テラーノベル
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大切にしたいと思う
けどそれは言い訳に過ぎなくて
嫌われたくなくて一歩踏み出せないでいる
「阿部、大丈夫?」
仕事帰りの飛行機、隣に座った照が顔を覗き込んできた。
「顔色悪いみたいだけど、酔った?」
「あ、いや…。疲れが出たみたい。」
「この後の食事会大丈夫そ?」
「もちろん!9人揃うのなんて久しぶりだし。」
笑顔で応えると、照は納得していない様子ながらも引き下がってくれた。空気を呼んでくれるこういうところは本当にありがたい。
(なんか嫌な予感がする…。)
明確なものじゃない。けど、胸の奥がざわざわする
(早く帰って涼架君に会いたい…。)
会って、抱きしめて、”ただいま”って言って、”おかえり”って笑顔で言って欲しい。
飛行機を降り、タクシー乗り場へ向かう。
「タクシー3台で移動するから。LINEのグループで共有しておいた店の場所をそれそれ運転手さんに伝えて。」
舘様の言葉に、皆は頷いた。
1台目:ふっか、翔太、舘様
2台目:俺、照、めめ
3台目:佐久間、康二、ラウ
乗り込む時、照が後ろのタクシー見ながら
「あいつら違うとこ行きそうじゃね?」
「ふふ、あのメンツならありうる。」
照の声が聞こえたのか、佐久間が
「むしろ先に着いて食い尽くしてやる!」
まだ何か言ってたけど舘様たちのタクシーが発進して、俺たちが乗ったタクシーも走り出した。
店に着き、タクシーから降りる。一足先に着いて1台目の3人は既に店の中に入っているようで、照もさっさと店の中へ入って行く。俺も入ろうとすると
「阿部ちゃん。」
めめがこそっと話かけてきた。
「どうした?」
「相手の方遅くなっても大丈夫?」
「うん。メンバーと食事してくるって伝えてるから大丈夫だよ。」
「そっか。」
「そうだ。今度めめも一緒に向こうサイドと食事しようって話があるんだよ。」
「え”…。」
めめは固まった。
「どうしたの?」
「えっと、俺含めて全員で5人ってことだよね?」
「そうだね。」
「…阿部ちゃん何もしてないよね?」
「え?」
「あ、いや、こっちの話…。」
何かをぶつぶつ言いながら、めめは店に入って行った。
「とうちゃーく!阿部ちゃん、待っててくれたの?!」
タクシーから降りて来た佐久間が勢いよく抱き着いてきた。
「俺も今着たところだよ。」
「照と蓮は?」
「今入ってった。」
3台目の3人と一緒に俺も店の中に入った。
早く帰りたいという思いもあれどやっぱり9人揃うと楽しくて、美味しい食事を大切な仲間とわちゃわちゃしながら食べるのはとても楽しかった。
このチームでよかったと心から思う。
途中トイレに行き、用を済ませて手を洗っていると、ポケットに入れていたスマホからライン通知が鳴った。
(涼架君かな…?)
開くと涼架君からだった。しかし、
「え…?」
―『うちの藤澤、寝顔可愛いでしょ?』
メッセージと一緒に送られてきた写真は、大森さんが自撮りしている写真だった。しかしそれだけじゃない。背景からして場所は涼架君が前住んでいて今は倉庫にしているところ。そして大森さんの後ろには涼架君が横になっている。
多分、涼架君が寝てる時に涼架君のスマホを使って大森さんが撮って送って来たんだと思う。
何のために?
ていうか、なんで二人が一緒に居るの?
大森さんって若井さんと付き合ってたよね?
涼架君はなんでそんな安心した表情で眠ってるの?
「….。」
トイレから戻り、皆に悟られないように笑顔で
「ごめん、ちょっと体調悪くなったから帰るね。」
「俺外まで送るよ。」
帰る俺にめめが店の外まで付いてきた。
「あの人となんかあった?」
めめは鋭いね。
「終わって俺が話せる精神状態になったら話すね。」
にっこり笑ったら、めめは神妙な面持ちで頷いた。
「分かった。こっちは任せて。」
「え?」
こっちってどっち?
「お疲れ、阿部ちゃん。またね。」
店に戻って行くめめ。俺はタクシーに乗った。
涼架君が前住んでたマンションの前に来た。部屋番号を押すと
『あれ?亮平君?!』
驚いた涼架君の声がスピーカーから聞こえてきた。
「迎えに来ちゃった。」
内側に蠢くものがばれないように、努めて冷静にいつもの声色と顔で言った。
『すぐ開けるね。』
エントランスの扉が開き、涼架君の部屋の前まで来る。ベルを押すとすぐに扉が開いた。
「おかえり!とりあえず入って。」
驚くほどいつもと変わらない涼架君が出てきた。呆気に取られていると
「どうしたの?」
「お、お邪魔します。」
とりあえず中に入る。
「ごめん、亮平君。もう少し遅くなると思ってた。すぐ帰る準備するね。」
「えっと、大森さん来てた…?」
「うん、さっきまでね。」
「何しに…?」
ざわっと心が波打つ。しかし、涼架君は何てことなさそうに
「若井と近くでご飯食べてたらしいよ。僕が今日こっちに居るの知ってるから二人でちょっと寄ったって。1時間くらいして帰ったかな。」
若井さんもいたんだ…。
脱力して思わず持っていた鞄を床に落とした。
「え?!亮平君?大丈夫?」
「あー…うん。大丈夫。ちょっと大森さんから連絡あったから。」
「え?元貴何かしたの?」
「ラインで俺とのトーク画面見てみて。」
「ライン?」
涼架君はスマホを操作した。
「なんか二回削除されてる?あ、元貴なんか悪戯した?!」
送信取り消しじゃなくて削除か。これ、”余計なこと言うなよ”って意味が込められてる気がした。
「この画像が送られてきた。」
画像だけを涼架君に見せる。
「あー…。これさっき無茶な課題突きつけられて絶望している時に撮られたやつだね。」
「….これ絶望してるの?」
想像していた状況とは真逆だったらしい。
「元貴が寄ったのは新譜の説明するためでさ。文章より口頭の方が元貴の場合は伝わるからって。あ、この左端に黒いネイルの手がちょこっと写ってるでしょ?これ若井。」
大森さんの勝ち誇ったような顔も、涼架君が安心して眠るように見える角度も、端に若井さんの手が映り込んでるのも、この写真全部計算されてるんだな…。
「ふ…あははははは。」
思わず笑ってしまう。ここまでしてもらわないと前に進めない自分自身の臆病さに。
「えっと、亮平君?」
疲れすぎておかしくなってしまったと思われたかもしれない。でもそれでもいい。
「涼架君。」
「何?」
「俺ね、結構ロマンチストなんだ。」
「へ?」
「だからね、”初めては記念日にどこか夜景の見える高級ホテルで”って思ってたんだよ。」
「初めて…って、え?!」
「でもさ、自分が思ってる以上に俺、涼架君のこと好きみたい。」
驚く涼架君。そうだよね、今までこんな話したことなかったもんね。でもさ、やっぱり好きな人と一つになりたいって欲、俺にもちゃんとあるんだよ。
「ぼ、僕だって亮平君のこと大好きだよ!」
真っ赤になりながらも応えてくれる涼架君。愛しさが爆発してしまいそうになる。
「うん、ありがとう。だからね、涼架君。」
涼架君の左手を取り、まるでダンスに誘うように軽くお辞儀をする。
「君の全部を俺にくれませんか?」
【続く】
【小話】
9人での久々の食事会中、トイレに立った阿部ちゃんが戻って来た。
「ごめん、ちょっと体調悪くなったから帰るね。」
しかしガチギレデススマイルを張り付けて。
「俺外まで送るよ。」
帰る阿部ちゃんの後を慌てて追った。
「あの人となんかあった?」
「終わって俺が話せる精神状態になったら話すね。」
「分かった。こっちは任せて。」
「え?」
「お疲れ、阿部ちゃん。またね。」
個室に戻ると、
深澤「え?誰が阿部ちゃん怒らせたの?」
佐久「トイレ行く前は普通だったから原因俺らじゃなくね?」
渡辺「阿部ちゃんのデススマイル久々見た。怖ぇ~。」
宮館「目黒、阿部どうだった?」
目黒「店出る頃にはちょっと落ち着いてた(嘘)」
岩本「ってことはトイレで何かあった?」
向井「パパラッチおったとか?」
ラウ「トイレ完全個室だよね?」手洗いが個室の中にあるタイプ
佐久「なら行きか帰りになんかあったってことか?」
岩本「ちょっとトイレ行ってくる。」様子見に
宮館「俺も。」
目黒「(藤澤さんなら大丈夫…だよね。以前阿部ちゃんのデススマイルを瞬殺したし)」
コメント
6件
作者様の💚💛も好きすぎて🤭 💚のデススマイル、想像しちゃいました🤣
気になるなー 最新話楽しみに待ってます
阿部ちゃんかわいいねぇー りょつどうなるのか