任務に出向いた時の事だった。
あの夜、戦っている最中俺は突如として後ろから来た攻撃を避け切れず禰󠄀豆子が俺を庇って怪我を負ってしまった。
「禰󠄀豆子っ!」
俺は倒れ込んでしまった禰󠄀豆子の腕を必死に固定する。
普通の鬼とは違うからか違い傷の治りが遅い。今にも腕は千切れそうなのに。禰󠄀豆子の腕を必死に腕をくっ付ける中鬼の血鬼術により体が麻痺して動かなくなってしまう。
どうしよう。どうしよう。これじゃあ鬼を斬れない。禰󠄀豆子を守れない。
俺はせめて禰󠄀豆子だけでもと覚悟を決め目を瞑った時の事だった。
「水の呼吸 一の型 水面斬り」
綺麗な剣舞と共に翠色の刀が鬼の首を飛ばす。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。助かりました…」
危機を免れた事で俺は助けてくれた人に礼を言う。俺を助けてくれた人の匂いは何処か優しく爽やかでそして安堵の香りがした。
顔には出していないだけで俺の事を助ける時に少しばかり緊張していたのだろう。先程、一瞬風で浮いた時に前髪の隙間から見えた瞳がとても綺麗だった。
「…おや?君が抱えてるその子はもしかして鬼ですか?」
そう言われて初めて禰󠄀豆子を抱き締めたままだという事に気が付く。
どうしよう。初めてあった人だし禰󠄀豆子が人を食わない事を知らないだろうからこのままだと斬られてしまうかもしれない。
「この子は俺の妹でそれで!鬼なんですけど、人を食わなくてっ!!」
「大丈夫ですから落ち着いて下さい。そんなに呼吸を荒げてしまっては全集中による止血が止まってしまいますよ」
読めない表情で淡々と告げたその人は俺に近付くと禰󠄀豆子に顔を近付ける。危害を加えられると思ったのか禰󠄀豆子が警戒した様な表情で睨み付ける。しかし、その人は持っていた刀を横に置くとしゃがみ込み寧ろ労わる様に鬼の攻撃で禰󠄀豆子の額に付いてしまった切り傷に懐から出した手拭いをあてた。
「痛かったですね、。鬼とはいえ君も女の子なんですから自分の事をもっと大事にして下さい。ただ、お兄さんを守る姿は立派でしたよ。耳飾りの君も傷が深いので無理に立ち上がらないで下さいね」
心配げな表情で此方を労わるその人の様子に俺と禰󠄀豆子は驚いた様に目を見開く。
初めてだった。鬼を連れている時点で隊立違反だという事は分かっているだろうに、それなのに禰󠄀豆子を斬るどころか労わってくれたのは。
俺は感激して思わず涙を流してしまった。
「泣いてます!??!僕何かやらかしてしまいましたか!?」
「……くすっ」
泣く俺を見てあわあわと慌てるその人の様子に俺は思わず笑ってしまう。その人は俺の笑った姿に少し目を見開いた後安心した様に優しく微笑んだ。
結局、その人のご好意に甘え俺と禰󠄀豆子は藤の家紋の家まで送ってもらう事となった。
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助けてくれたその人とはそれは沢山の話をした。
鬼殺隊に入った経緯、今まで戦った鬼の事、そして禰󠄀豆子の事など。
「あの、貴方のお名前はなんと言うんですか?」
俺は夜道を歩きながら禰󠄀豆子と手を繋いでいるその人に問いかけた。
その人は自身に懐く様に甘える禰󠄀豆子を見つめながら答えた。
「…名乗る程の者じゃありませんよ。それより、傷の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫です!貴方が手当をして下さったので!!」
俺は丁寧に包帯で巻かれた腕や体を隊服越しに触れる。
先程山を出る際禰󠄀豆子も俺も傷の手当をしてもらったのだ。助けてもらった上に傷の手当てまでしてくれて…本当に優しい人だ。
「君は優しい人です。きっとその優しさは君の強さにもなり得る。だから、どうか心を忘れずにこれからも頑張って下さいね。ほんと、君を見るとあの人を思い出さずにはいられませんね…」
何処か懐かしむ様にそう呟くとその人は俺の頭を撫でてくれた。
その手つきが、匂いがあまりにも優しいもので。亡き母親に撫でられている様な感覚におちいる。
恐らくこの人が想ってる人は俺にとってに禰󠄀豆子みたいな人なんだろうな、そんな事を思いながら俺の前髪の隙間から見えるその人の綺麗な瞳を見つめた。
「着きましたよ。では、此処でお別れです」
藤の家紋が付く家の前、その人は静かにそう呟くとゆっくりと禰󠄀豆子から手を離す。
禰󠄀豆子は余程気に入ってと離れたくないのか眉を下げその人の刀と同じ翠色の羽織の裾をひく。
「…また会えますよ。その時にまた話しましょうね、では」
その人はそう言って最後に俺と禰󠄀豆子を見て頭を優しく撫でると一瞬にして煙の様に消えてしまった。
あの後、俺達の傷は1日も満たない程の時間で治り家主達に驚かれてしまった。あの人が包帯をする前に塗ってくれた薬の影響だろうか。
何方にせよ、今度また会った時はお礼をしよう俺はそんな事を思いながら眠りについた。
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「鬼殺隊として、人を守るために戦えるゥ?そんなことはなァ…ありえねえんだよ、馬鹿がァ!」
俺と禰󠄀豆子の処罰について開かれた柱合会議で、禰󠄀豆子を刺そうとした風柱である不死川実弥であったがその行為は突如として現れた謎の人物に止められる事となる。
「この箱は返して貰うな」
現れたのは狐の面をしたつややかな黒髪に薄青色の羽織を羽織った人物だった。
突如として現れ、風柱から箱を奪った人物に驚く炭治郎だったがその人物は箱を労わる様に優しく目の前に置くと口を開いた。
「君が二子が言ってた子か。うん、似てるって言ってたのはよく分からないけど良い子って事は確かだな」
「二子、?」
そんな人に会った事はあっただろうか。
動かぬ体でそんな事を考えながら禰󠄀豆子を取り戻してくれたお礼を伝えようとすると突如として鬼殺隊の本拠地である産屋敷に現れた謎の人物の首筋に義勇さんを含めた柱達全員が刃を向ける。
「お前、一体何物だ。現れるまで気配を感じなかった」
音柱で元忍である宇髄天元は謎の人物に警戒の目を向けながら問いかける。
だが、警戒している態度に対してその人物はまるで気にしていない様に面の端から笑みを浮かべる。
「んー、何て言ったら良いのかな?ま、1つ言いたいのは俺はこの子達の味方って事かな」
炭治郎を見てそう呟く謎の人物に柱達の警戒が尚強まるのが分かる。
「鬼を庇うってことはァ、コイツは敵って認識で問題ないよァ?」
風柱は先程よりも凶悪な笑みを浮かべ謎の人物に1番先に斬りかかる。
だが、その人物はまるで蝶の様に軽やかに飛び上がり斬撃を全て避けきり、反撃というふうにその人物が風柱に蹴りかかろうとしたその時だった。ピリピリとした空気を切り裂く様に酷く静かな声が響き渡った。
「お館様のお成りです」
コメント
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えっ二子ってことはもしかしてダブル花江が話してたってことですか!?!(違ったらすんません!)やっぱ翠さんの作品は言葉選びが綺麗ですっごく読みやすいです!次回も楽しみにしてます💓