episode10 つまらない事
ブライドside
地獄の神?何言ってるんだこいつ
神なんてこの世にいるわけないだろ
「ほらほら!油断してたら死んじゃうよ!」
そう言って彼女は火の剣を振り回してくる
おっと。そうだったな。よそ見している暇は無いんだ
飛んで攻撃してくんの厄介すぎだろこいつ
「正々堂々降りてこい!!」
幸いにも自分の武器は細長いので応戦はできているが……
やはり、人間じゃない者だけあって強い。
反応速度も、身体能力も子供とは思えないくらいだ。
しかも、刃が鉄なので熱に弱い。火の剣を使うあいつとの相性は最悪だ。
「あははっ♩もっと攻撃してよ!逃げてるだけじゃつまんない!!それとも千ちゃんがいないとダメなの?」
「随分と煽るな。子供に負けるはずないだろっ、!と。」
「やっば、ちょっとヘマした!」
とりあえず一撃。
だが、先程と同じくすぐに元に戻る。
「こんな斬り合い、いつまで経っても埒が明かない!」
「そうだ!」
そう言って映矢輝はベルのようなものを持つ
ちりーんと鳴らした後、こう叫んだ
「ウイルスさーん!全員しゅーごー!」
「なっ、!」
まずい。じゃあこっちもあいつ呼ぶか。
「おーい所夜ーしゅうごーう。」
「あ、!えーちゃんずるい!」
「はーい!呼び出てとび出て所夜千夜今まいりました!」
目の前には大量のウイルスと彼女1人。
「所夜。ウイルスの処理は任せたぞ。」
「もちろん。任されました」
さぁ、もう1回戦と行こうじゃないか。
すぐに走り、彼女に向けて刃を刺す。
映矢輝もすぐさま剣を取りだした。だが、さすがの反応速度で対応される。
すぐさまくるりと回してもう一撃。
だが、一筋縄では行きそうにない。
1度距離を取り、周りの状況を確認。
目のいいブライドは1本の木の太い枝が折れそうな事に気がついた。
あれを上手く使えばと感づき、しっかりと武器を握りしめる。
すると映矢輝は何を思ったか、氷の剣を潰して古い魔導書を腰に巻いたショルダーから取りだした。
「犧齆齏蠱繼飂魔寶膿」
謎の呪文を唱えた。
ブライドにはそれをききとることが出来なかった。
なぜならその太い木の枝が一瞬にして折られたからだ。
驚いていると、次にこう唱えた。
「彌嵞齆齏蠱繼飂魔寶膿」
瞬間、森近くにあった湖の水が一斉に空から降りてきた。
すぐさま走って避ける。
彼女が唱えているものは一体何なのだ。
今度は水の泡が一斉に押し寄せる。
それを避けたら今度は木の枝が針のようにとがったものが飛んできた。
それが何度も続き、ブライドを追い詰める。
だが、ブライドそれらを全て切り刻む方法を思い出したのだ。
そう。これは「魔法」だ
昔祖母に聞いた事があった。大昔には魔女狩りがあって、その時焼かれた魔女は不可思議な現象を起こすから近寄るなと。今でも何処かに潜んでいるからと。
驚いた。まさか魔法を使えるものがいるなんて
しっかり目に焼き付けたい気持ちがあったが、刃で切り刻む。
深く息を吸い、高く飛び上がる。
服の内側に隠していた小型のナイフを取り出し、彼女に目掛けて思い切り投げる。
すぐさま降り、足を狙う。片手ではナイフを。片手では武器を。魔法の力に負けないように力いっぱい攻撃する。
動きを極限まで早くし、一瞬で彼女の後ろに回る。
右手を切り裂き、首元にナイフを当てる。
「動いたらお前の首と胴体はおさらばだ。大人しくしろ。」
「あれ?いつの間にこんなに詰められたんだろ、?」
「すごいねぇえーちゃん。あたしの右手を切り裂くなんて。」
「でも、まだまだこっから!」
「なんだと?」
容赦なく首に刃を入れ込む。
だが、彼女は新しい魔導書を取り出しこう唱える
「血齆齏蠱繼飂魔寶膿」
するとパキパキパキと音を立てて、彼女の血が分厚く固まっていく。
まずいと思い刃をぬこうとするが、既に遅かった。
刃は完全に首と血に挟まれてびくともしない。
すぐに手をはなし、映矢輝から距離を取る。
次は血の魔法だと感づき、血が着いている上着をすぐに放り投げる。
やはりその判断は正しかったようで、服どころか地面に付いた血までもが鋭い刀の刃先のようなものへと変化した
彼女はこちらを振り返り、狂気的な笑顔で笑う。
自身の武器であろう斧を振りかざす。
ナイフで受止め、またもや違う方向からの斬撃。
それもナイフで受止める、の繰り返し。防戦だ。
次の攻撃も来ると構え、防御をしようとした。
その途端。
動きが止まり、焦って私から距離をとる。
笑顔が消え、一瞬にして表情が変わる。
笑顔とは真逆。焦り、不安、悲しみ
無意識なのか汗や涙がこぼれており、顔色も青ざめた。
何はともあれこれはチャンス。
再び、先程離した愛武器を握りしめる。
かなり近ずいたはずなのに、反撃どころか気づく気配もない。
ようやく気づいたと思ったら、彼女の首に巻いてあるチョーカーの色が変わった。
可愛らしい桃色から、真っ黒へと。
同時に瞳の色も変わった。深みのある青から、血眼のような赤へと。
しまいには、何も聞こえていないのに天へ向かってこう叫んだ。
「ねぇっ、!許してよ!また頑張るから!今度は油断しない!!失望させないよ!ちゃんと言いつけも守るしっ、!いい子にするから!!許して!!」
「パパっ、!!!」
そういう彼女からは、大粒の涙が零れていた。
引きつった愛想笑い。不気味とも言える笑い方だ。
そして心からの叫び。悲痛とも言えるような、なんとも言えない叫びだった。
流石に、父親に向かっての対応では無い。
流石に幻聴ともなると心配になり、声をかけた。
「おい、大丈夫か。さっきから声なんて」
「えーちゃん……」
「ごめん……逃げて。」
「はぁ?」
その瞬間、映矢輝の上に禍々しい竜巻のようなものが現れた。
普通なら白い竜巻が、青黒く音を立てて映矢輝を飲み込んで行く。
「ゔっ、あ゛あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」
「おい!!」
頭を抱えて座り込み苦しんでいる。幼い幼女にする事じゃないだろ。
あまりの急展開に状況が飲み込めない。
何が起こっているのかも全くだ。
あまりの事態に足が動かない。あれに巻き込まれたら終わりというのは分かっている。
動かないなら、動けないなら切るだけだ。
しっかりと武器を握りしめ、助走を取るため足に力を入れる。
大丈夫。動けていないが怯えてはいない。
後ろからは何やら所夜が叫んでいる。
なんだろな。よく聞こえねえや。
全速力で急所であろう根元へ走り、刃を指す。
硬い。断ち切るのはまず無理だな。
刃を刺し直したり、入れ込んでみるも無駄。
このままなら私だけが攻撃されて死ぬ。
映矢輝をここまで追い詰める存在だ。私一人で片付けられる訳が無い。
でも、きっとあいつとなら。
いや、もう既に一緒か。
「ったく、!何してるんですか!あなたはもう無茶ばっかり!!」
「やっぱり。私の予測はあってたな。」
「馬鹿言ってないでほら!切るんでしょう!?この竜巻!」
「ああ。じゃあ片方は頼んだよ。」
「あーもう!後で恨みかっても知りません!」
恨み?それを言わせないくらいに叩きのめせばいいんだろ?
お前だって、ウイルス跡形もなく殺した癖に。
私には、どんな力だって出せるんだよ。
そうだよな。師匠。
「な、ん……で 逃げて、って……言った、じゃん、」
「逃げてるだけじゃつまんないんだろ。つまらねえ事辞めてやったんだから。しっかりしろ。」