「”彼”は…寡黙な奴だった
そこに感情の起伏もない…だけど…
誰よりも強い、責任感を持っていたんだ…」
H・タイゾウは、どこか異様な予感を感じていた。
「…あそこやな」
そんなH・タイゾウの視界にあったのは、小さな村。閑散としている。
「!!なんや…こりゃあ…!?」
村に入って少し進むと、無残な姿となった村人と思われる者たちの死体が転がっていた。
どの死体にも、胴体には空洞がある。
H・タイゾウは、物凄く嫌な予感がした。
どうか、この予感が間違いであってくれ、とH・タイゾウは切に願いながら村の中心まで進んだ。
現実は、どこまでも残酷だった。
そこには、血まみれの”鬼”が立っていた。
「…お前なんか?ユカ…。お前が…やったんか…」
H・タイゾウはその者の名を呼んだ。
彼女はゆっくり振り返る。
「…タイゾウ…アタシ…アタシ…ハハ…アハハハッ…」
「ユカ!!しっかりせんか!!」
「!!」
「お前が……やったんやな!?」
T・ユカはうなずいた。H・タイゾウはもうどうしたら良いのか分からないといった感じだ。
「ああ…うああ…わあああああああああああああああああ」
T・ユカは絶叫した。
数分後…
「ユカ…」
「タイゾウ…セイレーンって…悪じゃないのか?」
「……どっちにしてもそうはいいきれん」
「じゃあ、誰が悪いんだ…?」
「………」
「…………タイゾウ、この”世界”って…誰のものなんだ?」
「そりゃ民衆の―」
「嘘だな」
「………ヴィレイ・アシュラのやろうな」
「そうか…そっかそっかァ…。全部ソイツのせいなんだァ…」
「ユカ…?」
「クッククククク…。行こうぜ、タイゾウ」
「行くって…?」
「決まってんだろ…。エレノイアだよ…。ヴィレイをぶっ殺しに行くんだ…!やっと…やっと”見つけた”…!フフッ…フフフフフ…あははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」
「ユカ!!」
「ンだよ、タイゾウ。まさか邪魔するなんて言うんじゃねぇだろうなァ?」
「そうやない…。それよりお前…分かっとるんか?自分が何やったんか、分かっとるんか!?」
「………分かってるよ。でも、悪いのはヴィレイだろ?」
「…は?」
「こうしちゃいられねぇ…!こうしてるうちにも、アイツは生きていやがるんだ…!許せねぇ…!アタシの手で、ぶっ殺してやる!!」
そう言い切ると、T・ユカは歩き出した。
H・タイゾウは、もう何も言わなかった。いや、言えなかった。
もう誰も、彼女を止めることはできない。
二人が村を出てから数分後、数人の集団が村を訪れた。
先頭にいる9歳ほどの少年が、その惨状を見渡す。
「連…」
『連』と呼ばれたその少年は、自分の名を呼んだ者にこう言った。
「やっぱり…平和のためには恐怖が必要なんだね…。皆はどう思う?」
「俺たちは連についていくぜ」
他の皆もうなずく。
そして彼らも、村を後にしたのだった。
一方その頃、戦火は世界中に広がりつつあった。
東では極東公国。
西ではア連。
そしてなにより、世界中の反乱勢力が一斉蜂起を起こしたことで、さらに戦争は激しさを増していった。
第四次世界大戦が、本格的に始まったということだ。
ティエラは東欧に突入した。
そこには多国籍軍が大勢いたが、ティエラは次々とダイヤモンド・ソードで難なく倒していく。
あと少しでエレノイアだ。
(ヴィレイさん…。いや、ヴィレイ・アシュラ…悪いがアンタには…死んでもらう…!)
そのときだった。
突然向こう側から7つほどの光弾が飛んでくるのが見えた。
(あれは…マズイ!!)
ティエラは全速力で走り、地面を蹴って、跳んだ。
次の瞬間、光弾はティエラの後ろの向こう側に着弾し、大爆発を起こした。
着弾したそれぞれの爆心地は、熱により溶け、小さな溶岩湖が形成されている。
溶岩湖は、沸騰し続けている。
(この技は、『幻日』…!間違いない…アイツだ…!)
「上手くかわしたようだな…」
「!!」
突然背後から声がした。
「ソレイユ…!」
「どうやら記憶は取り戻せたようだな。それでもなお、立ち向かうのか?」
「ああ、俺には立ち向かわなければならない道理があるのでな」
「そうか…。ティエラ、お前の周り一帯には熱の”源”がある。…分かるな?」
「隙は与えない、だろ?『日進』…厄介な技だ」
『日進』
超越能力により、『熱』そのものであるソレイユは、1000度以上の熱の”源”に瞬間移動することができる。
彼はいつまでも、熱とともにあるのだ。
ティエラは一手、二手先のソレイユの行動を予測する。
そして…
「ここだッ!」
ティエラがダイヤモンド・ソードをスラッシュした先にはソレイユの首がある。
勝負は決した…かに思えた。
「チッ…!」
ソレイユの首を斬ろうと”触れた”ダイヤモンド・ソードの刀身は、文字通り、”蒸発”してしまった。
(なんてことだ…ここまでとは…!)
「無駄だ。お前のお得意の剣術は俺には通じない。全て、無効だ」
「…ッ!!」
(参ったな…。これは…勝てないかもしれんぞ…)
さっきからソレイユは白く淡い光を発している。
その光はまさに、空に浮かぶ太陽そのもの。
この状態は『ソル・モード』という。
通常物理攻撃を無効化…。ティエラにとっては、あまりにも相性の悪い相手であった。
「フレア・フィスト!」
ソレイユが攻撃に出た。
”太陽の拳”は、次々と周りの物を溶かしていく。
ティエラは、もうよける以外に手段がなかった。
「スペクトル!」
虹色の光線がソレイユから発射される。
それをかわしたティエラの背後では、大爆発が起きていた。
(正直…コイツとはほとんど関わった事が無い。今だけは…コミュ障の自分を恨むぞ…!もっとコイツの能力のことを知っておけば…ここまで…!)
次の瞬間だった。
突然ソレイユの背後に人影が現れた。
「!?」
そして…
「Cutting Edge!」
聞き覚えのある技名。
ソレイユは『日進』でなんとかそれを回避した。
パァンという破裂音とともにその場の空間が”削られる”。
「チッ…!外したか…」
「お前は…!?」
「久しぶりだな、ティエラ。随分と変わったようだが…。いや、”戻った”と言うべきか?」
その男の正体は、東北地方でティエラと激戦を繰り広げた、あのN・ヤスヒロだった。
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