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朝の鐘が鳴り、教室に生徒たちが集まってくる。リンクは窓際の席に座り、周囲をさりげなく観察していた。
誰も彼を不審がらない。それどころか、自然に声をかけてくる。
「転入生だよね? 俺、オリバー」
白いシャツに身を包んだ少年が、柔らかく笑う。
その隣から、軽い調子の声が飛んできた。
「私はジップ。分からないことあったら聞いてよ」
少し離れた席では、エドワードが無言でこちらを一瞥し、すぐに視線を逸らした。
敵意はない。ただ、距離を保っているだけのようだった。
リンクは短く頷く。
「リンクだ。よろしく」
それだけで十分だったらしい。
彼はすぐに「普通のクラスメイト」として受け入れられた。
最初の授業は、ミス・サークル。
大きなコンパスを手に、完璧な円を黒板に描きながら、淡々と問題を出していく。
リンクは迷うことなく答えを書き、提出した。
「……正確。計算も速いですね」
ミス・サークルはそれ以上何も言わず、次の生徒へ進む。
オリバーが小声で囁いた。
「すごいね。満点だよ」
リンクは首を傾げる。
――特別なことをしたつもりはなかった。
次は、ミス・ブルーミーの授業。
明るく、どこか忙しない口調で、知識を次々と投げかけてくる。
記憶力と理解力を試す内容だったが、リンクにとっては問題にならない。
「素晴らしいわ! 新しい子なのに、よく覚えてるじゃない!」
クラスがざわめく。
ジップが笑いながら肘でつついてきた。
「なあ、元の学校どこだよ。エリート校?」
「……さあ」
嘘はついていない。
ハイラルに学校という概念は、あまりないのだから。
最後は、ミス・サヴェル。
低く落ち着いた声で、文章の構造や意味を問う。
行間を読む力、意図を汲み取る力。
リンクは戦場で培った観察眼で、問題の核心を外さない。
「……良い解釈だ」
それだけの評価だったが、十分だった。
一日が終わる。
リンクは成績優秀な転入生として、完全に溶け込んでいた。
誰も欠けた席を気に留めない。
名前が呼ばれない生徒がいたかもしれない、という発想すらない。
リンク自身も同じだった。
この学校が、どこか“静かすぎる”ことに。
最初から存在しなかった者たちがいることに。
その違和感は、まだ輪郭を持たない。
放課後、シーカーストーンが小さく振動する。
《状況はどうですか?》と、ゼルダ。
リンクは短く返した。
『問題なし。普通の学校だ』
その言葉を、彼自身が疑うことはなかった。
――この時点では、まだ。