることにもなった。
「何より暇さんもお腹の中の赤ちゃんも無事に生きる事が大切です」
赫「…!」
「担当医として、しっかりサポートさせて頂きますね」
そんな優しい顔と声で言われてしまっては、縦に頷く事しかできなかった。
赫「ありがとう、ございますッ…」
寂しい気持ちはあるけれど、丁寧な対応をしてくれる人達を見てここに来て良かったのかもしれないと、初めて感じていた。
日が暮れ、空が暗くなってきた頃に検査は終えた。暗く見えにくい夜道に気をつけながら、祖母の家までゆっくり歩いてく。
都会と違って、ここは空気が澄んでいて騒ぎ声も聞こえない。今歩いてる道から離れた民家の灯は、都会のような色鮮やかな灯はなく、みんな同じ黄色い暖かそうな燈が漏れていた。
都会とは違う景色を目の当たりにしては、さっき貰ってきたエコー写真を見てみる。
『暇さん、これが赤ちゃんですよ』
そう言って映像に映し出されてる自分の腹を見る。 お腹の少し左側部分にある豆粒位の小さな命。本当にいるという実感が湧き、信じられなかった感情が薄まってく。 泣くも笑うもできずに、映像に映るものに目が離せなかった。
そんな初めて見た自分の子に、自然と心臓が鳴り響く。緊張なのか心配なのか分からないけれど、少しだけ母親の自覚を持てれる物だと感じてきた。
今日はここまで来てすぐに病院へと向かうという長旅で疲れが溜まっていた。足は痛いし、お腹も空いている。祖母がきっと夕飯を作って待ってくれてるんだろう。
貰った大切な写真と母子手帳を握りしめて、夜道を少し早足で駆け抜けた。
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