──オフシーズンの海は人もまばらで、寄せては返す波の音だけが響いていた。
「海って、なんか好きなんだよね、俺」
銀河が砂浜を歩きながら言う。
「でも好きなら、オンシーズンの時に来た方がよかったんじゃないの?」
「好きだから、オフの時がいいんだろ…」
そう銀河はぽつっと答えて、
「夏場なんかに来たら、せっかくの綺麗な海も台無しだからな。人だらけで」
足を止めて、泳いでいる人の誰もいない静かに凪いだ海を眺めた。
「そうだね…。私も、人、人、人…の夏の海は、あんまり好きじゃないかも」
「…だろ?」
立ち止まっていた銀河が何気ない素振りで後ろに手を差し出して、少しだけはにかみながらその手を掴んだ……。
波打ち際にザザ…ンと波が押し寄せて、足元の砂浜をさらって引いていく。
「……波の音って、いいよな…」
手を繋いで浅瀬を歩きながら、銀河が呟く。
「うん、いいよね…」
それだけを返すと、もう他に会話はなくて、
だけど何も喋らなくても、不思議と気持ちは通じ合ってる気がした。
時折、裸足で水を跳ね上げるパシャパシャという音だけが、耳につく。
履いていた靴を手にぶら下げて、2人っきりでいつまでも飽きることなく海辺りを歩いた。
……いつしか日が落ちて夕焼けの頃になり、2人で立ちすくんで水平線の向こうに沈む真っ赤な夕日を眺めた。
「……そろそろ帰るか」
「うん……」
繋いだ手を離さないまま、少し先を行く銀河が何も言わずにいるのは、私と同じように、この時間を名残惜しくも感じてるからだと思いたかった……。