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涼ちゃんが熱で倒れた翌日、俺は涼ちゃんの家に寄ってからソロでの仕事に行くことにした。

一応連絡は入れて、インターホンを鳴らす。ドアを開けてくれた涼ちゃんは昨日より元気そうで安心した。



「調子どう?夜の仕事どうする?」


「もうすっかり熱も下がったし元気!だから夜は行くよ」



また無理してるんじゃないかと心配している俺を見透かすように笑う。



「もう本当に平気だから···ありがとう」



なら、いいか···思わずその桜色の頬に手を伸ばして触れてしまう。

不思議そうな顔、目をまん丸くして俺を見る。

本当はもっと休ませてあげたい、それどころか誰にも見せずに自分だけのものにしておきたいくらいだな···そう思って頬を撫でた。


「元貴、くすぐったいよ···僕もう元気そうでしょ?」



クスッと笑われて慌てて手を引いた。



「ごめん···本当に元気そうで良かった。じゃあまた夜にね」


「うん、いってらっしゃい···」


玄関で見送ってくれる。いつも家にはひとりだから、いってらっしゃいって嬉しい言葉だなと思う。



「いってきます」


「あ、忘れ物···」



え?と立ち止まった俺の頬に涼ちゃんの唇が触れる。

これったまさか···いってらっしゃいのキスってこと?


戸惑う俺に涼ちゃんは少し照れてえへへ、と、笑う。お戸惑いと驚きで声も出ない俺は優しくそのふわふわの明るい髪を撫でてから仕事に向かう。


基本的に仕事をしていたほうが落ち着く俺がこんなにも行きたくないと思うなんて···返したくなくてわざと言い出さなかったスペアキーがポケットでカチャリと音を立てた。



夜になって、涼ちゃんがそろそろ来る頃···そわそわしながら俺は涼ちゃんを待っていた。本当に大丈夫かな?あれからまた熱がぶり返してないといいけど。落ち着きのない俺を見て若井がおい、落ち着けよ、こっちまで落ち着かない···と、なんだかんだ若井も心配して2人ともつい無言になる。

そんなところに明るい声が聞こえてきた。



「お疲れ様です、若井〜!心配かけてごめんね!元貴も!」


「涼ちゃん〜良かった」


若井が涼ちゃんの元へ駆け寄って軽くハグしている。 家で会った時と変わらない元気さでほっとした。


「涼ちゃん無理はしないでね 」


今日はラジオの収録や打ち合わせくらいだけど、涼ちゃんが心配で仕方ない。


「うん···ありがと。そういえばラジオが放送される時には元貴は海外かぁ···少しの間なのに寂しいね」


涼ちゃんが寂しがってくれることが嬉しい。俺も寂しいと、こんなところでは言えないけれど。



「じゃあ無理せずに、けど元気に頑張ろう〜!」


「は〜い!」


若井の掛け声にえいえいおー!と腕を上げる涼ちゃんが可愛くてクスリと笑ってしまう。

いつだって涼ちゃんがいるとそれだけで俺は嬉しくなるよ。



無事ラジオを収録して、打ち合わせを終える。俺は帰ろうとする涼ちゃんに声を掛けて一緒のタクシーで帰ることにした。



「帰ったらまたすぐ休んでよ」


「うん、ちゃんと休む」


「しっかり水分とってね。お風呂上がりはすぐに髪乾かすんだよ、お腹出して寝ないようにしてよ」


「元貴、僕子供じゃないんだから〜」


うふふ、と隣で笑うけどそんなことしてそうで不安なんだよ、と言い返す。可愛い涼ちゃんが心配なんだよ。


「そんなに心配なら一緒に帰って見守っててよ」


「そうしようかなぁ」


それは名案かも、と乗り気な俺に涼ちゃんは慌てる。


「昨日から僕のせいで休めてないんだから!今日こそゆっくりしてよ、元貴が倒れたら困っちゃうよ···」


残念、まぁ涼ちゃんもゆっくりひとりで休むほうがいいだろう。



「あ、そういえばこれ···鍵、返すね」


ポケットから取り出して涼ちゃんの手のひらに乗せる。本当はずっと持っておきたかったそれ。


「···うん、本当ありがとう··· 」


仕方ないよな···恋人でもないんだし。

涼ちゃんは鍵を鞄に仕舞って、車内が静かになった、その時。


···え?


なぜか涼ちゃんの手が俺の手の

に重なる。隣を見ると涼ちゃんは内緒だよ、という風に人差し指を唇に当てて微笑んだ。



···なんで、どうしたの。

けどそんなことより今は。



運転手さんにバレないように静かに重なった手をそっと上に向けて指を絡める。まるで恋人同士のような繋ぎ方。


ゆっくり涼ちゃんの指に力が入り、気づけば俺たちはしっかりと手を繋いでいた。


静かな車内でどちらも何も喋らずに。


ただ手の温もりだけを感じていた。


いつもよりきっと、2人とも少し体温が上がってたんじゃないかなっていうくらい掌が熱い。

ひたすら、ただ幸せで嬉しいだけの時間が流れる。



「あ、その先曲がったところで大丈夫です」



涼ちゃんが運転手さんに声掛けして家の近くで車が停まる。



「元貴、本当に色々とありがとう···」


「ううん···しっかり休んで···」



ゆっくりとその長い指が俺の手から離れていく。バイバイ、と手を振って涼ちゃんは車が出発するまで見送ってくれた。



なんでこんなに寂しいんだろう。

幸せな時間のあとこんなに切なくなるなんて。


また明日も明後日も会えるのにね。


涼ちゃん、ずっと俺の側にいてほしい。


いつでもいつまでも側にいられる存在を望んでいたはずなのに、その向こう側へ乗り越えていきたい自分がいてグラグラと気持ちが揺れた。


涼ちゃんが好きなんだ···こんなにも。



大森さんと藤澤さんの日々

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コメント

3

ユーザー

切なすぎて頭痛が( ߹꒳​߹ ) 2人がずっと一緒にいられますように🍀*゜

ユーザー

わかります〜一番楽しい🥰

ユーザー

付き合う前のこの時間、めちゃ良いですね🤭♥️💛

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