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初日のバス、そして二人のはじまり
旅行の初日、バスが目的地に到着して、琥珀は少しドキドキしていた。隣の席は蒼真だと知っていたけれど、彼はいつも無口で、最初はどんな会話をしていいのか、どう接していいのか分からなかった。
「ねえ、蒼真…なんか、最初ってこういう感じ、ちょっと不安だね。」琥珀は何気なく言ってみる。隣で無言のまま座っている蒼真を見ながら、どうしても会話を続けたくなった。
蒼真は目を伏せながらも、「うん。」と短く答えた。彼の言葉の少なさに、琥珀は少し戸惑うものの、その静けさが心地よくも感じていた。
「でも、楽しみだね。初めてみんなと一緒に旅行だし。」琥珀が少し笑顔を見せると、蒼真は何も言わずに、ただ静かに窓の外を見つめている。
その時、バスが揺れた拍子に、琥珀は思わず蒼真の腕に軽く触れてしまう。「あ、ごめん…!」琥珀は慌てて謝るが、蒼真は何も言わず、ただ軽く肩をすくめて少しだけ彼女を見た。
「落ち着け。」蒼真のその言葉には、少しの優しさがにじんでいて、琥珀は思わずホッとする。無言のままでも、蒼真のそばにいると、不思議と安心できる。
目的地に到着、寒さに震える琥珀
宿に到着し、バスを降りた瞬間、琥珀は冷たい風に驚いた。季節外れの寒さが体に染み込むようで、薄手のジャケットを着てきた琥珀はすぐに寒さに震え始めた。
「うわ、寒い…。」琥珀は無意識に両腕を抱えて体を震わせ、風から体を守ろうとする。
その様子に気づいた蒼真が、無言で自分のジャケットを脱いで、琥珀の肩にかけてきた。「え、蒼真?」琥珀は驚きながらも、その大きな上着を受け取る。
「寒いなら、これを着ろ。」蒼真は無表情で言った。少し大きめのジャケットが琥珀の体にしっかりと包み込んで、その温もりがじわりと広がる。
「でも、蒼真が寒くない?」琥珀は心配そうに言うと、蒼真はちょっとだけ肩をすくめ、「俺は平気だ。」と冷たくも優しい言葉を返す。
琥珀はその優しさに胸が温かくなり、素直にジャケットを羽織った。「ありがとう…。」小さな声で感謝を言うと、蒼真は無言で少しだけ頷き、歩き始めた。
「ぴったりだな。」琥珀が少し照れくさそうに言うと、蒼真は無言で肩をすくめた。「お前が小さいだけだ。」
「小さいって言わないでよ!」琥珀は笑いながら言うと、蒼真も少しだけ顔を逸らして、ほんの少し微笑んだ。
部屋に分かれて、寝る前に蒼真が琥珀の部屋に来る
宿に着き、みんなで部屋に分かれた後、琥珀は自分の部屋でしばらく過ごしていた。荷物を整理し終わり、少しだけ窓の外を見つめながら、静かな時間を楽しんでいたが、なんとなく寂しさが胸に広がっていた。
「みんなと一緒にいたかったな。」そう思いながらも、琥珀はベッドに横たわり、天井を見つめる。その時、ふと扉をノックする音が響いた。
「え?」琥珀は驚いて立ち上がり、扉を開けると、そこには蒼真が立っていた。
「蒼真?」琥珀は少し戸惑いながらも、扉を開けると蒼真が静かに部屋に入ってきた。
「なんだか、話したくて。」蒼真は少し照れくさそうに言うと、無言で部屋に入った。いつも無表情で無口な蒼真が、どうしてこんな夜にわざわざ自分の部屋に来たのか、琥珀は少し驚いていた。
「話したいこと?」琥珀は少し首をかしげて尋ねると、蒼真は少し考え込むように黙ってから、ゆっくりと答えた。
「うん…なんとなく。」蒼真はその言葉に何か意味を込めているようだったが、琥珀はそのまま部屋の隅にある椅子に座るように勧める。
「なんとなく?」琥珀は少しだけ微笑みながら言うと、蒼真はしばらく無言で視線を外し、窓の外に目を向ける。普段の蒼真なら、こんなに感情を出さないのに、今日の彼は少し違っていた。
「うん、別に大したことじゃないんだ。」蒼真は照れくさそうに肩をすくめた。だが、琥珀はそんな蒼真の様子が少しだけ面白くて、心が温かくなる。
「でも、わざわざ来てくれてありがとう。」琥珀は感謝の気持ちを込めて、笑顔で言った。
蒼真は少しだけ目を伏せてから、ゆっくりと答える。「お前、俺が無口だから、話したくなるのか?」
「うーん、それもあるかも。でも、蒼真って無口だけど、なんだか一緒にいると落ち着くんだよね。」琥珀は少し考えながら、静かに言った。
その言葉に、蒼真は微かに顔を赤くしたのが、琥珀には分かった。「…俺も。」蒼真は小さく呟いた。
琥珀はその言葉に、胸がドキッとするのを感じた。「それって…どういう意味?」
蒼真はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと顔を上げ、「お前と一緒にいると、落ち着く。」と、恥ずかしそうに言った。
その瞬間、琥珀の心臓が大きく跳ねた。「あ、ありがとう…。」琥珀は思わず言葉を返すが、なんだか照れくさい気持ちが込み上げてきて、顔が赤くなった。
「じゃあ、そろそろ寝た方がいいな。」蒼真は少し照れくさそうに立ち上がり、「また明日、な。」と軽く言って、部屋の扉に向かった。
琥珀はそれを見送りながら、「うん、また明日ね。」と微笑んだ。
扉が閉まり、部屋に静寂が戻ると、琥珀はその余韻に浸りながらベッドに横たわった。蒼真がわざわざ自分の部屋に来てくれたことが、胸の中で温かく広がる。
夜中、トイレに行くところ
夜も遅くなり、ようやく眠りに落ちそうになった琥珀。しかし、急にお腹が痛くなり、目を覚ました。時計を見ると、すでに夜中の2時を過ぎていた。
「うう…どうしよう。」琥珀はベッドからゆっくり起き上がり、部屋を出ようとした時、ふと気づく。廊下を歩いていたら、蒼真と会うかもしれない…。
「ちょっと…ドキドキするな。」琥珀は心の中でそんなことを思いながら、トイレに向かって歩き始めた。
すると、廊下で誰かの足音が聞こえる。驚いて振り返ると、蒼真が静かに歩いていた。「あ、蒼真!」琥珀は少し声を上げた。
「寝れなくて…ちょっと外を歩いてた。」蒼真は淡々と答えるが、琥珀はその時、どうしても恥ずかしくなってしまった。
「私もトイレに行くところだったんだ。」琥珀は少し赤くなりながら言うと、蒼真は何も言わずにそのまま歩き出す。「じゃあ、一緒に行こうか。」
二人は並んで静かに歩きながら、トイレに向かっていた。無言の中でも、何か温かい空気が漂っているように感じる。
最終日、帰りのバス
旅行の最終日、帰りのバスに乗り込んだ琥珀は、また蒼真の隣の席に座った。窓の外をぼんやりと眺めながら、何度も初日からのことを思い出していた。
「もう帰るんだな…。」琥珀はふと呟くと、蒼真は静かにうなずいた。
「うん。」その返事に、琥珀は少しだけ寂しさを感じた。
「でも、すごく楽しかった。蒼真と一緒にいられて。」琥珀は自然に微笑んで言った。
蒼真は少しだけ顔を向け、無言で微笑んだ。その微笑みに、琥珀は心が温かくなるのを感じた。
「俺も。」蒼真は短く答えたが、その一言には、言葉では伝えきれない想いが込められているようだった。
バスが進むにつれて、琥珀は少し眠気を感じ始めていた。連日の旅行の疲れが一気に押し寄せ、瞼が重くなる。
「蒼真、ちょっとだけ寝てもいい?」琥珀は恥ずかしそうに蒼真に尋ねた。蒼真は無言で頷き、そのまま静かに前を向いた。
琥珀は座ったまま少し身体をゆるめ、意識を薄くしていく。しかし、眠気を感じて目を閉じるものの、周りの音や揺れが気になって、なかなか深い眠りには入れなかった。
「蒼真…」琥珀は疲れた様子で、ついに座席に背を預けるようにして、少し前かがみになった。
そのとき、バスが揺れた拍子に、琥珀は前の席の背もたれにうまく寄りかかれなくなり、思わず蒼真の肩に体を寄せた。最初は驚いた蒼真も、すぐに動じることなく、軽く肩をすくめ、無言でそのまま静かにしていた。
「ごめん、なんか…」琥珀は少し恥ずかしくなって言い訳しようとするが、蒼真は静かに顔を向け、目を細めて言った。
「いいよ。」その一言に、琥珀はほっとしたように息をつく。
そのまま、琥珀は意識を手放して、無理に体を起こさず、蒼真の肩に寄りかかるようにして眠りに落ちた。
バスが揺れるたび、彼女の体が微かに蒼真の肩に寄りかかる。その度に、蒼真はほんの少し肩をすくめて、でも琥珀を支えるように姿勢を変えたり、軽く腕を動かして彼女を安定させようとした。
蒼真も、しばらくは無言のまま、静かな時間を楽しんでいるように感じた。いつも無口で冷静な彼が、こんなに穏やかに他の誰かに寄り添うのは、もしかしたら初めてだったのかもしれない。
琥珀は、蒼真の肩に寄りかかりながら、ふとその温もりに包まれて、安心感を覚えていた。何も言わなくても、こんなにも心地よく過ごせることに、深い満足感を感じていた。
最終日のバスの中で、二人は言葉を交わすことなく、ただ静かに隣り合わせて過ごしていた。蒼真が無言で琥珀を支え続けるその姿が、琥珀の心の中で、これからも忘れられない温かな記憶として残るのだろうと思った。
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