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まなこ〜友
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#ますしき
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読み終えたわ。この話、めっちゃもどかしくて胸がぎゅっとなる展開やった……。 夏帆の「可愛くない自分」を自覚しながらも素直になれない感じとか、雅のクズっぽさの中にふと見せる優しさとか、そのバランスがリアルで刺さる。特に「代わりを探してた」って言葉がずっと残ってるってとこ、あれがずっと尾を引いてる感じが伝わってきて苦しかったわ。 上着を掛けるシーンの優しさと、その後憎たらしく舌を出すギャップ、まさに雅って感じで好き。次が気になる🔥
あれからしばらく経ったけれど、私と雅の関係性は相変わらず続いていた。
時々彼が泊まりに来て、私は時々バーに通う。付き合う前と今とで、表面的にはこれといった変化はない。
だけど最近、どうしても耳について離れないことがあった。
「最近付き合い悪いよね、雅」
カウンターに座っていると、雅とその客の会話は嫌でも耳に飛び込んできて、それに最近は反応してしまう私がいる。
「元からそんな遊んでた記憶ねぇけどな、クラブまだ行ってんの?」
聞きたくもない過去やプライベートの断片。仮にも彼氏という肩書きを持つ男の遊び歩いていた話なんて、聞きたいわけがない。
それなのに、私はアルコールを流し込みながら、無意識に意識を二人の会話の方へやっていた。
「最近家にも来てくれないしつまんない」
甘えるような声を上げているのは、いかにも男受けしそうな可愛らしい女の子。
へぇ、あの子の家に行ってたんだ。
そこでナニをしていたんだか。
ああやって素直に甘えられる方が、よっぽど可愛いわよね。
とこんな感じで、浮かんでくるのは、とことん可愛くない思考ばかり。
別に、嫉妬をしているわけじゃない。ただ、純粋な疑問が浮かんでいた。ああいう愛嬌のある女性ではなく、私のように気の強い女をあえて選ぶ雅が、一体何を考えているのか、と。
もし私が男性で、あの女性と私を並べられたら、迷うことなく、あどけない笑顔で甘えてくる可愛らしい女性の手を取るのに。
ぼんやりと卑屈な思考に沈んでいると、他の客の対応を終えた玲くんが戻ってきて、私の手元のグラスを覗き込んだ。
「夏帆ちゃん、グラス空になってるよ。何飲む?」
玲くんの声に弾かれたように、雅と女性の会話から意識が引き剥がされた。
その声掛けで、次の一杯を考えたけれど、段々ともうアルコールを楽しむ気分にはなれなかった。
「うーん、もう帰ろうかなって」
「え、もう? 珍しいね」
少し意外そうな玲くんに力なく笑いかけ、私は鞄を掴んで立ち上がる。そのまま会計を済ませると、玲くんが店先まで見送りに来てくれた。
「夏帆ちゃん、夜道危ないから気をつけてね。また飲みに来て」
「うん、また今度ゆっくり来る」
そう言って手を振り、私はバーの灯りに背を向けた。
歩き出しても、さっきの会話が耳の奥で残っている。どうして雅の過去や、女性関係の話が気になるのかわからない。私にはどうでもいいことだったはずなのに。
その上厄介なのは、聞きたくないと思っているのに、その詳細を追い求めてしまう自分だった。意識を逸らせないまま、彼の過去の女性遍歴を突きつけられ、無性に腹が立っていた。
私なら、本当に好きな男性がいるのなら、他の誰かで心を埋めようなんて思わない。代わりを探すこともしない。それは自分に対しても、相手に対しても、あまりに不誠実で失礼なことだと思うから。
雅はそれを平然とできてしまう男。
考え方が違うのは、百も承知だったはず。
けれど、あの時、彼が言った「お前の代わりを探してた」という言葉が、心に突き刺さって抜けない。その考えを、今の私はどうしても受け入れられなかった。
私、酔っているのかも、と小さく溜息を吐き出すと、白く濁った吐息が夜に溶けた。
あの男一人の言動に、ここまで思考をかき乱されている自分がひどく滑稽で、恥ずかしい。今まで、こんなに余裕のない女じゃなかったはずなのに。
雲一つない快晴だった日は、夜の冷え込みが厳しくなる。油断してジャケットすら羽織らずに出てきたことを後悔し、肩をすくめて夜道を急いだ。
「夏帆」
背後から聞き慣れた声がして振り返ると、そこにはさっきまで店にいたはずの雅が立っていた。
「あれ、雅。どうしたの?」
雅は迷いのない足取りで近付いてくると、手に持っていた彼の上着を私の肩に掛けた。
ずっしりとした重み。彼特有の、煙草と微かな香水の混じった匂いがふわ、と包み込んでくる。こんなに真っ当で優しい気遣いをされるなんて思わなくて、言葉が詰まった。
「何も言わずに帰るとかうちの彼女薄情だよな」
文句を言いながらも、その声は柔らかい。
彼は元々、棘のある話し方をするタイプではないけれど、今はどこか優しさを含んでいる。長すぎる付き合いのせいで、そんな微細な変化すら、私は敏感に感じ取ってしまう。
「だって、接客してたし」
「バカ、声かけられたらお前優先してたに決まってんだろ。声掛けろよ」
その言葉に、素直に頷くことができなかった。
お前を優先するなんて甘い言葉を受けても、ちっとも嬉しくない。
本当に? あんなに愛嬌のある子が待っていたのに?
可愛げも愛想もない私を、どうして?
そんな面倒な女の言葉は喉元まで出かかっていたけれど、途中で詰まった。この男がこういう面倒な言葉を嫌うこと、誰よりも知っていたから。
雅の優しさに触れるたびに、彼が他の誰かにも同じように接していたんじゃないかなんて考えに囚われて、どこまでも面倒で可愛くない私が顔を出してくる。
何も言い返さない私を不思議に思ったのか、彼は軽く首を傾げた。
「……何かあった? 仕事疲れた?」
少し腰を落として私と目線を合わせると、雅は優しい手つきで私の頭を撫でた。
弱っている時に、こういう優しさを迷いもなく差し出してくるところ、本当にずるい。どんなに不誠実な男だと憤っていても、この体温に甘えたくなる自分を否定しきれなくなる。
だけど、私はこういう時、素直に甘えるなんて可愛さを持ち合わせていない。
「ううん、何でもない。仕事中でしょ、あんたも早く戻りなさいね」
精一杯の作り笑いで追い払おうとする私を、雅は射抜くような眼差しで見つめてくる。
彼の瞳は、私が心の奥底に隠した卑屈な嫉妬も、情けない独占欲も、すべて暴いてしまいそうで居心地が悪い。見透かされたくないから冷静を装うけど、こんなの何の意味もなさそうで。
沈黙の後、雅は短く息を吐き、ふっと笑みを零した。
「わかった、お前頑固だしな。後で家行くわ」
「は? 来なくていいし」
「お前にジャケット貸したのを回収するだけだよ。何期待してんだよ、バーカ」
そう言って、子供みたいにべっと舌を出していた。そして背を向け、ひらひらと手を振りながら店の方へ戻っていくその後ろ姿が、猛烈に憎たらしい。
(誰が期待なんかするか、クソガキ……!)
心の中で毒づきながらも、私は彼の上着をぎゅっと握りしめた。
腹の立つ男なのに、この香りに包まれている瞬間が安心するなんて……、こんな自分が一番よくわからない。