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睡蓮
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#異能力バトル
名無の男2
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水瀬葵
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投げ飛ばされたオレの自由落下に合わせて、光剣の切り上げが地上に待ち受ける。
これじゃあ回避なんてできっこない。
もう、やるしか、ない。
破壊をするしかない……!
ミスったら死ぬが、何もしなきゃどうせ死ぬ。
ライヘンバッハの滝に飛び込むが如く、死地に赴かなければならないなら……、前のめりだ!
空中で身を翻し、掴んでいた槍を捨てて、腕を伸ばす。
直接この手で魔法剣に触れにいくことで接触のタイミングを合わせにいこうと狙ったのだが、それが不味かった。
オレが何かを狙っていると察したエドガーが、剣を逸らして切り上げを中断し、バックステップをしたのだ。
おかげで肩から受け身なしの落下をすることになり、デカい音が城内に響き渡った。
「痛っで……!」
「キラっ!!」
体力ゲージが黄色に変色する。
全身が危険を訴えているのが分かる。
「なんだ、頭を使って反射魔法でも唱えるかと思ったが、ブラフだったか。 どうして魔法を使わぬ?」
「……ンなの、使えねえからだよ!」
「フッ、フハハ! 矢張り奴隷ではないか。 この国では産まれた赤子から魔力が観測されず、生後五年以内に魔力が発芽しなかった場合、奴隷階級となることが確定される。 ……お前からは魔力を欠片も感じぬ。 嘘吐きの妹が連れてきた、薄汚い脆弱な奴隷め」
「テメェ……、どうしてそんな歪んでやがんだ! 魔力ってのが何なのかよく分かんねえけどよ、それが才能みてえなもんなら、大器晩成型の奴だって世の中には沢山いんだろ? それを切り捨てて……! どうしてそんな残酷なことが出来る! この国の王はお前だ、奴隷制度をなくすのだってお前ならできるはずだろ!!」
「奴隷制度をなくす? フッ、可笑しなことを言う。 どうして奴隷制度をなくす必要がある? 私の妹も同じことを言っていたが、そんなことを疑問に感じているのはお前らだけなのだよ。 私も、国民も、奴隷の本人たちも、世の節理に疑問を抱いてはいない。始めからそういうものだからだ」
「当たり前だってのかよ、そんな狂ったシステムが! どうして……、どうして実の妹の話を受け止めてやんねえんだ! 当たり前をひっくり返すのがそんなに怖いのか!?」
エドガーは鼻で笑って、
「青二才め、何も分かっていないな。 妹と同じだ。 奴隷なき、全国民が平たく等しい世など夢の話だ。 どうやって国を動かしていく? 理想を語るのは自由だが、御伽噺では政治は動かんのだ。 妹にはそういった、為政者としての観点が完全に欠如している。 誰彼を選ばぬ人助け、国民総幸福論、夢物語。 それを悪いとは言わない。 だが、幼稚だ。 それでは飯は食えない。 超速で国庫の資源を全て消費し、王も奴隷も、貴族も野良犬も、等しく同時に死に絶える。 見え透いた未来だ、話を聞くにも値しない。 この国で最も力のある私が権力を持ち、この大陸のために力を蓄え、魔王を倒そうとしている。 その為に、今は力を集約する必要がある。 理想話は、魔族を滅ぼしたその後で良いのだ……!」
エドガーが手を払うと、辺りの兵士が両足の踵をつけて直立し、一斉に声を上げた。
「王に討魔の力を集約せよ!
栄えある聖国に女神マリアの光を!!」
「……あの子が家出した理由が分かったぜ。 優しい王様ってのは創作の世界だけのお話らしい。 血の繋がる妹の話も聞かねえで、なにが兄だ! わからず屋の王様め」
「平行線だな。 奴隷の局所的、利己的な思想。 王座から見える国全体、運国のための思想。 相反する思想だ、到底分かり合えん。 さあ、余興は終わりだ。 ここまで耐えた君への手向けに……、私が王たる理由を見せてやろう」
そう言って、エドガーは片腕を宙へ向ける。
すると、即座に発火が起きた。
火は渦巻く炎となり、球体へ定まっていく。
その過程で、エドガーの周囲には次々と水の球体、雷の球体まで現れ、三球ともが一点に集合し、融合していく。
「黒の一、黒の二、黒の三、並列敢行。 魔力を限定解除……」
エドガーは何か詠唱をしながら、その融合玉を握り潰して剣に押し付ける。
今にも暴れだしそうなエネルギーが曲剣に宿り、刀身が強く輝き始める。
「逃げて、キラ! 森で私がドラゴンに放った三属性の合体魔法剣よ! お兄様の高純度の魔力じゃ触れただけで消し炭になるわ!」
「はぁ!?」
いつの間にか、王の手には巨大な光剣が握られていた。
確かにあれは、オレが異世界に来てすぐの森でアーシアがドラゴンに斬りかかった時と、同じ光の剣だ。
あの威力が今、オレに向けられようとしている……!
「さらば、消えよ」
風魔法で加速されたステップの飛び込みと共に、高く掲げられた王の魔法剣が振り下ろされる。
あのリーチに、破壊力だ。
どうせ、かすっただけでも大怪我するのは目に見えてる。回避は諦めた方がいい。
腕から盾を外して、素手で防御の体勢をとる。
わざわざこんなことをするのは、死を受けいれたからではない。
今度こそ、破壊を起こすタイミングを計るためにクッションになってしまいそうな邪魔なものを外したのだ。
「フン、血迷ったか奴隷!」
振り下ろされた光剣が腕にぶつかる瞬間。
払うようにして腕をぶん回し、破壊を願った。
直後、バキリ、と。
音を立ててその願いは実現した。
薄氷に拳を殴りつけたみたいに、魔法剣は一瞬で散り散りとなる。
エドガーは何が起きたか分かっておらず、そのまま光剣を振り抜く。
魔法剣がぶっ壊されたと気がついた王様の驚いた横顔に、短距離ではあるが、助走をつけた大振りの右拳が突き刺した。
弾けるようにして魔法剣が破裂し、その勢いも背中を押したのかエドガーの身体が軽く吹っ飛んだ。
伏せ込む王の手には、光を失い折れた曲剣だけが握られていた。
……通用する。
相手が異世界の王様でも、魔法剣でも関係ない。
破壊は通用する……!
「ば、かな……。 何が、起きた……?」
顔をおさえたまま、エドガーはゆらりと立ち上がる。
「魔法剣が、崩壊した……? 馬鹿な……、馬鹿な馬鹿な! そんな馬鹿なことが有り得るものか! 私は魔法剣研究を何世代も押し進め、技術を高め続けた一族の末裔だ……! 合体魔法球を取り込んだ魔力光剣の解術など、歴史上において数度しか確認されていない。 魔法剣の表面に蠢く魔力原子の繋ぎ目、針を通す程の微小な『魔力の穴』に、適切な威力の衝撃を与えて内側から一瞬で自壊させる現象の他ない……! そんな偶然を、この土壇場で起こしたというのか!?」
「……さあな。 オレはなんの力もねえ、能力も技術もねえ、どこにでもいる普通の学生だ。 なんでお前の魔法剣ってのがぶっ壊れたのか、正直細けえ理屈も分かんねえよ。 そうだな、なんか奇跡でも起きたんじゃねえのか?」
この破壊の権能の正体は、未だに分からねえ。
どうしてオレがこんなもんを扱えんのか。
どういう理屈で破壊が起きてんのか、
何も分かんねえけど、使えるもんは使わせてもらうぜ。
「奇跡っ!? 奇跡だと? 馬鹿な、そんな馬鹿なことがあるものか! 奇跡などというくだらないものにっ、この私が土をつけられるなどッ! 許さん……、許さなァいッ!」
エドガーの折れた剣が、空中に光の軌跡を残して魔法陣を描いていく。
「寂寞を焼き払う懲罰の象徴。
聖像が孕む黒き狂奔の権化。
艨艟の沈む戦場の水面すら、
朱の大空登る古龍の姿見とならん!
『業灼大紅蓮』ッ!」
魔法陣から現れたのは、蛇のように長く数珠繋ぎの黒炎。
猛り、畝り、そして折れた剣に塒を巻いた。
「黒の四十段……! お兄様っ、この部屋ごと吹き飛ばすつもりなの!?」
一帯の気温が急上昇し、毛穴がぶわりと開く。
それと同時に、先程まで嘲笑し観戦していた兵士達が次々と逃げ出す。
「おい、一発ぶん殴ったんだからオレの勝ちだろ!? そんなの使ったら周りの奴らまで巻き込みかねねえ! やめろ、エドガー!」
「気安く私の名前を、呼ぶなァッ!」
真っ赤に燃え盛る剣の先に火炎が凝縮され、小さな星の形に固まる。
きっとあれは鎮火したのではなく、集中したのだ。あの星の中に猛火が内蔵され、圧縮されているのだと思う。
もしあれが砕けて中の火が吹き出したら、ボヤ騒ぎでは済まないだろう。
エドガーはそれをこちらに向けて、
「塵芥と化せッ!」
ドウン、という重苦しい音を響かせて、大砲を撃つみたいに発火させた。
しかし、遅い。
弾丸や弓矢みたいな瞬足ではなく、一直線に進む羽虫のような速度だ。
これなら、確実に破壊の接触タイミングを計れる。
腕を真っ直ぐと伸ばし、飛来する火の星を鷲掴むようにして触れる。そして、願う。
この炎の塊が、内側に圧縮されてる爆発的な炎熱ごとぶっ壊れてくれますように、と。
一瞬の、柔らかい感触。
次に、ばしゅ、と気の抜けた音を手の中で感じた。
願った通り、星は壊れた。
火炎の尻尾すら出さず、小石みたいな黒い欠片とほんの少しの温もりだけを残して。
「な、何故だ……? 何故ゆえ魔法が効かぬ! 奇跡とは、まさか……、女神の加護か! 奴隷ではなく、本物の『転生者』だったと言うのか……?」
「……オレは『転生者』だ。 でも女神の加護ってのはハズレ。 さっきから言ってんだろ、特別な力なんて貰ってねえって。 オレはここに来る前、お前らが女神って呼んでる奴と話した。 好きな力をやるって言われたよ。 でもオレは断った。 そんなモン必要ねえってな。 だから今のはそういう、加護だの魔法だのみたいなのじゃねえ。 ただ願ったんだ。 オレは、ただ願っただけだ! その剣がオレに当たった瞬間にぶっ壊れてくれますように、火の魔法が爆発しねえようにぶっ壊れてくれますようにってな! 女神なんて関係ねえ、魔法なんて必要ねえ! 本気で願って、そして叶った! 奇跡が起きたんだよ!! お前みたいに自分の力に酔って何でも思い通りになるって思ってる奴には分かんねえだろうなッ!」
「そんな……! 魔力を感じられない。 女神による聖印の気配すら感じられない……。 こいつは力の資質なきただの人間だ。 それだと、言うのに! 奇跡……、奇跡とは何なのだ! 何が、起きている。 こんな奴、これまでたったの一人も……!」
「お前の自信満々の横暴より、オレの願う力が勝ったってだけだよ」
「……確かに、魔法は完全ではない。 緻密なバランスで組み立った骨組みのように、ある一点を失えば瓦解する性質を持っている。 しかし、『魔力の穴』を意図的に突くことは大賢者でも至難の業……、いや、不可能に近い! それを……、奇跡が成っただと? たまたま偶然の連続で、ヴィクトーリア四万年の歴史の結晶たる魔法技術が打ち壊されたとでも言いたいのか……! 一度で終わらず、二度も!」
『魔力の穴』ってのは関係ないのだが、こいつが好きに勘違いしてくれてるのは好都合だ。
どうやらこっちの世界には、権能の概念がないらしい。これは、勝ち目だ。
この破壊の権能こそ、アーシアから勝機なんてないって思われてたエドガーとの決闘に勝つ、唯一の武器だ!
「約束だろ。 お前の負けだ、エドガー!」
「……フッ、フハハ!? 私の、負け……。 ああ、そうだな認めよう。 この決闘、一撃を受けた私の敗北だ……。 が、折角だ。 延長戦と洒落こもうじゃあないか!! 勝敗は決したが、決闘における本来の終了条件を達するまで試合は続ける! 古来通り、どちらか一方が戦闘不能になるまでなあ!!」
コメント
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うわあ、120話お疲れさまです…! キラがついにエドガーに一発入れた瞬間、鳥肌立ちました。自分の力に酔う王様に対して「ただ願っただけ」って言い切るスタンス、めちゃくちゃかっこよかったです。破壊の権能の正体はまだ謎だけど、それでも信じて前に進むキラの強さに胸が熱くなりました。続き、気になります…!