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「……!!寧々ちゃん類くん!司くん起きたよ!!!」
重い瞼を持ち上げると、近くにいたえむは目を見開いて、寧々と類の方に駆け寄った。
「…すまない。…また、耳鳴りが……」
「いや、謝らないでいいから。……でも」
「?」
「…この前もこんな感じだったけど……なんか、その……この症状の原因って、何なの?」
「ほんとはずっと気になってたんだけど、司は毎回話逸らすし…あんまり聞くのもアレかなって思って、今まで聞かなかったの。…司さえよかったらなんだけど……教えてほしい、かな」
寧々は至って単純に心配してくれているのだろうが、今はその心配してくれている眼差しすら、怖く感じてしまった。
だって、もしここで話してしまったら──、絶対に、今のままではいられないだろうから。それがいい結果になろうが良くない結果になろうが、オレは今のみんなが大好きだから……変わってほしくない。
だが、──もう、ここで言うしかないだろう。ここで話さなければ、オレはまた来るはずのない「いつか」を待ち続けることになる。実際、「いつか話す」「いつか克服する」そう思って、思い続けて………ここまで来てしまったのだから。
オレは勇気を振り絞って、話を切り出した。
「……トラウマ、的なものだと思う。」
「!司くん、それって──」
えむは勘づいたのか、驚いた顔をしてこちらを向いた。ただ、えむにまで心配かけるわけにはいかないので、オレは至って普段通りの声で話す。
「えむには…少し話したが、昔、オレは…っおれは、その…」
声が震える。頭の中で色々考えてしまって、うまく言葉が出てこない。
「(話さなきゃ、……話さなければならないというのに…)」
そう自分に言い聞かせれば更に焦ってしまって、呼吸すらまともにできなくなってくる。浅い呼吸をするたびに目の前の仲間の顔が曇っていって、頭は「最悪」の2文字で埋め尽くされていた。
「(どうして…いつもこうなんだ)」
重要なときに限って上手く声が出なくなって、またその機会を先延ばしにして…その繰り返し。
もういっそのこと殺してくれとでも言ってしまおうかと思っていたところで、類が言葉を発した。
「…無理に話そうとしなくても、いいんだよ」
と。
オレは咄嗟に言ってしまった。
「違う、違うんだ!!話したいんだ!今、お前らにどうしても…どうしても話したいんだ…!!」
「それ、なのに………」
今オレが欲しいのは、慰めでも謝罪でもなくて──
「(…ただ、信じてほしかった。)」
「……ねえ、司くん」
「…え?」
えむの優しい声が聞こえる。
「ずっと、待ってるよ。」
「!!」
「みんな…本当は、話してほしいって…思ってるんだよ」
そうだ。
オレはひとりじゃない。みんな、えむも寧々も類も、オレにずっと寄り添おうとしてくれて、オレを「理解」しようとしてくれている。
もしかしたら、話してしまったら、時々、あの時の事を思い出してしまうかもしれない。ほんの少し、「変化」を感じてしまうかもしれない。そう思うと、逃げ出したくなるほどに、たまらなく怖い。 …だが、
「(このまま話せないのは、それよりももっともっと…ずっと、怖い。だから──)」
「3人とも。…少し、聞いてくれないだろうか。」
「「「!」」」
「うん、うん!ずっと聞いてるよ!」
「わかったけど、ゆっくりでいいから」
「是非、聞かせてほしいな」
3人はにっこりと微笑んで、静かにオレの話を聞いてくれた。
「──ずっと、この事があってから…怖かったんだ。…すまない。今までずっと、…話せなくて」
「……話せるわけ、ないよ」
「寧々…?………っ!?」
寧々は突然、オレのことを正面から思いっきり抱きしめた。
「そんなの…簡単に話せるわけない……」
そんな寧々の様子を見て、えむは不思議そうに首を傾げる。
「寧々ちゃん…?」
「司は何も悪くないよ。だって、ずっと怖かったんだもんね。誰にも信じられなくて、誰も信じれなくて…」
寧々は優しく語りかけるように、たくさんたくさん抱きしめてくれた。
それに続いて、先程まで寧々の行動に混乱していたえむも、力強く衝突する勢いで抱きついてきた。
「そうだよ〜〜…司くんが悲しくなっちゃダメだよーー!!」
「ほらー、類くんもギューしよ!…………って、あれ?」
えむは類の顔を見て、なんだか驚いた様子である。オレから見た類は特にいつもと変わりないが、人の表情に敏感なえむだから感じられる変化があったのだろう。
「…あ、ああ。すまないね。」
類は ぼそっと軽く謝罪をし、オレを背後から優しく抱きしめてくれた。
「… 話せてよかった」
心からそう言えるほど、温かい気持ちで溢れていた。
今まで接してきた人よりも、みんなはずっと優しくて、あたたかくて、みんなといるとすごく幸せで……なにより、ずっとここに居たいと思える。
そんな人──、そんなえむと寧々と類だからこそ、3人は真剣にオレの事を受け止めてくれて、受け入れてくれた。
その時の3人の顔は、やはり怖くて見ることができなかった。だが、後に抱きしめてくれたときの表情を見て、心から安心することができた。みんなオレを安心させるように笑っていて、嬉しそうで、みんな、泣いてい たから。
だから、だからこそ、知りたい。教えてほしい。
「…さて」
「お前達から笑顔を奪っているものは…何なんだ?」