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狐夜 月愛🩵🦊🌙
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水虹ひにゃ@一人称変化中
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二の腕の柔らかさってさ。ぽつりと話しかけられて、仁人の枕となった二の腕にそっと触れる。大して力を入れていなくてもかたくて、到底柔らかさとは表現しがたい。それを言うなら、硬さってさ、と切り出すべきだろう。
思考がすっかりばれているようで、頭上から洩れる小さな笑い声に口を尖らせてみれば、にやにやと片方だけ口角を引き上げたまま勇斗の手が仁人の二の腕に伸びる。ふに、と指先でつままれ、思わずやめろと静止の声をかけるも、手の止まる気配はない。それどころか、手のひらを大きく広げて腕を掴み、次第に揉むような手つきに変わる。握ったときの感触だったり、跳ね返りを楽しむように。
「二の腕の柔らかさってさ、おっぱいの感触と似てるんだって」
じんとにおっぱいが付いてたら、こんな感触なのかなって。少し上擦った声音の勇斗とは裏腹に、仁人の心は冷えていくのを感じた。
「きっとふわふわでもちもちなんだろうね」
「……付いてなくて、ごめんなさいね」
気色悪いこと言うなよだとか、きっと冗談っぽく振る舞うのが正解だっただろう。勇斗は案の定、そう言う意味じゃねえよと反論する。
「付いてたらって話なだけで、付いてて欲しいなんて言ってないじゃん」
「女の子のほうが触ってて楽しいの普通でしょ。別に拗ねたり怒ったりしてるわけじゃないよ。俺だってそう思うもん」
「仁人も、女の子に触りたいの」
勇斗の問いかけには答えず、やんわりと大きな手を二の腕から遠ざける。硬くて寝心地の悪い枕から頭を遠ざけて、スプリングの効いたマットレスに後頭部を預けた。
「浮気はしてもいいけど、俺の知らないとこでしてね。んで、俺に飽きたらさっさと捨てて」
「……は?」
「大丈夫、俺元々この関係長く続けるつもりないから。人間って、どんなに好きで付き合ったって、いつか別れるもんと思ってるし」
どんなに仲良しに見えるカップルだって、少ししたらケンカして拗れて別れてるのを何度も見てきた。永遠の愛なんて存在しないと思っているし、仮にあったとしても自分には縁遠いと思っている。ましてや、自分たちは男同士なのだから。
特定の人と深い関係を築くのが嫌いだ。相手に自分のことをすべて知られるのは怖いし、逆に相手のことを全て知りたいとも思えない。深入りすればするほど、別れが辛くなるものだから。
成り行きで始まったこの関係も、仁人は相手の知らない部分を知らないままでいられる距離感を保ちつづけている。
「黙って聞いてりゃ、随分好き勝手言うなおまえ」
「は? 勇斗おまえ、一生付き合うと思ってたの」
随分一途だねえ、その熱のベクトルはこっちじゃなくて、まともな方向に飛ばすべきだ。
勇斗は苛立ちを隠しもせず、仁人の肩を掴みマットレスに縫い付けるように押し付け馬乗りになった。背の高い勇斗の重力と筋力で、元より逃げる気のなかった仁人はますます逃げられなくなったと眉を下げて笑う。
「ヘラヘラすんなよ」
「別にしてないだろ」
「してんだろ。俺本気で仁人のこと愛してんのに、今までそうやって内心馬鹿にしてきたのかよ」
「今本気で愛してたって、いつかは崩れるもんなんだよ。一生なんて無理だよ、賭けたっていい」
「賭けてみろよ。一生離す気ねえよこっちは!」
「無理だよ。いつか俺のこと邪魔になる。やっぱ女のが良いって言うの分かってんだよ!」
てめえ、と低い声で唸り、勇斗が乱暴に仁人の胸ぐらを掴む。
「……優秀で、なんでも出来て、手に入んないものがなかった奴って、こうやって暴力に出るんだな」
「……は? お前に暴力振るうわけねえだろ」
勇斗は睫毛が当たりそうなほどの至近距離で低く告げ、噛みつくようなキスをしかける。目は鋭く見開かれたまま、獲物を捕らえた捕食者のように肩に爪を立てて動きを封じた。唇同士を隙間無く密着させられ、あいだには空気すらも入り込めぬように。少しでも身動ごうものなら、それを罰するように頭をがっしりと固定された。
息ができない。鼻から取り込める酸素も限られてる、それほどに薄い空気しか漂っていなかった。
どれほどの時間、こうしていただろうか。目も開けていられない、息苦しさはとうに越え、意識が遠のきそうだ。根比べのようなキスから逃げて、いっそ手放してしまおうか。仁人が瞳を伏せた瞬間、勇斗はあっさりと唇を離した。
対流のように一気に空気が舞い込み、仁人は肩で息をした。長いこと吸っていなかった酸素を求める身体は、まだ生きていたいと必死だった。
「ばか、こんなんで死のうとすんなよな。たしかに、今死んだら俺が一生離さなかったことになるけど」
「……そういう、いみかとおもった……」
「ヨボヨボのおじいちゃんになるまで、お前の耳元で好きって言うから」
「は、っ、勝手に言ってろ……」
「言わせてもらうよ、勝手にな。毎日好きって言って、賭けに勝ってやるから」
「……勝ったら、賞品は?」
仁人の問いに、勇斗は泣きそうな顔をくしゃりと歪めて笑う。
「一生仁人の隣にいられた時点で、最高の賞品じゃん」
いつか女の子と結婚して、子供ができて、なんて真っ当な人生より、そっちのが幸せだろ。
そんなことを当たり前に言える日も、遠くないのかもしれない。
コメント
1件
うわあ~~~!この第1話、心臓ぎゅってなったよ😭💔 二の腕の話から始まるのに、まさかこんなに重くて切なくなるとは思わなかった…!仁人が「いつか別れる」って割り切ろうとするのが痛すぎるし、それに対して勇斗が「一生離さねえ」って本気でぶつかってくるところ、熱すぎてやばい…! 最後の「最高の賞品じゃん」って台詞、エモすぎて叫んだわ😭💕 この2人、どうなっていくのか続き早く読みたいよ…!シオネさん、また新たな沼をありがとうございます…!