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「おはよ! はんちゃん! まずはお散歩!」「ほんま、上重……朝早すぎるってぇ……」
「だって一日中くれるって言うたやんか! 昨日の夜から乗り込まんかったこと、感謝してほしいわ」
「まあ、そうやけどぉ……」
朝7時。上重の家の近くにある大きな公園で集合。
……やっぱりな。上重の格好、これ絶対ジョギング用のガチな服やん。普段から走り込んでるんやろな。お散歩に変更してくれただけでも、まだマシか。
「……疲れた。帰りたい」
「は? まだ一日始まってないやん! はんちゃんはおダメさんやな!」
「……やめてそれ。俺、小学生の時ちっちゃかったから、あだ名『お豆さん』やってん。それ思い出すわ」
「え、お豆さん!? かぁわいい!」
「こっちからしたらイジメやからな」
「言うてる側は、愛でてるだけやと思うけどなー」
そうや、思い出した。
小学生の頃、俺のことを「お豆」なんて呼ばずに、はんちゃんっていう愛称で呼んでくれたのが今のメンバーやった。みんな、あの頃から優しい奴らばっかりやったな……。
「うわ、なにここのカフェ!うまそう……」
「やろ? 俺、ジョギングした後は絶対ここ寄るねん。ここに来たいがために走ってると言っても過言ではない! 人気店やから、早めの方が空いててゆっくりできるし」
掲げられた看板には、朝7時から9時までのモーニングメニュー。
確かに、こんな店が近所にあったら、早起きもジョギングも苦じゃないかもしれん。
「ありがとぉ……ちょっとテンション上がったかも」
「よかった! 絶対はんちゃん、好きやと思ったんよね」
ニカッと大きな口で笑う上重は、ほんまに太陽そのものや。
こういう人が俺みたいな闇に包まれそうな人間をあったかく包んで、助け出してくれるんやろな。
そういえば、ゆうとと少し似ている気がする。いつもどっしり構えてて、情緒が安定してる。弱いところを見せへん。人の幸せを一番に考えて、それを自分の幸せみたいに笑う。
「ん~……朝から高カロリー、最高……」
「天気もいいし、ポカポカで、デート日和やな」
「そんなデートとか簡単に使うのやめて。ほんまに恋人とデートできひん俺からしたら、諦めみたいに思えてくるわ」
冗談めかして言うたけど、ほんまに少しだけ、ズシッと心に重たくのしかかる。
まだ言うても二十代。それやのにもう2年も恋人もおらへんなんて。三十になったら、もっと悲惨やろな……。
「……じゃあさ、俺と付き合う? バレンタインのメッセージカードも、告白のつもりやってんけど」
「…………え、どこが?」
さらっとした冗談めいた告白よりも、メッセージの意味がわからなさすぎて、そっちに思考が持っていかれる。
「……月光って書いて、『はんちゃんは俺のお月様。キラキラしてていつでも俺を照らしてくれる。そんなはんちゃんを俺は大好きです!』…と読みます。」
「……長っ!誰が読めるねん、そんなルビ!」
「『アイラブユー』を『月が綺麗ですね』って、日本人は訳せるんやから、それくらい余裕やろ!!」
「ほんま…ふふ、アホすぎる」
大好きやなんて告白されても動揺一つすらせえへん。
上重は、そのキラキラした太陽みたいな笑顔で、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる。
彼の想いは、不可解な暗号を通して間違いなく届いた。でも、俺……これ以上、友達を失いたくないねん。くうちゃん以外の居場所を、やっと見つけられたところやのに。
「……はんちゃん?俺、今告白してみてわかった。やっぱりはんちゃんとはずっとこうやって気軽にデートできる友達がいいなって。やから、さっきの告白はやっぱり無しにする」
上重が、少しだけ寂しそうに、でも潔く笑って言った。
「……うん。俺も、絶対その方が俺ら上手くいくと思ってる。俺に今必要なのは、恋人やなくて上重みたいな存在のでかい友達やから」
「……『存在のでかい友達』かぁ。そっちの方がめっちゃ嬉しいかも」
「遠慮せんと俺の分も食べ」と、デザートのフルーツヨーグルトを差し出してくれる。
よかった。上重が上重で。俺みたいな、闇の塊みたいなやつじゃなくて、本当に良かった。
美味しいモーニングを食べて、公園をゆっくり歩きながら、他愛もない話で笑い合う。
上重の明るさに当てられているうちに、心の中に澱んでいた「くうちゃんへの執着」が、ほんの少しだけ浄化されていくような気がした。
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