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さぶれ-SABURE-
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月詠 涼
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「さて、楽しいダンジョン実習ピクニックが始まったが、制限時間は一時間というところ。それ以上時間をかけるとダンジョン学部全体に帰ってこないパーティーがいる、と心配をかけることになるから、欲張らない程度に戦っていこう」
「本条君、どうやって戦っていく予定なの? 四人と一人って言ってたけど本条君は一人で何をする気なんだい? 」
「俺のほうは常にそっちが四体一で戦えるように余分なウルフマンを倒して回る。彩花と清水を中心にして、どうすればパーティーとして役割分担をしながら戦えるかを相談しててくれ。なかなか出会えないなら、モンスターの釣り出しもやってくるからこっちは完全に補助に回っていると考えてくれればいい。しばらく相談しててもいいが、俺としては清水が中心になって戦い方を組み立てるほうがいいと考えるぞ」
言いたいことを言って、とりあえず考える時間を少し与える。自分で考える時間をさくっと作ってその想像通りに体が動くかを試して、だめだったら次を試す、とどんどん粗削りから目の細かい紙やすりで磨くように仕上げていってくれるといいんだがな。
できれば朝日奈と清水と大川の三人で一パーティー、俺と彩花で一パーティーと手段が二個あるとより輝く。俺と彩花を分離してしまえば五人で三パーティー分の活躍ができることにもなる。これはこれで美味しい。
「さて、さっそく来るみたいだぞ。曲がり角の先に一匹だ。清水、盾を鳴らして威嚇するといい」
「お、おう」
盾を地面にぶつけたり、剣の柄の部分で盾をたたいて鳴らすと、曲がり角の先から少し足早にウルフマンが駆け出してきた。そのまま加速しながら清水を押し倒すようにとびかかるウルフマンだが、清水もちゃんと足腰を踏ん張ってウルフマンの爪攻撃を受け止め、盾で爪をひっかけたままにしている。そのまま清水がこらえている間に、朝日奈、彩花、大川の三人でとりかこみ、滅多刺しにしている。
さすがに三人の攻撃相手では、ウルフマンも致命傷に近いものを受けたのか、短い時間で黒い霧に変わる。とりあえず第一回目はうまくいったってところだな。
「その調子その調子。次呼ぶぞ」
次のウルフマンめがけてよわよわエネルギーボルトでこっちに気づかせる。よわよわエネルギーボルトに出番があるとは思わなかったが、こういうやり方で使い道があるとは思わなかったな。
清水を中心にした恒星系があるとするならば、さしずめ俺は数十年に一度来訪する彗星のようなものか。よわよわエネルギーボルトでカイト……釣り出し行為をした後、清水のところまで連れてきて、清水が威嚇、ヘイトを取り、清水が攻撃を受けている間に他のメンバーが倒す、という一連の流れができてくる。これは効率がいいな。
通常ダンジョンで、他のパーティーが周りにいないなら許される範囲の行為ではあるが、他にいたらできないギリギリセーフの所業、というところだろう。さすがに他のパーティーが周りにいて、目の前にいたモンスターを取り合うような場合は厳に慎まなければいけないところだが、都合のいいことにこの周りにはほかのパーティーがいない。つまり、このあたりのモンスターはどうせ俺たちのものになるということでもある。
それがちょっとテンポよくなるかどうかの違いだけなので、うまいこと釣り出して型にはめて戦いに慣れてもらっていこう。今必要なのは複数回の反復練習だ。モンスターとの出会い頭にどうするか、はこの次の課題だな。
十分ほどかけて周辺のモンスターを掃除した後、人のいなさそうな方向へ移動し、そっちでも同じ行動をとる。清水も肩の力が抜けてきたようだし、彩花もだいぶ飽きてきた様子。朝日奈も大川も問題なくついてこれている様子を見れているので、ここらで一つ移動しながらの戦闘に切り替えるとするか。
「よし、みんな待ち伏せて戦うのには慣れたな。次は移動しながら出会ったときにどう戦うかを考えていこう。移動しながらモンスターと出会うのが普通なんだが今回は俺が先に足跡を拾ってしまえるからな。順番が逆になってしまったがこれからは……あと三十分、その間は俺はモンスターを見つけても何も言わないので、出会ったら戦うように頑張ってみてくれ。どういう順番で進んでいくかも含めて俺から出せる今日の最後のテストみたいなもんだな。どういう隊列で進んでいって、モンスターが出てきたらどう対処するか。後方確認も含めてどうしていくのか。ちょっと相談してから進もうか」
俺の言葉で五人で話し合う。もちろん、俺も隊列の中に入るので俺も話に入れてもらう。ほかの四人に全部やらせて俺だけかっこつけて一人何でもできるぞ、みたいなことはしないのだ。そうじゃなければ、時間だけを無駄にする相談時間になってしまう。
「さて、順番はどうする? 先頭を清水が歩くなら、前からの構えはきちんとできることになるが、後ろから追いかけてくる場合は対応ができなくなる。その場合はどうする? 」
「その場合は……大川さんか結城さんに振り返ってもらいながら進むことになるかな。全員の目が必要になってくるし、俺だと索敵しても前180度が限界だ。後ろから追いかけてくる場合は俺が間に入れるなら間に入るけど、そうじゃない場合は朝日奈君か結城さんか本条君の誰かに対応してもらうことになる。そのあとは盾で追い込みつつ、さっきまでの形に持ち込んで順番に倒していくことになると思う」
「じゃあ、意地悪な質問だが、後ろから二匹来た場合はどうする? 」
「その時は四人で片方を倒して、本条君に一匹お願いするケースになると思う。それでもいいかな? 」
「わかった。じゃあ、俺は後ろを歩いたほうがよさそうだな。中段に彩花が入って、大川と朝日奈はそのさらに間を歩いていくような感じで行こう」
話し合いがさっと決まったところでさっそく進んでいく。モンスターは……この先に一匹いるな。さっそくうまく動いてくれるかどうか、注意深く観察しながら行こう。俺の経験よりみんなの経験。特に俺と彩花は二人だけではなく、他のメンバーと組んでパーティーで動く際にどうするのが正しい動きにになるのか? というのを考えながら動く必要がある。
俺とて、パーティーを組んで戦った経験は数えるほどしかない。ほとんどソロだ。ソロで戦うときはすべてのモンスターがこっちを見ているし、視線誘導や戦い方をこっちで一方的に制御することができるが、一人より二人、二人より三人、と人数が増えるにつれ、それぞれのモンスターが誰にどう戦いを挑んでいるのかを判断する役が必要になる。
盾役が一人いて、その一人で全部ヘイト管理を仕切ってしまうような有能タンクがいればその限りではないが、大学なり立ての俺たちにそれを望むのは少々難かしそうと思う。全部できて一流とはまではいわないが、その片鱗だけでも清水に見せられたらいいなとは思っている。そっちの方向に進むならその形に持っていくにはどうすればいいか、ということまで考えさせてやる余裕がなければいけない。
教導役としてはできることは教えられたような気がするが、俺自身も他のパーティーに臨時で入るようなことがあればそっちに教えられるようなことも増えるだろうし、それなりにどんな役割でもこなせるようにしなければいけないな。そのためにも学習は必要だ。
ウルフマンが目の前に現れ、さっそく清水に向かって爪を振り下ろすが、落ち着いて盾で受け止めて、ガリンっという音がしてウルフマンの爪が盾に防がれる。それと同じタイミングで彩花が飛び出し、ウルフマンの片腕を走りこみながら跳ね飛ばすと、切り落とされた片腕のおかげで空いた胴体に向かって大川が短剣で突きに行き、同じタイミングで朝日奈がもう片方の腕を切り落としに行く。
三人が離れたタイミングで俺のエネルギーボルトがウルフマンの眉間に刺さってウルフマンは眉間を矢に射られて全身の力が抜けたようにその場に足を折りたたむようにへたり込み、そしてそのまま黒い霧に変わっていく。跡には刺さったままだった短剣と、魔石が一個。稼ぎとしてはそう高いものではないが、記念品としては充分なもんだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
そのまま三十分きっちり三層を巡り巡って、二層側へ戻ってきた。ドロップはウルフマンの魔石が5つ。それとゴブリンと盾ゴブリンがくれた魔石が2つずつとスライムの魔石が3つ。稼ぎとしては……うん、まあ、外で何かしらのバイトをしたほうがいいぐらいの給料ではある。しかし、一気に四十人近い探索者が入り込んで三層で戦っていたことを考えるとそれほど悪い稼ぎでもない気がしてくる。
ウルフマンの魔石がいくらかはわからないが、オークと同価格帯ではあると思われるのでそれなりにはなったといえるかもしれない。二層を戻りながらゴブリンを倒すと、盾ゴブリンがもう一つ魔石をくれた。これで何かの足しにはなるだろう。お疲れ様のお菓子とジュース代ぐらいにはなったかな。
一層に戻ってくると、渡辺学部長が汗をかきながらみんなの帰りを待っていた。何人かはその場に待機したまま……というよりは休憩を忘れて動き回ってたツケが今回ってきたかのように、全身をほぐしたりしている。
「全員揃うまで待つ感じですか? 」
学部長に念のため確認しておく。その場合はぎりぎりまで帰ってこなかったほうがお得だったような気がしないでもない。
「いや、もう時間が時間だから帰宅準備もあるだろうし、名簿を確認出来たら解散していいぞ」
名前と五人で活動していたことを報告して、学部長に伝えると、そのまま解散してもいいということなので、全員分報告して、みんなのところへ戻り今日は解散だという話をする。
第二回ダンジョン実習は無事に終わった。無事に終わったほうが良かったのか、危険な場面が複数箇所あったほうが緊張感のある経験が積めるダンジョン探索ができたかもしれないが、安全率はどれだけかけておいても問題ないからな。
「さて……分配だがどうするね? 各自それっぽいものをといっても、せいぜい魔石一個ずつぐらいだが、まとめて支払いして分割してもらうか、それとも……今回俺はしゃべってたばかりだし、抜けておいたほうがいいか? 」
「いや、あの助言のおかげで無事に帰ってこれたと思えばこそじゃないかな。それに、二人だけで挑むことになってたかもしれないことに比べたらずいぶん安全に探索ができた。それに、本条君と結城さんならもっと深くまで潜って探索してくることもできたわけで、それを付き合ってもらったのに二人に分け前なしなんてことは人として恥ずべき行為だ。もらうものはもらっておいてほしい」
「そっか。じゃあ均等に五等分して帰るか。帰りのコンビニで夕食のあてを買うか、学食で一食食べるぐらいの金は稼げたはずだ」
コメント
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ああ、第276話、読み終わりました……! 今回はダンジョン実習の中で、本条くんがみんなに戦い方を教えていく流れが本当に丁寧で、ほっこりしながら読んでいました。特に「自分は彗星のようなもの」って自己認識のところ、彼らしくて好きです。それでいて自分だけかっこつけず、きちんと隊列に入って話し合いに参加する誠実さも感じられて。チーム全体の成長を見守るような、温かい一章でした🌷