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素早く周囲を見回したレイブがサッサッと動いて草叢(くさむら)の中に蹲(うずくま)っているこんもりとしたモ、ノ、を指差しながらお師匠、バストロに告げた衝撃の言葉はこうである。
「お、お師匠! これ! このチッサイ奴が若しかしてヴノ爺さんじゃぁ無いのかなぁぁ? ねえ、違うぅ? えとぉ、これでしょ! だよね?」
草叢の中程には、大体体高二メートル位で体長四メートル位の獣が蹲っている。
判り易い対比で言うと、小ぶりなペトラの数倍位、所謂(いわゆる)普通の野生の猪っぽい大きさである。
サイズ感こそ雲泥であったが、体毛の色目とか、体と牙のバランス的にはミニチュアのヴノの様に見えなくもない。
「ヴ、ヴノぉ! お、お前一体どうしたって言うんだぁっ、こ、こんなに小さくなっちまってぇっ!」
なるほど…… スリーマンセルを組んでいるバストロがそう断定したのなら、この小ぶりな豚猪(とんちょ)はやっぱりヴノ本人だったようだ。
しかし、大きな声で語りかけられたヴノらしいヤツは返事をする所か、ピクリとした反応すら返してくれはしなかったのだ、耳を澄ましてみれば、呼吸音すら聞こえない有様である、ピンチッ!
最初に見つけ、慎重な観察を続けていたレイブが悲鳴のように叫ぶ。
「ああっ! お師匠っ! 口の脇から例の、あの真っ黒な『靄(もや)』が出ているよぉ! 口の中にまだ傷があるのかもしれないっ! ど、どうしよう!」
たった一つの単眼、左目を一瞬で凝らしたバストロが答える。
「し、舌だっ! 考えてみれば下顎と上顎を貫いたチッターンのナイフが真ん中にある舌を傷つけていない訳が無かったんだぁ! れ、レイブっ! ヴノの口を開けるんだぁ! 俺が舌の傷を抉り取ってみよう、それしか無いぞっ! 急げぇっ!」
「う、うん! よいしょっと! 開けたよ、お師匠?」
「うわぁ、レイブ、アンタの膂力(りょりょく)も凄いわね、子供の頃のバストロ並みじゃないのぉ? アンタ脳筋になっちゃうわよぉ!」
「えっへんっ!」
小さく縮んだとは言え、野生の猪であれば歳経た主レベルの大猪の喰いしばって固まっている顎を容易に開いて見せたレイブの腕力に驚愕の声を上げたフランチェスカであったが、答えた声は随分軽い、少年らしい誇示のみである。
この間にヴノ(縮小版)の口の中を覗き込んでいたバストロは狙いを過(あやま)つ事無く、舌の中央に刻まれた傷跡、勢い良く黒い靄を放出していた諸悪の権化を小指の先を弾いて口の外へと抉り飛ばしたのである。
見事に自分の仕事をやってのけたバストロは大声を発する。
「あー! あああっ! れ、レイブぅっ! 舌が、ヴノの舌がぁっ! 喉の方に向かって丸まってしまうぞっ、おいおいおいぃっ! 掴め、掴んで伸ばしてくれっ! そのままじゃ窒息しちゃうじゃないかぁっ!」
無責任に振られたレイブも必死だ。
「つ、掴んだよ師匠っ! でも出血も凄いよぉ! ここからどうするのぉ!」