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強烈な光が発生し、周囲がみるみる明るくなっていく。
そんな光景を、ロンデルは呆然としながら眺めていた。
「これは……」
「うぅ……いきなりでめがイタイぞ……」
突然の明るさに目が慣れておらず、2人とも目を細めながら周囲を見渡す。
パフィも同じように目を細め、悪魔を警戒している。しかしその必要はかなり減っていた。
「悪魔が見えるようになったのよ! 副総長!」
「っ! はい!」
動くためにピアーニャを降ろし、ロンデルは攻撃を開始した。
明るくなったことで悪魔の姿がよく見える。姿が見える悪魔達はパフィ達にとってはそれほど怖くない。問題は足場が狭い事である。
近場の悪魔はパフィが突き落とし、遠くにいる悪魔はロンデルが撃ち落とす。しかし、すぐに1体の悪魔の姿に目を奪われることになった。
「なんかエグいアクマがいるな……」
「あんなのが普段から飛んでると思うと気持ち悪いのよ」
パフィとピアーニャが見ているのは、6本の触手の中心に巨大な赤い目玉のようなモノがある悪魔。そのうち2本は途中で切れている。暗い中でパフィが斬ったモノの正体だった。
光に怯んでいたソレは、目玉を擦るかのように触手を動かした後、左右にフルフルと揺れてから触手を1本振り回した。
「うわっと!! 光に驚いて焦ってるのよ?」
少し焦りつつも、もとより警戒していたパフィは、なんなく薙いできた触手をフォークで刺し止める。そしてそのまま、フォークをクルクルと回し始めた。
触手はフォークにからめとられ、悪魔が一気に引き寄せられる。
「てやっ!」
ある程度引き寄せると、一気に引っ張る。強引に引っ張られた触手の悪魔は、向きを変えながらピアーニャの眼前に滑り込む形となった。
「うわっ! でか! きも! ちか! こわ!」
相変わらずグッタリしているピアーニャが、突然目の前にやってきた自分より大きな目玉に驚いている。
その目玉へパフィのナイフが一閃。渾身の一撃を目玉へと突き立てた。
悪魔は触手を大きく震わせると、黒い塵となって消えていった。
「ふぅ、気持ち悪かったのよ」
「きもちわるすぎるわ! ユメにでそう……」
「こちらも終わりました。悪魔と言うからには妙な力があると警戒していたのですが……」
触手の悪魔を倒したことで、他の悪魔達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行ったのだった。
「大した事無かったのよ」
「いや、ヨルのなかだけでうごいて、スガタがみえないのはじゅうぶんにミョウなチカラだし、キョウイだろ……」
「あぁ」
「なるほど」
ピアーニャの言う事に2人は納得。
暗くて姿が見えない時点で、抵抗する事は難しい。ましてや撃退など不可能に近い。それを可能にしたのは、突然夜を照らした光である。
「さて、おちついたところで、このあかるいのがなんなのかだが……」
何か知っているのではないか?という視線をパフィに向ける。
するとパフィは怯む……事は無く、むしろ嬉しそうに胸を張って言い放つ。
「これはきっと、私のアリエッタが何かしたのよ。昼の時も夜から昼に変わったのよ」
「わたしのとかいうなよ……」
「ほら、さっき向かってた場所に、何か大きな壁みたいなのがあるのよ。行ってみるのよ!」
「わかったわかった」
テンションが上がったパフィをいなし、そのまま目的の場所へと移動を始めた。
2人の後ろでは、ロンデルが周りを見渡している。
「しかし、夜の筈なのにどうみても昼ですね。この山は昼の間でも夜でしたが、真逆の現象になっています」
「アリエッタがラスィーテしゅっしん……はないな」
悪魔に対抗する手段を持つからと理由で、もしかしたらと思ったピアーニャだったが、すぐにそれは自分で否定した。夜を昼に変える事だけを見ればそう考えても仕方ないが、それでは壁が作れるという事を説明出来ないからである。
「はぁ……アイツはいったいなんなんだ……」
「可愛い可愛いアリエッタなのよ」
「そーゆーコトいってるんじゃないっ」
こいつはもうダメだ…と、一旦パフィに聴くのを諦めて目的地を凝視するピアーニャとロンデル。
徐々に近づくにつれ、パフィのテンションもさらに上がっていく。
「アリエッタどこなのよー! ミューゼ返事するのよー!」
「ええいうるさい! アクマがこないからって、キをぬきすぎだ!」
「近接戦闘の腕前は大したものですが、まだまだお若いですね……」
1人盛り上がるパフィ。うんざりするピアーニャ。困った顔のロンデル。
夜だった間とは違い、既に緊張感は一切無くなっていた。
「……ん? パフィの声?」
満天の星空が見えなくなった明るい空の下で、ミューゼが空を見上げた。
「ん~……お昼になったから、そのうち助けに来るかな? 今は動けないし」
そんなミューゼの膝枕で眠るアリエッタ。その寝顔はとても満足気である。
ミューゼが寝ているアリエッタの頬を撫でると、アリエッタはくすぐったそうにした後、その手を摑まえて抱きしめ、嬉しそうな顔をする。
「うっ♡」
一瞬幸せな顔で苦しそうにし、呼吸が乱れる。どうやら致命傷を負ったようだ。口から一筋の涎が零れる。
「何しても可愛いとか、反則よ♡ なんだかもう変な気分になりそう♡」
「おいネエチャン、変な人になってるぞ……」
近くにいた太った男性が、座ったまま少し引いている。
昼になったことで悪魔が逃げて行ったのを見た人達は、特に何かをするでもなく、安心してその場でくつろいでいた。ヒステリックになっていた女性も、どうやって帰ろうかと呟きながら、寝転がっていた。
「それにしても可愛いもんだな。ネエチャンが興奮するのも分かるぜ」
「えっ……変態?」
「違うっ! 俺にも娘がいるからな。素直な奴だが家を出ちまって、たまに帰ってくるし手紙もよこすんだが、今はどうしてるんだかな」
「元気なのが分かってるなら、いいじゃないですか」
単純に子供を見る親の視線であることを理解したミューゼは一安心。
(もしかしてその娘さんも親に似て太ってるとか? だから悪魔に食べられないように逃げたとかだったりして)
「何だ?」
「いえ、なんでも……」
2人はしばらく他愛のない話で盛り上がった。
「アリエッター! ミューゼー!」
のんびりと過ごして少し経った時、やや上から聞こえた名前を呼ぶ声がし、ミューゼは声が聞こえた方向の空を見上げた。
「あっ、あれって総長の? よかったー、助かった……でもなんで?」
空に浮かんでいる『雲塊』を見て、すぐに理解するミューゼ。しかしパフィの声はともかく、何故ここにピアーニャ達がいるのかが分からないでいる。
「おーい! パフィー! 総長ー!」
「……ん?」
横の男性が首を傾げる。しかしその事よりも、これでアリエッタも助けられると安心したミューゼは、降りてくる『雲塊』を眺めながら、アリエッタを撫でていた。
『雲塊』が降りきる前に、1人飛び降りてくる。もちろんパフィである。
パフィは着地すると、小走りでミューゼ達の元へとやってきて……
「……パパ?」
「パフィ?」
「………………えっ?」
太った男性とパフィがお互いを見つめ合い、ミューゼを含めて動きが止まったのだった。
「えっと、パフィ…のパパ?」
「ネエチャン、パフィを知ってるのか?」
「え? おじさんってパフィのお父さん?」
ミューゼはパフィと男性を交互に、パフィはミューゼと『パパ』を交互に、そしてパフィの父親はミューゼとパフィを交互に見る。
3人ともが同じ事をしているのを、少し離れた所からピアーニャ達が苦笑しながら眺めている。そして、この後について話し始めた。
「あいつらなにやってるんだ……」
「面白い事していますね。それよりアリエッタさんが眠っていますが、どうします?」
「……おこさないように、つれてかえりたい」
「まぁ、寝ている子を起こさないようにするのは構いませんが。それよりも、あのパフィの父親達が問題です。放っておく事も出来ませんし、ただ連れて帰っても夜になればまた捕まるのでは?」
「たしかにな」
悪魔は夜に、太った人を連れ去る。だからたとえ連れ帰っても、本人が太っていては何の意味も無い。
以前からここにいる数名をどうするかを考えるが、問題はそれだけではなかった。
「それに、おそらくアリエッタさんの力で明るくなっていますが、ここから離れても明るいままなのでしょうか?」
「うああ! アリエッタ、ややこしいヤツめ!」
アリエッタがラスィーテに来た事から始まり、悪魔に攫われる事も、夜を照らす事も、それが悪魔に対して有効である事も、何もかもが想定外過ぎて、人生経験豊富なピアーニャでも手に余っている状態である。しかもその不思議で強力な力故に、放っておくことも出来ない。
離れれば非常に気になり、近づけば妹扱いから逃れられないという、ピアーニャにとって正に厄災とも言える存在であった。
2人は『雲塊』から降り、ミューゼとアリエッタの元へと歩いていく。その間に、パフィが父親を叱りつけ始めていた。
「ところでパパ? あれだけ痩せてって言っておいたのよ。なんでまだ太ってるのよ?」
「う……これはその……」
「悪魔に食べられるって言ったのよ。本当に食べられる寸前だったのよ。」
「……はい」
「また食べてゴロゴロしてたのよ?」
「……はい」
「はぁ……どうするのよ。これじゃ生きてるって分かっただけで連れて帰れないのよ」
「……はい」
「『はい』じゃないのよっ!」
大きい体でだんだん縮こまっていく父親に、容赦なく説教をしていく娘。そんな光景を、アリエッタの頭を撫でながら困った顔で眺めているミューゼだったが、近づいてくるピアーニャ達を見て挨拶をする。
「総長に副総長。こんにちは?こんばんは? 何故ここに?」
「はは、夜なのに昼の様に明るいですから混乱しますね」
ロンデルは、橋が無くなりアリエッタが巻き込まれている事を考えラスィーテに来た事、パフィを連れて2人を助けに来た事を説明した。
「助けに来た時に、いきなり明るくなったのですが、一体何が起こったのでしょうか?」
「あぁ、これのせいですね」
ミューゼが横を見ると、釣られて2人もその方向を見る。
「これは……」
2人は同時に絶句。
ミューゼの横にある壁。そこには太陽と雲のある空の絵が、紙よりもずっと大きく描かれていた。