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若井滉斗 × 大森元貴
恋人同士
ほんのちょっとだけ🔞
夜もすっかり更けたリビングは、加湿器の蒸気と熱で少し蒸すような空気に包まれていた。
ソファな寄りかかっている元貴の顔は、熱のせいで赤く染まり、額には細かい汗が浮かんでいる。
「…しんどい?」
俺は濡れタオルを替えながら、声をかける。
熱で荒く息をしている元貴は、瞳を少しだけ開けたものの、ぼんやりと俺を見つめるだけだった。
「水、飲めそう?」
コップを差し出すと、頼りない指先が掴もうとして失敗しそうになる。
俺は慌てて手を添え、少しだけ飲ませる。
普段の元貴なら、「悪い」「自分でできる」とすぐ言うはずなのに、今日はただ息を吐いて、もたれるように俺に身体を預けた。
「…ひろ、と…」
一瞬、何を言われたのか分からなくて固まった。
でもすぐに、それが自分の名前だと気づいたとき、心臓が跳ね上がる。
行為の最中でさえ「ひろと」なんて名前を呼ばないくせに。
どんなに滾る夜だって、いつも「若井」だ。
そこに遠慮とか意地とかが見えて、それすらも愛おしいと感じていた。
でも今は違った。
潤んだ瞳で、汗に濡れた頬を紅潮させている元貴の口から出た言葉は_
「今…何て…?」
無意識に聞き返してしまった。
元貴は息を荒げたまま、また囁く。
「…ひろと…そばにいて…」
その声は、熱で少し掠れていて、けれどどこか甘くて、艶を帯びていた。
普段は絶対に聞けない、恋人ですら聞かせてもらえない、特別な響き。
理性の奥底を、ぐらりと揺さぶられた。
「元貴…」
触れてはいけない。
でも、手は勝手に伸びていた。
火照った頬に触れると、その熱が指先を通して心臓まで燃やしていく。
もう止められなかった。
唇を重ねると、驚くほど熱く、柔らかく、息が詰まるほど甘かった。
本当はただ軽く触れるだけのつもりだったのに、名残惜しくて唇を離せない。
熱で微かに震える元貴の唇が、少しだけ応えるように動いたのを感じて、俺の理性は一気に溶けかける。
「…んっ…」
小さく息を呑む声が、余計に欲望を煽る。
もっと深く触れたい。
舌を絡めて、その甘さを味わいたい。
行為のときですら聞けない「ひろと」という声を、もっと何度も吐かせたい。
「…元貴…」
首筋に指を滑らせ、背中に手を回すと、細い身体が小さく震えた。
押し倒してしまいそうになる衝動を必死に抑える。
それでも耐えきれず、もう一度、深く唇を奪う。
舌先で元貴の唇を開かせ、甘い熱を確かめるように舌を差し入れる。
「…ひろと…」
また呼ばれた。
普段は決して呼んでくれない名前を、熱に浮かされて零した声で呼ばれて。
胸が締め付けられるほど愛おしくて、同時にどうしようもなく欲しくなる。
もっと触れたい。
このまま深く繋がってしまいたい。
でも_
「…駄目だ…今日は、我慢する…」
そう言って、名残惜しく唇を離した。
目の前の元貴は、瞼を半分だけ閉じて、荒い息をしながら熱に浮かされた瞳で俺を見つめている。
「…早く直してね、元貴…」
そう呟いて、額にキスを落とした。
___
翌朝、元貴は嘘のように熱が引いていた。
「昨日はありがと、若井」
いつも通り「若井」と呼ぶ声に、少し物足りなさを感じたのは、自分の欲深さのせいだろう。
「もう平気なの?」
「うん…なんか若井、顔赤くない?」
「え?」
言われてみれば、喉の奥が少し痛いし、体も妙にだるい。
体温計を挟むと、微熱どころかしっかり熱がある。
「はぁ…元貴の看病してるうちにうつされたか…」
元貴は苦笑いしながらも、少し嬉しそうに俺の額に手を当てた。
「今度は俺が看病する番だね、滉斗」
行為の最中でも呼ばないその名前を、真っ直ぐ呼ばれた。
体調は最悪なのに、胸の奥だけが温かくて、心地よかった。
「…じゃあ、今日は頼むわ、元貴…」
俺はそう言いながら、熱で霞む視界の向こうで優しく微笑む元貴を見つめていた。
普段は見せない顔も声も、全部まとめて、もっと欲しくなる。
そんなことを思いながら、静かな朝の光に包まれて目を閉じた。
我逢人永遠に聴いてる
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