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聖次
910
#大正時代
井川奎
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次の日の放課後。
私は朝からずっとそわそわしていた。
――明日も来るから。
昨日、星谷先輩が言ってくれたその言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
「彩、今日なんか機嫌よくない?」
隣の席の友達が、不思議そうに顔をのぞき込んできた。
「えっ!? そ、そうかな……。」
「うん。なんかずっと笑ってる。」
「そ、そんなことないよ!」
慌てて否定すると、友達は「ふーん?」と首をかしげた。
私は慌てて教科書に目を落とす。
……そんなにわかりやすいのかな。
自分でも、今日は少し浮かれていると思う。
だって。
放課後になれば、また先輩に会えるから。
◇ ◇ ◇
「失礼します……。」
図書室の扉を開ける。
誰もいない静かな空間。
私はいつもの席に荷物を置いて、本を整理し始めた。
すると――。
ガラッ。
扉が開く音。
思わず顔を上げる。
「……こんにちは。」
そこにいたのは、星谷先輩だった。
「あ……!」
自然と顔がほころぶ。
それを見た先輩が、少し驚いたように目を瞬かせた。
「なに、その顔。」
「え?」
「俺が来て、そんなに嬉しかった?」
「……っ!」
一瞬で顔が熱くなる。
「ち、違います!」
「ふーん。」
絶対、からかってる。
先輩は楽しそうに笑いながら、私の向かいの席に座った。
「でも、俺は嬉しい。」
「……え?」
「彩が待っててくれたみたいで。」
心臓が、どくんと跳ねる。
そんなこと、さらっと言わないでほしい。
私は何も言えなくなって、本に目を落とした。
そのときだった。
ガラッ!
突然、図書室の扉が勢いよく開く。
「彩!」
「……え?」
顔を上げると、そこには同じクラスの美咲が立っていた。
「あれ、探したよ。先生が……」
そこまで言って、美咲の言葉が止まる。
視線が、私と先輩を行ったり来たりする。
静寂。
そして――。
「……え?」
美咲が固まった。
「え、え、え……!?」
嫌な予感がした。
「な、なんで星谷先輩と二人でいるの!?」
図書室に声が響く。
私は思わず肩を跳ねさせた。
「ち、違っ……!」
「違わないでしょ!? 今、二人きりだったよね!?」
「それは……。」
うまく説明できない。
すると、隣で先輩が小さく笑った。
「内緒、ってことで。」
「……は?」
美咲が目を見開く。
「な、な、内緒って……!」
完全に誤解されている。
私は慌てて立ち上がった。
「ち、違うの! 本当に何も……!」
「彩……。」
美咲が信じられないものを見る顔をする。
「まさか……星谷先輩と付き合ってるの?」
「違う!!」
今までで一番大きな声が出た。
図書室が静まり返る。
すると、先輩がぷっと吹き出した。
「……ふふ。」
「先輩!」
「ごめん。面白くて。」
全然面白くない。
私は顔を真っ赤にして先輩を見た。
そのとき。
「……本当に?」
美咲が、少し真面目な顔で聞いてくる。
「う、うん……。」
「……そっか。」
なぜか、ほっとしたように笑う。
そして、私の耳元に顔を寄せた。
「でも、星谷先輩が彩を見る目……ちょっと特別だったよ。」
「……え?」
小さな声だったのに。
その言葉だけが、はっきりと耳に残った。
特別……?
思わず先輩を見る。
すると、先輩もこちらを見ていて。
ぱち、と目が合った。
その瞬間。
「……っ。」
なぜか、胸が苦しくなった。
私は慌てて目をそらす。
そんな私を見て、先輩は少しだけ優しく笑った――。
このとき私はまだ知らなかった。
“秘密を知る人”が一人増えたことで、私たちの関係が少しずつ変わり始めることを。
コメント
1件
いやあ、もう、美咲の登場シーンで一気に心臓が跳ねましたよ!「内緒」って先輩がさらっと言っちゃうのがずるい…完全に誤解を楽しんでる(笑)。でも最後の「特別だったよ」からの目が合うあの空気、一瞬で甘くて切なくてドキドキしました。キーパーソンが増えて、これからどう転ぶのかすごく気になります!