クルマの中ではボリュームを抑えた音楽がかかっていて、私はうとうととしていた。
「寝ててもいいぜ?」
「ね、眠くないし…」
慌てて目を拳でこする。
「ふっ…バカだな、おまえは…」
クスリと笑う銀河に、「な…何よっ…」と、ちょっとだけムッとして言い返すと、
「そういう時ぐらい、素直に受け止めればいいだろ。別に寝てるヤツを取って食いやしないし、そうやって気を張ってばっかいないで、隣で気を許して眠ってくれた方が、俺もうれしいしな…」
なだめるようにも話されて、「……うん…」と、小さく頷いて、「ごめんね…」と、付け足した。
「……私、もう少し……素直に、なるね…」
「……ああ」とだけ、銀河が口にして、
私の頭を手の平でふわりと撫でた……。
「……店、着いたぜ」
声をかけられて、瞼を開いた。
こんな風に男の人のそばで落ち着いて休んだようなことはあんまりなくて、彼の車の助手席で無防備にうたた寝をしてしまったことが、なんだかちょっとこそばゆくも感じられるみたいだった。
「すっげぇ気もちよさそうに眠ってたぜ? まぁそれだけ、俺の運転がうまいってことで」
「はいはい」と、苦笑いで応える。相変わらずの彼の軽口は、場の雰囲気を和らげてくれるものだということをなんとなくわかってきていた。
「だけど、寝心地がよかったのは本当だし。今日は、海にも連れてってくれて、ありがとうね」
お礼を言うと、「いいって」と、銀河はやや照れたようにも口にして、店に入るよう促した。
エントランスの大階段を銀河に手を取られて降りて行くと、「ようこそ」と、流星と三日月と天馬の3人が出迎えてくれた──。