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次の日、倫太郎は会合に行った先で、斑目と出会った。
会合が終わって、上から下りてきたときに、営業で訪れていたらしい斑目がにこやかに受付嬢と話していたのだ。
「倫太郎」
と逃げようとした倫太郎の前に立ちはだかり、斑目は笑顔で言ってくる。
「やあ、すまんすまん。
ちょっと忙しくて、まだ、お前の悪評を広めてない」
「いや、別に広めてくれなくていいんだが……」
と言いかけると、
「そういえば、この間、あの子がなにか言ってたな」
と斑目が言う。
「あの子?」
「ほら、お前の彼女の」
今日は脅すつもりがないせいか、愛人とは言わずに、そう言ってきた。
「壱花か。
彼女じゃない。
仕事終わりにみんなで、うちで呑んだだけだ」
と倫太郎は適当なことを言ってごまかそうとした。
「ほんとうに彼女じゃないのか?
もったいないぞ」
と眉をひそめたあとで、
「いや、やっぱり、そんなことないだろう。
あんな可愛かったら、俺なら立場を利用して付き合うぞ」
と言い出す。
「……つくづく最低な奴だな、斑目」
と言いながらも、いまいちこの友人のことは憎めない。
明け透けにおのれの願望を語ってくるが、その分、裏がないので。
なにを言われても、いろいろ勘ぐったりしなくていいからだろうかな……、
と倫太郎は思っていた。
「いや、その彼女が言ってたじゃないか。
お前、俺を置いて、駄菓子屋に行ってたって」
「だから、置いてってない。
帰る方向が違ったんだろ」
と言いながら考える。
あのとき、こいつがいたら、こいつの方が余計なこと言って、店長になってたかもな、と。
まあ、そしたら、壱花と並んで店にいるのは、こいつだったかもしれないわけだが――。
「まだあるのか? その駄菓子屋。
今度連れてけよ」
俺だけ行ったことないの、悔しいから、と斑目は言う。
「……あるが、疲れてるやつしか入店できない」
「なんだ、その入店基準。
くたびれたスーツがドレスコードとか?」
とちょっと笑って斑目が訊いてくるので、
「そうだ。
受付嬢とチャラチャラしてないで疲れてこい。
話はそれからだ」
と言って、倫太郎は、さっさと玄関ロビーを出て行った。