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自分の足首の横に無造作に置かれたメイス。それが何を意味しているのか、マルコはすぐに理解した。
ハッタリだとは思わない。九条は確実にやる男……ロイドの時だってそう。模擬戦というルールがなければロイドは死んでいたかもしれない。
(本当はプラチナなのに、カッパーだと偽ってロイドを笑い者にした。公式見解ではギルドの適性鑑定に不具合があったと発表されているが、絶対に九条が裏で手を回したに違いない。卑怯なことしやがって……)
だが、マルコの実力ではプラチナには敵わない。
(拷問? やれるものならやってみろ! 俺はこんな卑怯な奴には絶対に屈しない!)
九条に押し切られ、皆は振り返りつつも心配そうに部屋を出て行く。その対象はマルコではなく、九条がやり過ぎないかを憂慮していたのだ。
そして扉が閉まると、部屋にはマルコと九条の二人だけが残された。
「マルコ……なんで口を割らないんだ……モーガンに頼まれたんだろ? そう言えばいいじゃないか」
「……」
「何か弱みでも握られているのか?」
「……」
「……はぁ、残念だよ。……悪いけど男には容赦しないからな」
飄々と話していた九条の顔が悪魔のような形相へと変化し、低い声で囁かれた一言でマルコは一気に鳥肌が立った。
そして九条のメイスが天を突き、それが振り下ろされる瞬間だった。
「すいませんでしたッ!! それだけは勘弁して下さいッッ!!」
ベッドの上で瞬時に土下座したマルコは、秒で屈したのである。
――――――――――
「もう入って来て大丈夫ですよ」
俺が皆の入室を許可すると、覚悟を決めたかのような表情で皆が戻ってくる。
しかし、その覚悟も無駄であったかのように部屋の中は至って平穏。すぐに安堵の表情が窺えた。
室中の惨状はさぞ酷いことになっているに違いないと憂慮していただろうが、特に変化はなく拍子抜け――といった感じだろうか。
ベッドの上には真顔で正座をするマルコ。
その心変わりに、室内では何があったのかと疑問に思うかもしれないが、それを聞かれることはなかった。
「じゃぁ、最初から話してくれ」
俺がそう言うと、マルコはこくりと頷き口を開く。
「従魔試験当日の朝、モーガンというカーゴ商会の男が納品だと言って荷物を持って来た。いつもと違う時間だからおかしいとは思ったんだが、カーゴ商会の証は本物だった。馬車から荷物を降ろしていると、九条の話題になったんだ。ロイドのことを知っていて、途中からウルフ素材の相場の話になって……。九条がウルフを連れきたら、この飼料を食べさせるようにと言われたんだ。そいつは僕に恨みを晴らすチャンスだと言った。ちょっとお腹を壊すだけだから大丈夫だと。まあ、それくらいならと……」
それを聞いた皆が呆れた表鏡を浮かべるも、俺が知りたいのは、その裏付けだ。
「ロバートさん。二つほどお聞きしたいんですが、俺が従魔登録するというのはどれだけの人が知っていましたか?」
「恐らくほぼ全てのギルド職員が存じております。そもそも一回の登録で八十五匹分のプレートを用意することなど初めてのことで、話を聞いた時には既に噂になるほどでして……」
「そうですか。……じゃぁ、もう一つ。ギルドに納品された物はカーゴ商会が買い取るのですか?」
「一応大手三社が契約されています。カーゴ商会には主に毛皮類を卸しています」
「マルコ。お前、バレたら自分に責任が及ぶとは考えなかったのか?」
「まさか致死性の毒とは思わなかったんだ! それくらいじゃクビにはならないだろうと……。もし僕がこの件でギルドを辞めることになれば、カーゴ商会で雇ってくれるって話だったんだ……カネも前金でもらって……」
「ちょっと九条? そのモーガンってのとあなたは知り合いなの?」
ネストとバイスは、俺が従魔登録に来た日からのことしか知らないのだ。当然の疑問である。
「まあ、知り合いと言えば知り合いですが……。ちょっと話が長くなるので場所を変えましょうか。もうマルコから聞くこともないですし」
「いいわ。じゃぁ、この後は私の屋敷に。ロバートはどうする?」
「私もご一緒させて下さい。お話の様子からどうやらカーゴ商会が絡んでいるのは間違いなさそうです。これはギルドの問題にも関わりますので」
――――――――――
ネストの屋敷に到着すると、見覚えのある馬車が止まっていた。王家の紋章が描かれているそれは、第四王女専用の物だ。
「お邪魔させていただいてますよ。ネスト」
王女は案内された部屋で、椅子に座りくつろいでいた。ティーカップを片手に、優雅に午後を楽しんでいるといった雰囲気。
それは出迎えに見せかけた、待ち伏せに違いない。その証拠に、リリーの視線はネストではなく従魔達に釘付けであったからだ。
恐らくはモフモフをしたいがためだけに先回りしていた。それだけのために連れ回されるヒルバークは不憫であると言わざるを得ない。
「お初お目にかかります王女様。わたくしギルドの支部長を務めさせていただいておりますロバートと申します。以後お見知りおきを」
しっかりと礼儀作法も心得ているのは、さすがギルドの支部長といったところ。
ミアとリリーが従魔と戯れている間、俺は今までのことを詳細に語らせてもらった。
|金の鬣《きんのたてがみ》から逃げて来たコクセイたちのこと。それを狙うキャラバンに、炭鉱への無断侵入。盗賊から襲われたことに、従魔登録をするまでをだ。
「……なるほど。カーゴ商会がウルフ素材欲しさに動いていた――ということね」
「確かに現在の相場は普段の五倍ほどです。商人たちが欲しがるのも頷ける。仮にそのモーガンと言う男とマルコの目論見が成功していれば、それらを買い取るのはカーゴ商会。末端価格を考えれば、かなりの儲けになるでしょう」
「そうだな。生きてようが死んでようが卸値はさほど変動しない。だが少々やり過ぎたな。敗因は九条を舐めてかかったってトコだろう」
話の流れからも、黒幕はモーガンで間違いないという結論へと至る。
ただ、それが個人的なものなのか、それとも商会の命令なのかは明らかではない。
「それにしてもモーガンは上手いことマルコに目を付けたわね……。どこからロイドの話を聞いたのかしら?」
「それはマルコ本人のせいでしょう。ロイドのことは九条様が卑怯な手を使ってハメた、などと吹聴して回っていたようで……。注意はしていたのですが……」
「その話がモーガンの耳に入り、利用されたのか」
「申し訳ございませんでした九条様。ギルドはカーゴ商会との契約を打ち切ります。マルコにもそれなりの罰を与えるということで、許してはいただけないでしょうか?」
ロバートの申し出に不満はない。妥当な落としどころだとは思うのだが、俺はどうすればモーガンに一泡吹かせてやれるのかを真剣に考えていた。
「マルコの処分はお任せします。それとは別になるのですが……王女様。申し訳ありませんが、少しご相談したいことが……」