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桃彩学園SNS部
第3話
「6月 ~試練」
中間試験を終えて社たちはホームルームで担任の話を聞いていた。
教師「さて、そろそろ球技大会の時期だが、今年は敢えてクラス対抗とはせずに、趣向を変えて、色分けによるチーム対抗とする。」
じゃっぴ「は!?」
担任のこの言葉には社だけでなく、クラス中の全員が「は!?」と思った。
教師「競技は男子は野球、女子はバレーだ。これから表を配るから、チーム分けは各自確認しておくように。」
ホームルームの後、SNS部員はいつも通り部室に集まり、球技大会の準備をすることにした。事はいつも通り、直切が取り仕切る。
なおきり「…意外にもこの12人が全員同じチームとはな。というワケで、俺らも球技大会に向けて野球の練習しよう。まずはポジション分けだな、てトコだが、この中で野球やったことあるヤツ、どんだけいる?」
じゃっぴ「ああ、俺超得意!」
うり「俺も。」
社と龍宇は勇んで名乗り出る。
なおきり「じゃっぴとうり坊だけか。他は?」
うり「だからそのうり坊てのやめろ。イノシシか俺は。」
ヒロ「ボクも少しは自信あるかな。」
博文も名乗り出た。直切はさらに続ける。
なおきり「あとのヤツらは?」
どぬく「やったことはないが、俺も自信はある。」
たっつん「俺も、小さいときはよう親父とやっとったわ。」
ゆあん「やったことはないけど、面白けりゃ何でも良いよ、俺。」
なおきり「…微妙だな。まあいいか。で、風太と柴は?」
できるのかできないのか分からない微妙な発言をする3人を尻目に、直切は残る2人、風太と柴に問う。
たっつん「柴、どや?」
シヴァ「無理。俺、超インドア派だし。」
じゃっぴ「紫苑は?」
もふ「俺も柴君と同じです。」
柴と風太は共に無理といった。それもそのはず。柴は校内でも有数のSNS依存症で自他共に認める超インドア派。風太は勉強漬けのガリ勉。この2人が運動が苦手なのはSNS部内で周知の事実だ。
じゃっぴ「どうすんだよ? 2人は戦力外ぽいぞ。」
なおきり「橙野に男装して出てもらおう。コイツなら男でイケるだろ。」
えと「殴るよ?あんた。」
なおきり「…冗談だ。2人は外野に回そう。とりあえず、次はポジション決めだな。」
直切は冗談を早々に切り上げ、SNS部男子たちは次の課題であるポジショニングについて話し合う。そして、その結果…
ピッチャー…直切
キャッチャー…土井
ファースト…達矢
セカンド…博文
ショート…龍宇
サード…社
レフト…悠安
センター…風太
ライト…柴
と決まった。ポジションを決めたSNS部は早速、用具を用意して練習へと入る。ただし、グラウンドは運動部が使っているため、近くの手頃な公園で練習することにした。
るな「皆頑張ってー!」
のあ「ファイトー♪」
えと「負けたら承知しないよー!」
女子3人は場外のベンチで男子たちを応援している。
ゆあん「ひゃっはー!皆で野球!楽しいなー!」
うり「さて、いっちょやるか!」
じゃっぴ「へへ、打つぜ場外ホームラン!」
なおきり「SNS部の結束、見せつけてやろうぜ!」
どぬく「うむ!」
もふ「お手柔らかに頼みますよ。」
はしゃぐように跳ねる悠安、勇んで拳を合わせる龍宇、場外ホームラン打つ気満々の社を筆頭にメンバーは勇み足だ。だが、例外が約1名いた。
たっつん「柴、どした?先から震えとるで。」
シヴァ「いや、ちょっと自信なくてさ…」
たっつん「無くてもええやんか。俺も超久々やし、初日やから気楽に行こうや。」
自信なさ気にしている柴を達矢は気楽に元気づける。
そして、練習を始めたSNS部。準備運動を軽く終えた彼らはまずバッティングの練習から始める。トップバッターは悠安。まずは博文が家から持ってきてくれたピッチングマシンから打ち出された時速80㎞程のボールを難なく打つ。軽く宙を飛んだが、当たりが良過ぎて当然、龍宇にキャッチされてしまった。
次に打ったのは龍宇。勢いよく振ったバットがクリーンヒットし、早速ホームランを当てた。
るな「やったー!」
のあ「羽黒君すごーい!」
うり「…うるせーな。」
龍宇は女子の声援を邪魔がる。これだから女子は…と。だが、僅かに嬉しそうだ。
そして、続く打者たちも順調にヒットを出す。だが、8番打者の風太は空振り三振で終わってしまう。そして、最後の9番。柴の番だ。
なおきり「柴、行くぞ!」
シヴァ「お、おう!」
柴は勇んでバットを構える。そして、ピッチングマシンからボールが放たれた。柴はこれを打とうとしてバットをスイングしようとするが、肩が力み過ぎて振り遅れた。それに加え、勢い余って右肩から転倒してしまう。
シヴァ「痛っ!?」
たっつん「シヴァ!?」
のあ「柴君?」
店頭した柴の元に部員たち全員が駆けつける。幸い、柴に怪我はないが、社は柴を批判する。
じゃっぴ「情けねえな!コケてんなよ!」
ヒロ「よせよ、じゃっぴ。」
なおきり「怪我がないならいい。次はキャッチング練習と行こう。」
ストレートに言う社を博文が制止する。そして、直切の言葉通り、SNS部員たちはキャッチング練習に入った。
キャッチング練習では龍宇が宙高く投げたボールをキャッチするというモノだった。ここでも社や達矢ら、慣れたメンバーは難なくキャッチを行う。だが、野球を知らない風太と柴はやはりまだ1つもキャッチできずにいた。
どぬく「シヴァ!そちらに行ったぞ!」
土井の言葉を聞いた柴はミットを構えて降ってくるボールを取ろうとする。だが、ボールは柴の額に降ってきて、そのまま柴に額に命中した。
シヴァ「痛っ!?」
ヒロ「シヴァ!?」
額を打って倒れ込む柴を心配し、SNS部員全員が駆け寄る。だが、社だけは例外だった。
たっつん「シヴァ、大丈夫か?」
シヴァ「あ、ああ…」
打った頭を押さえる柴に対し、達矢は心配して声をかける。だが、そこに社が厳しい目で詰め寄る。
じゃっぴ「お前ホント運動音痴だな!あれくらい取れよ!」
シヴァ「…」
たっつん「じゃっぴ、やめえ!」
社の厳しい言葉に柴は黙りこくった…と思いきや、柴は急に立ち上がって社に言い放つ。
シヴァ「…お前みたいな体力バカと一緒にすんな!」
じゃっぴ「あ!?」
柴の言葉に社はカチンと来た。そして、その怒りのままに右手で柴の胸ぐらを掴む。
じゃっぴ「おい!今、何つった!」
シヴァ「お前みたいな体力バカと一緒にすんなって言ったんだ!俺は野球初めてなんだ!」
じゃっぴ「誰がバカだこの野郎!」
社は柴の胸ぐらを掴んだまま柴を投げ飛ばした。柴は尻もちをついて地面に倒れた。
シヴァ「つっ…」
立ち上がろうとする柴に社は詰め寄り、柴を踏みつけようとする。達矢は社を止めようとするが、それより早く乃愛が社と柴の間に入った。
のあ「じゃっぴ!もうやめて!」
乃愛は両腕を広げて社を制止する。
じゃっぴ「…どけ。乃愛。」
のあ「ダメ!柴君だって一生懸命なんだよ?それに野球は初めてだって!」
乃愛は柴を庇う。柴は少し涙が出た。だが、それを見た社はさらに厳しい態度を取る。
じゃっぴ「女に庇われて泣いてんじゃねーよ!ヘタレ野郎!」
社は柴をヘタレと罵る。乃愛はそんな社の顔に張り手をかます。
じゃっぴ「っ!?」
のあ「何でそんなこと言うの?じゃっぴと柴君は仲間でしょ?」
乃愛の目は少し涙ぐんでいた。その後ろでは柴がゆっくり立ち上がった。
シヴァ「…もういいよ。のあちゃん。俺、もうこの部辞めるから。」
一同「へ!?」
じゃっぴ「…」
柴はいきなりSNS部を辞めると言い放つ。部員たちは当然、驚いた。社1人を除いては。
シヴァ「俺、元は引きこもりだし、そいつの言う通り運動音痴だし、この部には向いてないと思ってた。だからもういい。じゃあな。」
柴はそう言って荷物をまとめてその場を去った。自分の運動音痴は自分が1番よく知ってる。だが、悔しい。社に言われた言葉が悔しくてたまらない。泣きそうだった。
のあ「柴君!待って!」
なおきり「よせ。」
柴を引き留めようとする乃愛を直切が制止する。
のあ「でも…」
なおきり「男があんなに悔しい時に女に慰められたら余計惨めになる。」
どぬく「うむ。同感だ。」
直切と土井は敢えて柴を制止しなかった。乃愛はいまいち納得がいかないが、そこは枝美が教える。
えと「男ってこういうモンなんだって。私らが口出しすることじゃないと思う。」
その後日、柴は昼休みにクラスで1人、スマホをいじって新しいコメント等をSNSに投稿していた。そこに土井が来て、柴に話しかける。
どぬく「すまん。少し話がしたいのだが良いか?」
シヴァ「…」
柴は土井の目を見て渋々、土井に付き合うことにした。
土井は柴を廊下の隅に連れ出し、そこで話をする。
シヴァ「何の用?俺、もうSNS部辞めたんだけど。」
どぬく「まだ退部届をもらってない、と直切が言っていたぞ。」
シヴァ「じゃあ今から書く。」
どぬく「待て。お主自身はこのまま辞めて良いのか?」
シヴァ「は?」
どぬく「余計なお世話かもしれぬが、あのままで悔しくないのか?」
土井、ひいては直切らは柴の退部をまだ認めていない。退部届を出していないから、というのもあるが、柴の中でくすぶっているモノがある、と思っていた。そして、それは今の柴を見ていても分かる。土井はそう思って、ある提案をしてみた。
どぬく「悔しいと思うなら、それを当の本人にぶつけてみてはどうだ?」
シヴァ「…と言うと?」
どぬく「放課後、体育館裏にて待つ。お膳立てはしておく。」
土井はそう言って自分の教室に戻った。
シヴァ「…」
柴は土井の言葉を聞いて、「悔しさ」が再びこみ上がってきた。
放課後、柴は土井の言っていた体育館裏に来た。土井の言う「悔しさ」をぶつける先。それを見て確かめるために。そして、その体育館裏にいたのはSNS部の男子部員たち8人だった。
じゃっぴ「よくもまあ逃げずに来たな。」
シヴァ「?」
社はポケットに手を突っ込んだまま立ち上がって柴を見やる。だが、柴は状況が読めなかった。
シヴァ「なあ、これって…?」
なおきり「ん?どぬ、言ってなかったのか?」
どぬく「いや、言ってはあるが、察せられてなかったようだな。」
土井は柴の「悔しさ」をぶつける先を教えたのだが、柴は理解できていなかった。そのため、柴は状況説明を要求した。
どぬく「分かり易く言おう。柴、お主がこのままSNS部を辞める気ならこのまま帰ればよい。だが、残る気があるなら、悔しいと思うなら今ここで社と立ち合え。」
なおきり「立ち会いは俺とどぬでやる。」
たっつん「悔しいんやろ?そやったら、ここで逃げずに戦わんとな。」
うり「ちなみに、うるせえ女子は外しといたからな。」
ヒロ「思いっきり吐き出してやっちゃっていいよ。」
ゆあん「…頑張れよ。」
部員たちは口々に言う。最後に、柴と並んで最も素手のケンカ等が苦手な風太も。
もふ「男なら、時にはこういうことも必要だそうですよ。」
シヴァ「…!」
彼らの言葉を聞いて、柴は覚悟を決めた。その目を見た直切と土井、そして社も柴の覚悟を認め、柴を挑発するように誘う。
じゃっぴ「…分かった。良いぜ。かかって来いよ。」
社と柴が激突していた頃、乃愛、枝美、流菜ら女子部員たちは部室でゆっくりしていた。枝美と流菜は互いにスマホを開いてショッピングサイト等をチェックしていた。乃愛もまた彼女らに混ざっていたが、どうも嫌な予感がしてならなかった。
のあ「…やっぱり心配。」
るな「ん?」
えと「何が?」
のあ「決まってるでしょ。男子たち!」
乃愛はそう言って、部室を後にして男子組のところへ行こうとする。男子組のいるところへ行くのを制止されていたが、気になって仕方なかった。
えと「…どうする?私らも行こうか?」
るな「…来ない方が良いって言われたけど、気になるよね。」
流菜と枝美はお互いを見やった後、結局行くことにした。
その頃、体育館裏では社と柴が殴り合いをしていた。社の容赦ない鉄拳は柴にことごとくクリーンヒットを与え、柴にダメージを蓄積させていく。一方で、柴の攻撃は社に当たらず、払いのけられたり躱されたりしてしまうばかりだった。立会人の直切と土井をはじめ、他の部員たちもシリアスな目で戦況を見ている。そして、社の鉄拳が柴の顔にクリーンヒットを決めた。柴は鼻血を出してうずくまった。
じゃっぴ「お前が俺に勝てるワケねえだろが!」
どぬく「ん?」
社は倒れた柴に言い放つ。だが、柴はまだ立ち上がろうとする。
シヴァ「…まだだ。まだ足りない。」
じゃっぴ「…何が足んねえのか知らねえけど!」
社は柴の言葉を理解できないまま、立ち上がろうとする柴の顔面に左足で蹴りを入れる。柴は軽く吹っ飛び、再び倒れ伏した。しかし、それでも柴は立ち上がろうとする。
じゃっぴ「…まだやる気か?」
シヴァ「…当たり前だ…まだ吐き出し足りないんだ…」
じゃっぴ「…後悔すんなよ?」
社は再び立ち上がろうとする柴に一応の忠告を入れるが、柴はまだ足りないという。社はそんな柴に再度蹴りを入れようとする。だが、その直後に乃愛の声が聞こえてきた。
のあ「ダメー!」
乃愛は間一髪のところで社と柴の間に割って入った。そして、ボロボロになった柴を見てその傍に駆け寄る。
のあ「ひどい…柴君、大丈夫?」
シヴァ「…ああ…」
乃愛はボロボロの柴を気遣った後、男子部員全員に言い放つ。龍宇だけは「あーうるせえのが来た」といった感じの顔をしている。
のあ「何でこんなひどいことするの?そんなに柴君を痛めつけたいの?」
じゃっぴ「そいつが望んだことだ。悪いとか正しいとかじゃねえよ。」
のあ「そんな…そうだとしてもこんなことやめて!」
シヴァ「いいんだ…のあちゃん…俺が自分で臨んだことなんだ…」
のあ「へ…?」
シヴァ「俺、あの時はSNS部辞めようかと思ったけど、あのまま辞めたんじゃ悔しくてたまんなくてさ…それで…戻りたかったら…じゃっぴと戦えって…けど…結局…勝てなかった…」
のあ「…そうなの?」
乃愛は柴が体制を立て直す機会を手伝う。柴は壁にもたれて休む。直切はそんな柴に声をかける。
なおきり「どうする?休憩したらまたやるか?」
シヴァ「いや…もういい。吐き出したいモンはもう出せた。負けたけど…」
柴は自分の負けを認めて一休みする。そこで、それを腕を組んで見ていた土井がある提案をする。
どぬく「直切、彼はもう合格でよかろう。」
なおきり「だな。」
シヴァ「…合格?」
のあ「どういうこと?」
土井と直切は柴を合格という。他の男子部員たちも賛成するが、柴は理解できない。もちろん、乃愛も。
なおきり「ああ、一時の気まぐれで辞めるなんていうヤツをすんなり呼び戻すワケにはいかないからな。」
どぬく「故に、戻りたければ覚悟を示してもらおうと思ったワケだ。悔しさ等の吐き出したいモノがあるなら尚更な。」
ゆあん「いやー戻ってきてくれてよかったー♪」
たっつん「1番ネットに詳しいヤツが居ってくれんと困るで。」
うり「全くだ。お前が居ねえと成り立たねえって分かったよ。」
もふ「まあ、スポーツは俺も苦手ですから。」
ヒロ「そこはもう由としよう。ウチは文科系部だからね。」
男子たちは口々に柴の帰還を称賛する。唯一、社だけはウ~ン…と言った表情をしているが、そこは乃愛が宥める。
のあ「じゃっぴ、もう許してあげよう?」
じゃっぴ「…ヘタレなのはしゃーねーけど、二度とあんなことすんなよ?」
シヴァ「…ん。」
社は少々難しい表情をしながらも柴の帰還を認める。そして、柴に手を差し伸べた。柴はその手を受け取って立ち上がる。その時、2人は微かに笑っていた。
のあ「よかった。」
乃愛は2人の和解を見て安心し、優しく微笑んだ。一方で、その様子を端から見ていた流菜と枝美がクスクスと笑っていた。
るな「いやー彼氏が心配なんですねー♪」
えと「彼氏のことをよく考えてらっしゃいますねー♪」
のあ「ち、違います!彼氏じゃありません!」
乃愛はまたしても流菜と枝美にからかわれて顔を赤める。