私は自分のデスクに座り,書類を淡々と処理していた。
余計な感情は,仕事の邪魔になるだけ。
……はずだった。
「では,こちらの線で進める形になりますんで」
少し離れた会議スペースから聞こえてくる声。
落ち着いていて,低くて,よく通る。
中野 隼人。
さっきまで廊下で欠伸していた男とは思えない。
「この時間帯の防犯カメラ,再確認お願いします。映像,僕の方でまとめますんで」
丁寧で,隙がない。
周囲の視線が自然と集まるのも分かる。
……ほんと,仕事になると別人。
会議が終わり,人が散っていく。
空気が緩んだ,その瞬間。
「はぁ……終わった」
一気に気だるい声。
「切り替え早すぎ」
思わず口にすると,中野は私の方を見て笑った。
「仕事終わったんで」
「さっきまで丁寧だったでしょ」
「仕事中やったからな」
そう言いながら,私のデスクの横に立つ。
……近い。
一歩,さらに近づく。
「……なに」
「恵ってさ」
低くなった声。
自然と,目が合う。
「仕事してる時,綺麗やな」
「……は?」
「真面目な顔」
「からかってる?」
「半分」
「残り半分は」
「本音」
「……仕事中よ。」
「今は仕事終わってる」
「……」
何も言えなくなる私を見て,中野は小さく笑った。
……本当に厄介。






