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急いで買い物して、家に帰ってLINEで検索する。
___小文字だよね?あ、これ?
綴りが間違っていた。uが抜けている。
___じゃあ、これだ!
何回めかの検索で、それらしい人が見つかった。アイコンが、あのサイトと同じ男性向けの香水瓶だ。名前は『翔馬』、間違いない。そこまで確認して、ふと、止まった。
___私は名前そのままで登録してある、ということは本名がバレる?
かといって、今更名前を変更したら家族が怪しむし。それに、LINEしてまで話したいこと、あるのだろうか?
「おーい、帰ったけど、ご飯まだぁ?」
夫の声がした。ご飯の準備がまだだったことを思い出す。
「ごめんね、すぐ準備するから。お風呂先に入って、すぐ入れるから」
「なんだよ、たまに早く帰ってもこんなんじゃいつもと同じだな。たまにはのんびりしようと思ったのに」
チッ!と舌打ちが聞こえた。
「ごめんなさい、すぐだから」
「お母さんまたスマホやってたの?ゲーム?」
陽菜に言われて、ビクッとする。
「なんだ?スマホやってて晩御飯が遅くなるって、子どもじゃあるまいし。なにやってんだよ」
「あ、あのママ友に、見てほしいからってブログを教えられたんだけど、イマイチ登録がわからなくて…でも、明日本人に聞くから大丈夫、うん」
「なんでもいいから早くしてくれ」
「うん、急ぐから」
私はお風呂のスイッチを入れると、ご飯の準備を急ぐ。
___早く帰ってきてもいつもと同じでも、あなたは何もしなくてのんびりしてると思うけど…
言いたかったけど言えなかった。言ってしまうとスマホの件を問い詰められそうな気がした。
キュウリを切りながらでも、鶏肉に塩胡椒をふりながらでも、頭の中はLINEのことでいっぱいだった。名前をどうしようか?LINEで繋がってしまうと、通話もできてしまうし。
___でも
翔馬は、私と個人的にコンタクトを取るためにあのサイトを退会させられた。私がそうさせたわけじゃないけど、私の責任もある。やはり、連絡はしないといけない、よね?
なんとなく気まずい晩御飯の時間が終わり、後片付け、明日の準備と学校で集めてる書類の記入と、アイロンがけ。全部が終わる頃には10時を過ぎていた。
「陽菜はもう寝る時間よ、明日朝つらいから早く寝なさいよ」
「はーい、あ、雑巾!」
「そこにあるから。お母さんはお風呂入るからね」
パジャマを持つ手に、こっそりとスマホを隠し持った。脱衣室でLINEをしよう。念のため鍵をかける。LINEを開き、もう一度検索してアイコンを確かめる。間違いない。
〈こんばんは、ミハルです〉
すぐに返事がきた。
《ミハル?名前が…。まぁ、いいか。やっと見つけてくれたんだね、翔馬です》
よかった、友達登録しておこう。
〈遅くなりました。やっと見つけました〉
《もう、連絡が取れないかと思って諦めかけてたよ。俺はどちらかというと気が短いほうなんで》
怒ってる?
〈ごめんなさい、なかなかうまく探せなくて〉
《うん、まぁ、いいよ、こうやってまた繋がることができた。個人的に繋がるっていいね。これからはこっちでよろしく》
〈はい、よろしくお願いします〉
「お母さん?」
脱衣室の前で、私を呼ぶ声がした。伊織だ。
「伊織?なに?」
私は慌ててスマホをパジャマの下に隠す。
「風呂まだ?俺はもう眠いんだけど」
「あー、ごめん、すぐ済ませるから」
パジャマの下でスマホが震える。通知オフにしないといけないなと思いつつ、慌ててお風呂に入る。
《LINEできない時は、できないって言ってね。待たされるのはちょっとね》
少しずつ、翔馬の言葉遣いや言うことが変わってきていた。気づいていたけど、気づいてないフリをしてしまった。